日本産業衛生学会 中国地方会
地方会ニュース 第47号(令和8年7月)
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暉峻義等先生を語る

岡山産業保健総合支援センター相談員
新見公立大学非常勤講師
福岡 悦⼦
 岡山大学公衆衛生学の神田秀幸教授(中国地方会会長)から中国地方会のニュースレターに暉峻義等先生(てるおかぎとう。以下、暉峻さん)について寄稿の依頼をいただきました。 NTTの産業保健師を経て2004年(平成16年)に短大の教員となりました。産業保健を教える立場になって初めて、その学問の発祥が、私の生まれ育った倉敷にあることを知ったのです。教える立場になったからこそ、この地への思いはいっそう深まっていきました。産業衛生の発祥の地・倉敷と、その礎を築いた暉峻さんについて綴ることは、たいへん光栄なことです。

大原孫三郎さんとの出会い 
 私が産業保健師をしていた90年代のこと、海外のお客様を大原美術館へ案内する機会が数回ありました。私自身、倉敷の生まれ育ちで、大原家にはどこか親しみを抱いておりました。亡き母にその話をした折、母が若い頃倉敷美観地区にある「みどり御殿」と呼ばれるお屋敷で働いていたことがあると聞きました。倉敷紡績の経営者・大原孫三郎さん(以下、大原さん)が、病弱な奥様のために建てられたお屋敷です。戦時中のことでしょうか。それが、私が大原さんに関心を持つきっかけでした。
 調べていくうちに、当時の女工さんが裸電球のもとで非常に劣悪な環境下に置かれていたこと、そしてそれを大原さんが何とかしたいと願っていたことを知り、何と先見的な考えだろうと驚かされました。

倉敷労働科学研究所の誕生 
 大原さんは、女工さんの心理的・生理学的な負担を研究し、労働環境を改善したいと考えていました。そこで力を得たのが、当時、東京帝国大学の若き医師であった暉峻さん(生理学)です。1920年(大正9年)2月、大原さんは暉峻さんと共に紡績工場に赴きました。社長である大原さんが突然現れたため、工場は大騒ぎになったといいます。今でいう職場巡視です。これを機に、暉峻さんは大原さんと共に研究を進めることになりました。
 暉峻さんは昼夜交代勤務による疲労の調査などに取り組み、桐原葆見(しげみ。心理学。後に労研所長。日本女子大教授)、石川知福(ともよし。衛生学。後の東京帝国大学初代公衆衛生学教授)らと共に1921年(大正10年)7月1日倉敷労働科学研究所を創立しました。同研究所は2021年に創立100周年を迎えています。機関紙「労働科学研究」(現労働科学)第1巻第1号は1924年(大正13年)創刊されました。

工場法と産業衛生の発祥
 我が国の工場法は1911年(明治44年)に制定されましたが、施行は5年後の1916年(大正5年)。まさに生みの苦しみを経てできた法律でした。若い頃、産業保健の研修会で「工場法」という言葉を幾度も耳にしましたが、その重みを本当に実感したのは、自分が教員になってからのことです。
 工場法は1923年(大正12年)に改正されました。私は、倉敷労働科学研究所による交代勤務の研究成果が、この法改正に少なからず関わっていたのではないかと考えています。
 そして1929年(昭和4年)、第1回産業衛生協議会が開催されました。学会長は暉峻さんです。まさに、ここに産業衛生の発祥があります。暉峻さんはその後も、第11回から第13回、第16回、第21回と学会長を務められました。

いまに受け継がれるもの
 2014年(平成26年)5月、岡山で第87回日本産業衛生学会が開催されることになった折、私は学会長の荻野景規教授と共に、川崎にあった労働科学研究所を訪ね、酒井一博所長にご挨拶に伺いました。案内された労研の図書館には解体新書の写しをはじめ古い書物が数多く並んでいました。ドイツ留学中であった暉峻さんがゲッチンゲン医学古典文庫の価値を見出し、大原さんの援助で購入することができました。この文庫の購入について、暉峻さんが大原さんに宛てた手紙も残されています。同文庫は1922年に購入され、1999年に倉敷中央病院創立75周年記念事業の一環として移管され大切に収蔵されています。
 酒井所長とは、それ以前からご縁がありました。2001年(平成13年)5月、岡山県産業看護部会研修会の講師をお願いし、翌日には数人の部会員と共に旧閑谷学校へご案内して、カキおこ(カキのお好み焼き)を一緒にいただいたことも、懐かしい思い出です。

暉峻さんの言葉
 最後に、暉峻さん自身が深夜の紡績工場を大原さんと訪れた時に9歳10歳の女工さんを見て語った言葉を紹介します。「大原さんが工場を歩きながら熱く語る様子に、暉峻さんが心を動かされた場面です。」
女工さんは9歳、10歳で3分の1は眠っている。紡績のリング機械が高く、目のところにリングのスピンドルがある。もうもうとえらいほこり…見えやしない。もうまるで霧の世界に入ったようで2メートル先はほとんど見えない。電灯の光はぼんやりとしている。そこへもってきて加湿している。(中略)それは人工の紡績という生産事業場ではあるけれどもまるで牢獄ですね。(中略)歩きながら真剣に語り続けるものだから僕も感動してしまって、「大原さん、やりましょう!ここへきてやりましょう!」というところにきたわけです。
 この一節が私の心に最も深く残っています。劣悪な現場を前に「やりましょう」と立ち上がった二人の志が、倉敷から始まり、今日の産業衛生へと受け継がれている。そのことをこの11月に倉敷で開かれる全国協議会であらためて噛みしめたいと思います。

