教育セミナー1 【ベーシックコース1】
クリニカルパスの基礎
済生会熊本病院 院長
副島 秀久(そえじま ひでひさ)
【歴史】クリニカルパス(以下パス)の歴史は1980年代のアメリカに始まる。カレン・ザンダーが開発しケアマップは医療の工程を時系列に表し、各職種の仕事を整理して表にすることで標準化とチーム医療を具現化した。折しも米国でDRG/PPS(診断群による包括払い)の制度が導入され、医療管理のツールとして普及した。日本では1990年代に紹介され、90年代半ばから急性期病院を中心に普及し始めた。とくにアウトカム志向のパスは単なる予定表から医療工程や質の管理を可能にし、DPCの導入とともに急性期病院の8割以上がパスを導入した。
【基本概念】パスの本質的な価値は従来の医療管理にはなかったバリアンスという概念である。すなわち目標管理としてのアウトカムと、アウトカムが達成されなかった場合のバリアンスは表裏一体の関係にあり、この臨床上の失敗とも言えるバリアンスを分析し、その結果から得られた改善を現場にフィードバックすることでより質の高い医療が期待できる。パス活動は病院組織全体の質改善運動とも言え、継続的、組織的にPDCA サイクルを回し続けなければならない。
【基本的なパス用語の解説】アウトカムはタスク(医療者の仕事)と患者アウトカムに分けられる。タスクは検査や投薬、手術など日々の仕事で従来は指示表(指示簿)に無原則に書かれていた。患者アウトカムは患者状態、日常動作・生活動作・リハビリ、知識・理解・教育に分けられ、それぞれ患者の望ましい状態をアウトカムとして設定する。アウトカムが達成されない時をバリアンスという。バリアンスの判定を行う為にいくつかの指標(アセスメント)を設定し、これに基づいて客観的な評価を行う。クリティカル・インディケーターはアウトカムの中でも治療の成否を左右する重要なものを言う。
【パスと記録】医療記録は単なる事実の記載から質に関する情報をいかに効率よく収集できる記録体系へと模索が続いている。オーバービューパスや日めくり記録など紙を基本としたパスの記録法は便利であるが、そのままの形での電子化はむずかしい。一方で電子カルテはオーダーや医事会計から発展してきたが、パスが導入されることによりバリアンスを集める手法、さらに解析する手法などが工夫されつつある。アウトカムマスターの作成も電子的にバリアンスを集めるための工夫のひとつである。電子化の方向性についても解説を加える。