教育講演3
知っておきたい! がんのリハビリテーション
慶應義塾大学 医学部
リハビリテーション医学教室
辻 哲也(つじ てつや)
人口の高齢化とともに、がん罹患者数は年々増加傾向にあり、2003年に298万人であったがん生存者は、2015年には533万人に達し、ピークを迎えると予測されている。がんが「不治の病」であった時代から、いまや「がんと共存」する時代になってきたといえる。がん患者にとっては、がん自体に対する不安とともに、がんの直接的影響やがん治療により起こりうる身体障害に対する不安は同じくらい大きいことから、がん医療におけるリハビリの積極的な取り組みが必要とされている。しかし、わが国のがん医療では治癒を目指した治療からQOL を重視したケアまで、切れ目のない支援体制はいまだ十分に確立されていないのが現状である。がんの進行もしくはその治療の過程では身体に様々な障害が生じ、歩行や日常生活活動(ADL)に制限を生じ、QOL 低下をきたすおそれがある。例えば、脳や脊髄腫瘍による四肢の麻痺、食道がんや肺がんなどで開胸開腹術後の呼吸合併症、舌がん術後の嚥下・構音障害、喉頭摘出後の失声、乳がん術後の肩の運動障害や上肢リンパ浮腫、婦人科がん術後の下肢リンパ浮腫、抗がん剤や放射線治療中・後の安静臥床による体力低下などがある。リハビリは、がん治療開始後に合併症が出てから始めるのではなく、治療開始前から「予防的リハビリ」を開始する。治療が始まったら引き続き、「回復的リハビリ」を行い、後遺症を最小限にして、スムーズに治療前の生活に戻れるように支援を行う。がんが進行していたり、再発して骨に転移したりした場合は、がんの治療とともにQOLを落とさないようにする「維持的・緩和的リハビリ」を行う。最近は、外来で治療を受けることも増えてきているが、通院で疲労することも多く、それを克服するためにも体操や散歩を行うなどして、なるべく体を動かして体力をつけ、元気に過ごせる時間を延ばすことが大切である。がんが進行し、徐々に全身の機能が低下していく時期には、緩和的リハビリとして患者さんの要望を大切にする。例えば、麻痺があっても「歩きたい、トイレに自分で行きたい」という場合には、杖や歩行器などの補助具を利用したり、起き上がり方や車椅子へ乗り移り方など、動作のコツを指導する。本講演ではがん医療におけるリハビリテーションの重要性を理解を深めていただくために、がんのリハビリテーションの概要、クリニカルパス作成の方策も交えながら、原発巣や治療目的別の実際の取り組み方、緩和医療における役割等についてお話しする。