参考資料
 産業看護の国際交流 岡山県産業看護部会のあゆみ 2009年2月28日
 有鄰館主催の第59回大原孫三郎・總一郎記念講演会資料 2014年7月29日
 労働の科学 76巻第12号 2021年
 第97回日本産業衛生学会 第66巻臨時増刊号 産業衛生学雑誌 2024年5月
第36回⽇本産業衛⽣学会全国協議会 (倉敷)ご案内
第36回日本産業衛生学会全国協議会
参加登録・演題募集開始のご案内
― 倉敷の産業文化とともに、皆さまをお迎えする準備を進めています ―
第36回日本産業衛生学会全国協議会 企画運営委員長
伊藤 達男
川崎医科大学 衛生学
中国地方会の皆さまへ
第36回日本産業衛生学会全国協議会を、2026年11月5日(木)から7日(土)まで、岡山県倉敷市にて開催いたします。会場は、倉敷市民会館、倉敷市芸文館、倉敷アイビースクエアを中心に準備を進めております。日頃より中国地方会の皆さまには、本大会の準備に多大なるご支援とご助言を賜っておりますこと、心より御礼申し上げます。
本大会のテーマは、「ここから始まった感謝の旅路 想いを胸に皆で集いあう」です。倉敷は、倉敷紡績に代表される近代産業の発展、倉敷労働科学研究所に象徴される労働科学の歩み、そして働く人の健康を守るための実践と学術が結びついてきた土地です。この地で全国協議会を開催できることは、産業衛生の原点の一つに立ち返り、先人たちの志を次世代へつなぐ貴重な機会であると受け止めております。
現在、大会ホームページでは、参加登録、一般演題登録、自由集会申込、実地研修、懇親会、宿泊等に関する案内を開始しております。自由集会申込は7月10日(金)、一般演題登録は7月21日(火)正午、前期参加登録は8月19日(水)までとなっております。中国地方会の皆さまにおかれましては、ぜひご参加、ご発表をご検討いただき、各職域・地域の皆さま、若手の先生方にも広くお声がけいただけますと幸いです。
(HP: https://www.kwcs.jp/sanei-kyogikai2026/)

倉敷大会では、産業医、産業保健看護職、産業衛生技術職、産業歯科保健職をはじめ、産業保健に関わる多職種が集い、現場に根ざした知見を共有する場を目指しております。化学物質管理、個人ばく露測定、暑熱・騒音・転倒予防、治療と仕事の両立支援、中小企業の産業保健、メンタルヘルス、働き方の多様化、デジタル技術の活用など、現在の産業保健現場が直面する幅広い課題について、実践的な議論を深めてまいりたいと考えております。
また、倉敷大会にお越しいただく皆さまには、学術交流だけでなく、この土地が育んできた産業と労働の歴史にも触れていただきたいと願っております。倉敷美観地区に加え、児島には「国産ジーンズ発祥の地」として知られる児島ジーンズストリートがあります。旧野﨑家住宅周辺から続く通りには、地元ジーンズメーカーや関連店が軒を連ね、児島に受け継がれてきた繊維と縫製の技術を、現在のものづくりとして体感することができます。
児島の繊維産業は、綿花栽培、織物、足袋づくり、学生服、作業服へと連なる長い歴史の上に発展してきました。倉敷紡績に始まる近代産業、倉敷労働科学研究所に象徴される労働科学、そして児島に受け継がれる繊維と縫製の技術は、いずれも倉敷という地域の産業文化の中で深く結びついています。
全国協議会で倉敷に集うことは、単に学会に参加するだけでなく、産業と労働、地域と健康、歴史と未来をあらためて考える機会でもあります。実地研修や各種プログラムに加え、会期前後には倉敷・児島の街にも足を延ばしていただき、この地ならではの産業文化の厚みを感じていただければ幸いです。
なお、会期は岡山マラソンと近接しており、周辺宿泊施設の混雑が予想されます。ご宿泊を予定される方は、早めのご確認・ご手配をお願いいたします。大会の最新情報は、大会ホームページのほか、公式X・LINEでも順次お知らせしてまいります。

中国地方会の皆さまのお力なくして、倉敷大会の成功はありません。全国からお越しくださる皆さまに「倉敷で開催されてよかった」と感じていただけるよう、企画運営委員会、実行委員会、事務局一同、感謝の気持ちを胸に準備を進めてまいります。
2026年11月、倉敷の地で皆さまとお目にかかれますことを心より楽しみにしております。引き続き、ご指導ご支援のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

写真:児島ジーンズストリートと児島デニムの一例。旧式のシャトル織機でゆっくり織られた「赤耳」デニムは、生地の風合いや色落ちに独特の表情があり、児島のものづくりの魅力を感じさせます。
第99回⽇本産業衛⽣学会(⼤阪)ご報告
第99回日本産業衛生学会(大阪)開催報告






   

