教育講演5
知っておきたい「診療ガイドラインと
クオリティ・インディケータ」の動向
聖路加国際病院 院長
福井 次矢(ふくい つぐや)
診療ガイドラインは、“研究の成果(エビデンス)を知った上で、医療現場の状況や患者に特有の病状・意向に配慮して行う医療”(= Evidence-based Medicine:EBM)の実践を促すために作成される。そのような「エビデンスに基づいた診療ガイドライン」を用いることで、医師の診療内容や患者アウトカムが改善することを実証した研究報告は多い。
一方、診療ガイドラインが整備され、最新のエビデンスに関する情報が簡単に入手可能となっても、実際にはエビデンスに基づく診療が行われていない診療場面も少なくないことも、以前から指摘されているところである。エビデンスに基づく医療を保証するためには、まずエビデンスと実際に行われている診療との乖離(EvidencepracticeGap)を知る必要がある。そのような乖離を測定し公開することで、組織としても医師個人としても、診療内容を改善する必要性と目標が明らかとなり、改善に向けて強く動機付けされる。エビデンスと診療との乖離の有無・程度を示す指標をクオリティ・インディケータ(Quality Indicator:QI)という。
聖路加国際病院では、2004年以降の電子カルテデータを用いて、毎年100程度のQIを測定・公開し、その改善を病院の年次目標に掲げ、毎月、数値の推移を見ながらさまざまな対応策を講じてきた。例えば、各年ごとに、3ヶ月間以上当院にて血糖降下薬を処方されている患者のうち、最後に測ったHbA1c が目標値の7.0% 未満を達成している患者の割合は、2004年の46%から最近の60% 前後へと著しく改善した。当院で測定・公開してきたQI の約75% は著しく改善してきている。
2010年度になって、厚生労働省の事業として、多数の病院でのQI の測定・公開が促されることとなった。
今後は、EBMを推進するための診療ガイドライン作成、その実践のツールとしてのクリニカルパスの作成、診療内容やその結果である患者アウトカムを示すQI の測定・公開、そうして、その結果を診療ガイドラインやクリニカルパスの改訂につなげるという改善のためのサイクルが多くの病院で実践されることになるであろう。