特別講演1
創設者の理念の持続的追求
  ―成長戦略と変革の実践
財団法人 倉敷中央病院 副理事長
相田 俊夫(あいだ としお)
当院は1923年に創立され、「世界水準の医療を地域に」を基本理念とし、創設以来、病院らしくない病院をモットーに、患者本位の医療を追求してきた。そしてこの間、医療環境の変化に伴い、第1期(創設期)、第2期(量的拡大期)、第3期(急性期中心)とギアチェンジを行ってきた。そして今、今後続く高齢患者増の大きな波に対応しつつ、来るべき第4期(人口減によるダウンサイジング期)へのギアチェンジを見据えている。
創設者は「現状に満足することは退歩の第一歩」と当院職員に語りかけてきたが、今もこれを経営行動のよりどころとしている。ここ10年、第3期のギアチェンジのもと、すべての利益(キャッシュフロー)を集中的に急性期医療中心の設備投資と人材確保に投入し、医療の質の向上を通じ、患者満足、地域医療機関満足を確保し、ひいては患者増による収入増、そして利益増(将来費用の原資)となり、さらにそれを投資するといった、成長による順回転、すなわち拡大再生産を果たしてきた。
医療人にとって一般的に効率、コスト、管理、経営、利益等はキライな言葉であったが、医療環境が厳しくなったこともあり、ここ5年キライだった(・・・・・)と、過去形の言葉になりつつある。もちろん医療の目的は利益でなく医療の質の追求であり、地域住民に求められる医療をキレ目なく提供していくことである。今や理屈や理念の段階でなく、医療人各職種による実践として医療人モデルに経済人モデルが取り込まれる変革の時期にあるといえる。
リーダーには変革に向けた理想主義、構想力、現実分析力や情熱が求められるが、現状否定を含んだ構造変化である変革は、決断の後、多くの管理職を含む従業員との共働が必要となる。リーダーはこのことを見据え、日々の業務遂行の中で従業員の信頼を得るべく努力していくことが、変革の成否を握ることを認識する必要がある。 しかし一方、創設者は「伝える普遍の理念はない」とも言っている。このように語りかけられると急に目標を見失ってしまう様にも感じるが、この病院をその時代その時代背負うものが、その時代の創造者でなければならないとの意味であると解する。創造力の発揮こそ最大のキーワードであることを認識しつつ、中期計画を一歩一歩実行する中で、創設以来追求してきたすばらしい病院にむかって、泥臭く努力している毎日である。