企画運営委員長 
林  朝茂
大阪公立大学大学院医学研究科産業医学


森口 次郎
森口産業医事務所
 第99回日本産業衛生学会は、2026年5月27日から30日まで大阪国際会議場で開催され、6月23日からオンデマンド配信も開始いたしました。本学会は「すべての働く人への産業保健―実践と学術の協働で挑む―」をテーマに掲げ、産業保健の対象と方法を問い直す機会となりました。参加登録者数は約7,000人に達し、会場では活発な討論と交流がみられ、盛況のうちに終了いたしました。
 本学会の特徴の一つは、53年ぶりとなる企画運営委員長2名体制を採用したことです。実践と学術の双方の視点を取り入れるとともに、企画運営委員会主導で多くのシンポジウムや教育講演を企画し、学会として優先的に議論すべき課題を明確にし、一貫したメッセージ性を持つプログラム構成を目指しました。
 テーマである「すべての働く人への産業保健」を具体化するため、フリーランスや一人親方など就業形態にも焦点を当てました。これらの企画は、教育講演6、メインシンポジウム2、地域交流集会で取り上げ、産業保健の対象をより広い就業実態へと広げる契機になったと考えております。
 学術面では、産業保健実務に直結する疫学的エビデンスの重要性を示すことに力を注ぎました。メインシンポジウム1、3、5では、日本人における生活習慣病発症予防に関する知見を中心に、家庭血圧、2型糖尿病、がん、循環器疾患、運動、飲酒、喫煙、肥満を取り上げ、質の高い疫学的根拠に基づく判断の重要性を共有しました。
 さらに、本学会では初の試みとしてInternational Session(一般演題英語セッション)を実施いたしました。当初予定の4倍に及ぶ約50演題が集まり、英語による発表と質疑を通じて活発な討論が交わされました。加えて、国際特別講演としてEdward J. Boyko先生、David Koh先生をお迎えし、世界的視野から日本の産業保健を捉え直す貴重な機会となりました。
 この他、企画運営委員長企画として、復職・就業措置の判断に難渋する事例検討会を3日連続で実施いたしました。経験豊富な専属産業医にそれぞれ独自の視点から企画を立案いただき、異なる視点や判断プロセスを共有する場となりました。
 糖尿病、高血圧症、脂質異常症、慢性腎臓病、虚血性心疾患など、産業保健の実践に必要な臨床知識のアップデートを目的とした教育講演も配置しました。産業衛生学会としては比較的臨床色の強い内容でしたが、いずれも多くの参加者を集めました。
 加えて、依存症を個人の問題にとどめず、職場や社会全体で捉え直すべき課題として位置づけたことも今回の特徴でした。山口達也氏をお招きした特別企画、教育講演4、スポンサードセッションを通じて、依存症の本質、飲酒とアルコール依存症、孤独、回復支援をめぐる課題を多面的に取り上げました。
 第99回日本産業衛生学会は、対象の拡張、実践と学術の接続、国際発信の推進、社会課題への応答を同時に進めた学会であったと総括しております。多くの皆様のご参画とご支援により、次の100回大会へとつながる一歩を刻むことができました。心より感謝申し上げます。本学会で得られた成果と課題が、今後の学会活動と産業保健実践に活かされることを期待しております。
第100回記念日本産業衛生学会(北九州)のご案内



企画運営委員長
堀江 正知
産業医科大学
 第100回記念日本産業衛生学会は、令和9年(2027年)5月26日(水)~29日(土)に、中国地方に隣接する北九州市で開催されます。JR小倉駅新幹線口(北口)から動く歩道で5分の北九州メッセと北九州国際会議場が主な会場です。1929年の第1回産業衛生協議会(日本産業衛生学会の前身)が倉敷労働科学研究所で開催され、爾後、戦時中の中断や年2回開催の時期を経て、第100回を迎えます。揺籃の地である中国地方において、長年にわたり産業衛生学の発展を支えてこられた会員の皆様に、深く敬意を表します。大会のメインテーマは、「変わる職場、変わらぬ使命 ―産業衛生100回大会からの挑戦―」としました。歴史を踏まえつつ未来への挑戦を示す主題として位置づけています。大会の企画運営委員会は堀江正知を委員長として、実行委員会の江口尚、プログラム委員会の宮内博幸・上野晋・中谷淳子・谷口奈央、広報委員会の丸山崇、財務委員会の井上彰臣、事務局の永野千景を中心に組織しています。
 これまで本学会は、産業中毒、熱中症、騒音性難聴、潜函病、反復運動過多損傷、じん肺、職業がんなどの職業病の概念確立に貢献してきました。また、夜勤、長時間労働、心理的ストレス、気候変動、新規化学物質、新型コロナウイルス、高年齢化など、時代ごとの職場の課題に向き合ってきました。さらに、作業環境測定、生物学的モニタリング、エルゴノミクス、リスクアセスメント、生体センサ、ICTや生成AIの活用など、課題解決のための手法を発展させてきました。こうした約1世紀の軌跡を振り返り、将来を展望したいと考えています。
 記念企画として、今年4月1日にILO第155号条約批准書をILO事務局に寄託した在ジュネーブ国際機関日本政府代表部の尾池厚之特命全権大使、職業性疾患の歴史に詳しいカリフォルニア大学サンフランシスコ校のPaul Blanc教授、社会疫学の国際的な第一人者であるハーバード大学医学部のイチロー・カワチ教授などの講演を予定しています。第100回記念大会は、わが国における産業衛生の歩みを総括し、第200回に向けた新たな出発点となることをめざします。
 懇親会は、5月27日(木)にリーガロイヤルホテル小倉の3階と4階を貸し切りで開催します。九州・沖縄の特色を体感いただける機会となるよう努め、関係者の連携促進と学術的交流のさらなる深化を図ります。
第32回日本医学会総会が大阪で開催されて1カ月後の開催ですが、中国地方会からは多数のご参加を期待しております。
理事会報告
理事会報告
2025年度第4回、2026年度第1回

岡山大学医歯薬学域公衆衛生学
神田 秀幸
2025年度第4回及び2026年度第1回の理事会のご報告をさせて頂きます。
■2025年度第4回理事会(2026/1/12 開催)
<主な審議、協議、報告事項>

1.定款の変更について
「定款」「役員の選任に関する規程」「会員に関する規程」「会費に関する規程」の変更内容は承認された。
2.コンプライアンス関係
前回理事会で審議した会員の懲戒に関する細則案に、「会員の懲罰に関する規程案」が提示され説明があり、内容は承認された。
3.表彰制度候補者推薦について、日下幸則氏(中国地方会)、城 憲秀氏(東海地方会)、
  大前和幸 氏(関東地方会)の推薦が承認された。
4.2026年度の事業計画案、予算案について承認された。
5.委員会新委員の委嘱について
2025年度で任期が終了する編集委員会、生涯教育委員会、倫理審査委員会の次期委員の推薦があり、理事長より委嘱されることとなった。
6.非常設委員会、研究会の継続について
ダイバーシティ推進委員会より継続申請があり、継続が妥当と判断された。継続の可否について次回総会に諮る。行動変容を支援する面接研究会の継続が承認された。
7.研究会規則の変更について
災害産業保健研究会から研究会の会則の変更案が提出され、一部文言の修正、追記をすることとし、承認された。
8.新研究会の設置について、「治療と仕事の両立支援研究会」から再申請があり、
  承認された。
<主な協議・報告事項>
1. 第99回日本産業衛生学会準備状況報告
国際特別講演2件、特別講演3件、メインシンポジウム5件、シンポジウム22件、教育講演24件。その他、企画運営委員長特別企画パネルディスカッションや、アルコール依存症についての特別企画、日本公衆衛生学会・日本災害医学会・日本災害看護学会との4学会合同シンポジウム等を予定。一般演題の募集に645件の応募があった。
2. 第100回日本産業衛生学会準備状況報告
テーマ「変わる職場、変わらぬ使命-産業衛生100回大会からの挑戦-」と、運営組織が決定したことが報告された。
3. 地方会からの助成金増額申請について
第97回日本産業衛生学会で生じた黒字活用について中国地方会からの増額申請があり、第98回日本産業衛生学会で生じた黒字活用について東北地方会から増額申請があり、承認された。
4. 第103回、第104回日本産業衛生学会の担当について、第103回日本産業衛生学会は北陸甲信越地方会、第104回日本産業衛生学会は北海道地方会が担当することとなった。
5. 第35回日本産業衛生学会全国協議会開催報告
赤字見込みであることが報告され、赤字額を本部で補填することが承認された。
6. 第36回日本産業衛生学会全国協議会準備状況について報告された。プログラム数に応じて会場数を確保する必要があり、必要に応じて参加費の価格を検討する。
7. 第37回日本産業衛生学会全国協議会について準備状況について報告された。
8. 学術大会・全国協議会開催マニュアルについて
企画運営委員会が企画するシンポジウムの趣旨、内容に賛同した団体がスポンサードセッション(シンポジウム・講演)として学会とシンポジウム・講演を共催することができる。
企画運営委員会が企画するシンポジウムの趣旨、内容に賛同した団体がスポンサードセッション(シンポジウム・講演)として学会とシンポジウム・講演を共催することができる。
スポンサードセッション(シンポジウム・講演)開催に際し、謝金、交通費等のルールは学会の他の企画(シンポジウム等)に従う。
ランチョンセミナーに代表される共催セミナーは、学会の趣旨、テーマに賛同した団体が、共催セミナーとして内容を企画できる。採否は、原則として企画運営委員会で決定できる。
9. 中央選挙管理委員会報告
代議員が推薦できる監事候補者の人数については、2名以内が妥当と判断した。また、次期委員長候補として現委員長を補佐する副委員長を置くこととし、これらは承認された。中央選挙管理委員会に関する規程に追記することとし、次回理事会で改定案を確認する。
10. 会費の改定について
1999年から25年以上据え置いている学会の年会費を値上げすることについて提案があり、意見交換した。
11. 会員の状況(2025年12月24日現在 正会員数:9,540人)
2026年度第1回理事会(2026/4/11 開催)
<主な審議事項>

1. 2026年度の総会開催について、日時、場所、議案、開催方法等が決定した。
2. 2025年度事業報告案、決算報告案について、原案通り承認された。
3. 定款、規程の変更案について
外部理事・外部監事登用、懲戒規程に関する変更について審議され、原案通り承認された。
4. 選挙管理委員会に関する規定の改訂について
中央および地方の選挙管理委員会の長は副委員長を指名することとなった。
5. 会費の改訂について
2028年度より正会員会費2000円値上げ(1.2万円へ)を念頭に、議論を継続していることが確認された。
6. 研究会Q&Aの更新について
研究会名での他団体イベントへの名義後援、協賛に関して、依頼申請書が追加更新された。
<主な協議・報告事項>
1. 第99回日本産業衛生学会準備状況報告
第100回日本産業衛生学会準備状況報告、第101回日本産業衛生学会準備状況報告
第99回(大阪)、第100回(北九州)の準備状況が報告された。第101回は関東地方会が担当することとなった。
2. 第35回日本産業衛生学会全国協議会会計報告
第35回(徳島)の会計報告がなされ、最終決算が報告された。
3. 第36回日本産業衛生学会全国協議会準備状況報告
第36回(倉敷)の準備状況が報告され、協賛の依頼が本部理事向けになされた。
4. 第37回日本産業衛生学会全国協議会準備状況報告
第37回(青森)の準備状況が報告され、2027年11月18-20日リンクステーション青森で開催されることが報告された。
5. 学会・全国協議会開催マニュアルについて
実践活動を学会発表する際以外は「研究」に該当する可能性が高く、発表前や実施前に学術委員会に相談してほしいという方針が示された。
6. 社会医学系専門医協会報告
2026年度は移行措置で専門医取得をされた方の更新年である。11月までに更新に備えるよう周知された。今後、K単位の必要更新数が3単位から8単位に増加する動きにあることが報告された。
7. 編集委員会報告
APC料金が会員は3%アップすることが報告された(現行850US$,改訂後876 US$)。
8. ダイバーシティ推進委員会
3月より委員の交代が報告され、7月25日中四国産業衛生学会での開催が周知された。
9. 中央選挙管理委員会報告
中央選挙管理委員長に中国地方会選出高尾総司先生が選出された。
10. 業務執行理事報告
100周年記念誌の刊行準備を進める方針であることが確認され、2027年内締め切り、2029年発刊の方針が示された。
11. 会員の状況(2026/3/30現在 正会員9,318人)
各県報告 広島県報告


マツダ株式会社 安全健康防災推進部 産業医
世古口 真吾
 県代表幹事である当社の山下潤産業医に指名されましたので、このたび執筆させていただきます。
  今回は、当社におけるリスクアセスメント対象物健康診断(「第3項健診」)の実施を紹介します。
 いわゆる「労働安全衛生法の新たな化学物質規制」に基づく対応を当社でも進めており、「第3項健診」の実施も検討することとなりました。具体的な対象物質は、トリエチルアミン(CAS番号:121-44-8)です。
 企業秘密のため詳細は控えさせていただきますが、当社ではトリエチルアミンを鋳物用樹脂硬化剤として使用しています。トリエチルアミンは強いアンモニア臭を放つ物質で、主な有害性は皮膚腐食性/刺激性が区分1、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性が区分1、特定標的臓器毒性(単回ばく露)が区分1(中枢神経系)となっています。従事歴の長い作業者が「昔は目の前が真っ白になるほどだった。」と語るほど、以前は使用量が非常に多かったようです。近年は技術向上や作業方法の改善により使用量は減少したものの、一定量の使用は継続しており、以前から健康障害発生リスクを懸念していたところです。そのような中、法改正を受けてあらためて数理モデルによるリスクアセスメントを実施したところ、やはりと言うべきか、高リスク作業に該当する結果となりました。この結果を受け、当該作業に従事する作業者を対象に個人ばく露測定を実施しました。その結果、測定濃度の最大値が1 ppmを超えていました。
 トリエチルアミンには本稿執筆時点で濃度基準値や許容濃度は設定されていませんが、ACGIHのTLV-TWAは0.5 ppm、TLV-STELは1 ppmとなっています。TLVの設定根拠を記した資料を読む限り、かなり安全側に設定されている印象は受けましたが、職業性ばく露限界値を超えている事実は重いと判断し、健康障害発生リスクが許容される範囲を超えると判断しました。以上の産業医意見を踏まえ、当該作業場の関係者と全社の安全衛生管理部門で協議し、第3項健診の実施を決定しました。
 第3項健診の実施に当たっては、まず実施主体を決める必要がありました。当社の特殊健康診断は通常、外部の健診機関に委託していますが、第3項健診はまだ一般的ではなく委託のハードルが高いこと、内製化の方が場所や時期・時間帯の調整がしやすいこと、そして何より産業医として自分の目で確かめたいと考えたことから、産業医と健康管理部門のスタッフで実施することとしました。
 健診項目の設定に当たっては、『リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン』(厚生労働省)、『化学物質リスクアセスメントに基づく健康診断の考え方に関する手引き』(日本産業衛生学会)、『化学物質の自律的な管理における健康診断に関する検討報告書(追補版)』(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所)を参照しました。トリエチルアミンには現実的な生物学的ばく露モニタリング手法がなく、主な有害性も皮膚や眼への急性影響であるため、自他覚症状の確認で健康障害の内容や程度は把握できると考えました。そこで、健診項目は業務歴の調査、作業条件の簡易な調査、自他覚症状(皮膚、眼等)の有無の検査のみとすることにしました。また、急性影響が問題となることから、作業中に症状が出現・増悪するか、作業後に消失・軽快するかを明示的に確認することとしました。
 その他、細かな事項の準備や調整を経て、第3項健診を実施しました。対象は約80名で、全員がいわゆるABCRT判定におけるAまたはT判定でした。そのため、今回の健診では、トリエチルアミンによる健康障害が認められる対象者はいないと判断しました。
 もっとも、前述の厚生労働省のガイドラインには、「リスクアセスメント対象物を……取り扱う事業場においては、……労働者の健康障害発生リスクが許容される範囲を超えるような状態で、労働者を作業に従事させるようなことは避けるべきであることに留意すること。」と明記されています。すなわち、第3項健診が不要な状態に保つことが本来あるべき姿です。この点は関係者間で認識を共有しており、現在、本質的対策として、トリエチルアミンの使用量削減や設備改善等の対応を、生産準備部門も交えて検討しています。今後の経過については、あらためて別の機会に報告できたらと考えています。
以上
各県報告 岡山県報告
 
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 疫学・衛生学分野 准教授 高尾総司
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 疫学・衛生学分野 博士課程大学院生 日笠悠生
 みなさま、ご無沙汰しております。岡山大学の日笠悠生です。今回の岡山県報告は、准教授の高尾とともに、岡山県北部における産業医ネットワーク構築および将来の産業医育成にむけた体制・基盤づくりに関する取り組みについて報告します。
 そもそも、産業保健のみならず、医療体制においても岡山県は南部と北部で大きな差があります。県南部には複数の大学病院や十分な数の大規模総合病院がある一方、県北部には大規模総合病院は少なく、医療資源が限られています。この差は産業保健のリソース、すなわち産業医の数においても同様です。ところが、産業医を必要とする事業場は、県南部に多く所在するのは言うまでもありませんが、早期から高速道路が整備されたこともあり、思った以上に県北部にも工場等が一定程度集積しています。  
 現状、県北部では、地元開業医の先生方が、地域貢献として、その地域の工業団地の産業医を担われているようです。しかし、産業医「密度」が低いため、ひとりの産業医の引退によっても、少なくない数の事業所が産業医を確保できない宙ぶらりんの事態(地域まるごと産業医がいなくなってしまう)が生じています。同時に、一部の産業医への過集中により、衛生委員会への出席や職場巡視といった定常業務にも支障が生じかねない状況が起きていました。  
 この課題を解決するため、私たちは津山市の関係機関(津山市医師会・津山商工会議所)と連携することを現在模索しています。すでに先行する試みとして、津山市内の医療機関を大学が支援する形で、医療機関内の事務局を産業保健(業務的健康管理)のハブとした「複数の産業医で複数の事業所を担当する産業保健体制(複数対複数)」の構築に挑戦しております。平たく言うと、産業医がチームを組んで、地域まるごと産業保健を担っていこうという計画です。  
 従来の事業場と産業医が「1対1」でマッチするオーダーメイド型体制は、産業医、つまり供給側のリソースに余裕があることが前提となります。この形態は、リソースの乏しい県北部などの地域においては、限界があることが言うまでもありません。持続可能なものにするためには、業務を標準化し(医療的健康管理を極力減らして)、誰が行っても一定の質(少なくともハズレのない)の産業保健サービスを提供できる仕組みへと転換する必要があります。具体的には、ハブとなる医療機関内に事務局を設け、各事業所の現状や課題の整理を事務局にかなりの程度まで任せます。そして、対応に難渋するような課題に対しては、訪問する産業医だけでなく、関係する産業医の皆で向かっていきます。これにより、岡山大学産業医基礎研修会で資格を取得したばかりのエントリー産業医であっても、産業医業務に従事しやすくなります。また人による対応のブレも最小化できます。さらには、日程に変更が生じる場合も、チーム内の誰かが出務している日に対応を振り替えることで、産業医としても決まった日程のみの活動に限局できるため、特に初期においては臨床との並行が容易になります。また、産業医には依存しない形式のため、原則として追加訪問が生じないことも、事務局としても産業医サービスの計画的な提供量のコントロールにつながります。
 チームで対応するため、他の産業医の経験に対しても、バーチャルであっても事例に接することで、実務量以上の経験を得ることができ、育成システムとしても有用です。現在、十数社の事業所を中級者から1社目の初心者まで5〜6名の産業医で担当していますが、多くの事例を共有しディスカッションすることで、相互の大きなスキルアップにつながっています。もちろん県北に勤務または居住する産業医によるチーム構成が理想的ではありますが、当面の過渡期においては、比較的アクセスの良い大阪などの、経験を積みたい産業医の先生にも、短期間(数年間)この取り組みに加わってもらっています。
 もちろん、最終的に地域全体の産業保健を「一定水準の標準化された産業保健の提供」から「(定着する)新規産業医の育成」まで一貫した体制にすることが目標です。そのためには、地元医師会には先達となる先生と後継となる先生に加わってもらえるような連携体制をお願いし、事業者側へのポータルとなる商工会議所からは会員企業に理解と協働をお願いしていくことを行っていきます。
 また、県北部においては産業保健のリソースを地域で育てるという意義を知ってもらうため、実際にチームで対応している産業医先の企業様の協力を得て、県北部の産業医の先生方を主のターゲットとした実地研修(職場巡視)も2026年5月に開催しました。もちろん、改善の余地はありますが、初めての試みとしては一定の手応えを得ております。
 今後も、岡山県における産業保健体制の標準化と質の向上を目指し、関係機関と連携しながらより一層の体制構築を進めてまいります。
各県報告 山口県報告
 
マツダ株式会社 安全健康防災推進部 山下 潤
山口県産業医会 副会長  堤 雄介
 2026年2月2日、山口県山口市の山口県総合保健会館にて、「第76回山口県産業衛生学会」を開催いたしました。
 本会は、日本産業衛生学会中国地方会での繋がり・ご縁もあり、広島県の山下潤先生に学会長を依頼させて頂き、お勤め頂きました。それに伴い、この度は連名にて開催報告をさせて頂きます。
 本学会では、「職域における筋骨格系障害予防対策」をテーマに、3つの講演とパネルディスカッションを行いました。腰痛をはじめとする筋骨格系障害は重要な課題である一方、実務では十分な対応が難しい現状もあります。
 当日は県内の産業医や産業看護職、衛生管理者など139名の多職種が参加し、実務に活かせる学びの多い、有意義な機会となりました。
■ 基調講演:
「職域における筋骨格系障害(総論)」
(榎原 毅 先生/産業医科大学 産業生態科学研究所 人間工学研究室 教授)
 榎原先生より、職域における筋骨格系障害(MSD)の総論についてご講演いただきました。作業関連疾患の概念整理を通じ、職場の筋骨格系障害が作業関連運動器疾患(WMSDs)として捉えられることや、MSDが姿勢不安定や転倒を招く悪循環につながる点が示されました。北欧・カナダの事例を踏まえ、職域におけるMSD対策は行動災害対策として重要であることが強調されました。
 また、労災発生状況や法改正、高年齢労働者対策にも触れていただくとともに、「あなたの常識?非常識?腰痛クイズ!」と題したクイズ形式で、科学的根拠に基づく対策や参加型人間工学を取り入れた複合的介入の有効性をご紹介いただきました。さらに、ISO 11228-1のJIS化や、今後のリスク評価の可能性、人間工学の役割についても共有いただきました。
 本講演では、筋骨格系障害に関する総論について体系的に整理いただき、同障害が個人の問題にとどまらず、職場全体の安全に直結する重要な課題であることを改めて認識しました。科学的根拠に基づく考え方を、今後の職場環境改善や災害防止活動に活かしていきたいと感じました。  
■ 特別講演:「労働衛生行政の動向について」
(徳重 宏之 課長/山口労働局 労働基準部 健康安全課)
 徳重課長より、労働衛生行政の最近の動きについてご講演いただきました。労働災害の発生状況として、死亡災害は減少傾向にある一方、休業災害は増加しており、高年齢労働者が労働災害の約3割を占めている現状が示されました。
 続いて、労働安全衛生法および作業環境測定法の改正について、個人事業者への対策やメンタルヘルス、化学物質、高年齢労働者対策、石綿解体に関する新たな規制が説明され、特に高年齢労働者への努力義務の導入や、石綿解体時の事前確認の義務化が強調されました。
 最後に、過労死等防止対策白書の概要が紹介され、労働時間やメンタルヘルスを踏まえた課題と今後の方向性が示されました。
 本講演を通じて、労働災害の現状や制度改正をデータに基づいて理解することができ、安全衛生管理の重要性を改めて認識しました。高年齢労働者対策やメンタルヘルス・化学物質対策など、実務に直結する示唆の多い講演でした。
■ 教育講演:「職域における筋骨格系疾病対策の実践」
(道井 聡史 先生/三菱重工業株式会社 名古屋健康管理グループ小牧南健康管理チーム 産業医)
 道井先生より、産業医の立場から職域における筋骨格系疾病対策についてご講演いただきました。産業医の役割として、疾病を仕事との関連性から捉え、評価ツールやデータを活用し、科学的根拠を共通言語として現場の合意形成につなげる重要性が示されました。
 また、作業関連運動器障害は多様な要因が関与し評価が難しい現状や、一般健診や従来の評価手法の限界など、実務に即した課題が共有されました。
 さらに、OWAS法をはじめとする評価手法や復職支援の取り組みが紹介され、人間工学評価ツールの一般化やDX化への期待、データに基づく予防と産業医によるリスクコミュニケーションの重要性が強調されました。
 本講演を通じて、筋骨格系疾病対策には医学的視点に加え、実地の現場視点に立った作業評価や現場との対話が不可欠であることを改めて認識しました。データに基づく人間工学的アプローチが、より実効性の高い予防と職場改善につながると感じました。
■パネルディスカッション:「高齢化社会における明日使える腰痛対策」
(座長:山下 潤/第76 回山口県産業衛生学会長、
 パネリスト:谷 直道 先生/産業医科大学 産業生態科学研究所 人間工学研究室 講師
       住德 松子 先生/アサヒグループジャパン株式会社
                ウェルビーイング推進部健康支援センター統括保健師
       山下 潤/マツダ株式会社 安全健康防災推進部

パネリスト➀:「職域における腰痛対策(理学療法士×人間工学専門家の視点から)」
(谷 直道 先生/産業医科大学 産業生態科学研究所 人間工学研究室 講師)
 谷先生より、理学療法士の視点から、職場における包括的な腰痛予防対策について、リスクアセスメントの考え方と具体的事例を交えてご講演いただきました。我が国の腰痛対策指針の変遷を踏まえ、職場の腰痛は業務上疾病に限らず幅広く捉える必要性が示されました。
 また、腰痛のリスク要因として動作・環境・個人・心理社会的要因が挙げられ、作業管理・作業環境管理・健康管理を柱とした対策の重要性が強調されました。OWAS法を用いた評価や作業改善、保健指導を組み合わせた予防策と、その実践事例が紹介されました。
 最後に、人間工学と理学療法を組み合わせた包括的な取り組みや、腰痛リスクの早期発見と専門職連携の重要性が示されました。
本講演を通じて、腰痛予防には作業改善に加え、心理社会的要因や個人要因も含めた包括的な視点が不可欠であると感じました。多職種連携による取り組みが、安全で快適な職場づくりにつながると改めて認識しました。

パネリスト➁:「産業保健看護職が取り組む腰痛対策」
(住德 松子 先生/アサヒグループジャパン株式会社 ウェルビーイング推進部健康支援センター 統括保健師)  住德先生より、産業看護職の立場から腰痛対策について包括的なご講演をいただきました。アサヒグループジャパンの健康推進体制や産業保健師の活動実態が紹介され、健康管理や個別支援を中心に、産業看護職が産業保健活動の中核を担っている現状が共有されました。
 また、常勤産業医が不在の事業場においては、産業看護職の役割が特に重要であることが示されました。ビール工場での腰痛健診やストレッチ、鍼マッサージ体験などの取り組みが、健康増進や高年齢労働者対策へと発展していった事例や、転倒リスク評価と個別指導を組み合わせた実践例が紹介されました。
 本講演を通じて、産業看護職が現場に寄り添いながら腰痛対策を起点に健康づくりを広げている点が印象に残りました。また、統括保健師としての視点から現場の課題に即した取り組みをご紹介いただき、限られた体制の中でも継続的な取り組みが職場全体の健康向上につながることを改めて感じました。

パネリスト③:「職域における腰痛対策(産業医の視点より)」
(山下 潤/マツダ株式会社 安全健康防災推進部)
 山下先生より、高齢化が進む自動車製造業の組立工程における腰部負荷の評価方法と、具体的な対策事例についてご講演いただきました。ライン作業は効率化が進む一方、反復作業や不良姿勢、力作業が一定のペースで続くことから、同一部位への負荷が集中し、筋骨格系障害のリスクが高いことが示されました。
 また、OWAS法の限界を踏まえ、マツダ㈱で導入されてきた独自の「エルゴ評価法」が紹介されました。腰や膝、腕、重量物取扱いなどを定量的に評価し、作業負荷の見える化と現場主導の改善につなげてきた点が示されました。長期的な取り組みにより高負荷作業や症状訴えが減少した一方、評価の限界や継続的な教育の必要性といった課題も共有されました。
 本講演を通じて、ライン作業特有の負荷を定量的に捉え現場で共有する重要性に加え、現場特性に応じた評価方法の導入や効果・課題の整理を行いながら改善を進めることの大切さを再認識しました。明確な評価基準をもとに改善を積み重ねていく姿勢は、今後の職場改善を考えるうえで大変参考になる内容でした。
 本学会では、行政、産業医、理学療法士、産業看護職、製造現場など多様な立場から、職域における腰痛・筋骨格系障害対策について幅広い視点が示されました。また、腰痛を個人の問題にとどめず、作業内容や職場環境、心理社会的要因を含めたリスクアセスメントに基づき、科学的根拠を踏まえて組織的に取り組む重要性が共通して示されました。
 さらに、評価手法の活用や現場との対話、多職種連携を通じて、腰痛対策を健康増進や高年齢労働者対策へと発展させていく実践例が共有され、今後の取り組みを考えるうえで多くの示唆を得る機会となりました。今後も職場の実情に即した改善を積み重ね、安全で働きやすい職場づくりにつなげていくことが期待されます。
 
各県報告 島根県報告
島根から、産業保健のDEIを考える

株式会社プロテリアル 安来工場 健康管理室
岩本 麻実子
 皆様、ご安全に。このたび日本産業衛生学会ダイバーシティ推進委員会中国地方会委員を拝命いたしました、島根の岩本麻実子と申します。当委員会は、多様な背景をもつ会員が参加しやすい環境づくりをめざし、オンラインセミナーなどを通じて学び合いの場を広げています。正直に言えば、私はこれまで体系的にダイバーシティを学んできたわけではありません。それでも今回この役割をいただき、自分の歩みを振り返るなかで、その意味が少し見えてきたように感じています。母校では社会医学の道に進む同窓生は稀で、手探りで進むなかで、育児と仕事の両立に悩み、キャリア継続に葛藤した時期もありました。いわば「産業保健の少し周縁にいる当事者」だったからこそ、見えてきた景色があったかもしれません。
 近年は、育児・介護・治療と仕事の両立支援の必要性が広く共有され、学会でも託児室の設置やオンデマンド参加など、「参加のしづらさ」を減らす工夫が進んできました。こうした変化には、社会全体の意識の変化や技術の進歩に加え、委員会が多様な声を拾い上げ、働きかけてこられた積み重ねも一端を担っているのだと感じています。
 そんな折、2025年度後期NHK連続テレビ小説『ばけばけ』を見ながら、「これはダイバーシティを考える入口かもしれない」と感じました。本作は、小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)夫妻をモデルに、明治の島根・松江を舞台として、埋もれがちな人々の心に光を当てた物語です。ここで描かれているのは、異文化理解や多様性の受容が、難しい理論ではなく、相手への関心と敬意から育まれるということです。八雲とセツは、怪談を通じて心を通わせました。ここで大切なのは、怪談そのものよりも、相手が大切にしているものを軽く見ず、その背景にある感性や文化に耳を澄ませる姿勢です。怪談には、その土地に生きる人々の畏れや祈り、自然観や暮らしのリアリティが映し出されています。相手の好きなものに関心を向けることは、相手の背景や世界の見え方を知ろうとすることでもあります。
 この感覚は、産業保健の現場にも通じるのではないでしょうか。たとえば、同じ「勤務の配慮が必要な状況」でも、背景が育児か、介護か、治療との両立かによって、必要な支援は変わってきます。表面上は似ていても、事情を知らなければ適切な支援にはつながりません。相手の背景を知ろうとすることが支援の出発点になる、という示唆は、現場の実感にも重なります。
 このように、先入観を持たずに相手の背景を知ろうとする姿勢は、八雲の精神として語られる「オープンマインド(開かれた精神)」であり、産業保健における面談や傾聴の土台にも通じます。ただし、「オープン」であることは、単に感情に寄り添うことではありません。個別事情を丁寧に理解しながらも、「職務上の役割と基準」という共通の枠組みのなかで捉え、公正に判断することが求められます。そのためには、法令や就業規則、主治医意見、職務内容、現場で実行可能な業務分担を踏まえ、本人・上司・人事・産業保健職が共通認識を持てる形にしていく必要があります。声を上げにくい事情を抱えた人が孤立しないようにすることと、配慮のしわ寄せが周囲に過度に偏らないようにすること。そのどちらも防ぐためには、個人の善意だけに頼るのではなく、組織として支える仕組みが必要なのだと思います。
 個別事情への理解と、職場全体のバランスを両立させることは容易ではありません。だからこそ、『産業保健専門職の倫理綱領』第9条には「多様性、公正性、包摂性の尊重」が掲げられているのだと思います。私自身、「当事者」として個別事情の重みを知る一方で、それを個人の努力や周囲の我慢に委ねるだけでは長続きしないことも実感してきました。制度として支え、誰もが後ろめたさなく利用できる環境を整えること。包摂とは一律の優遇ではなく、必要なときに合理的な調整を受けられるための現実的な土台作りなのではないかと考えています。
 こうした課題を理念で終わらせず、実践につなげていく場として、来たる7月25日(土)〜26日(日)に広島市で開催される『第70回中国四国合同産業衛生学会』では、中国地方会主催のダイバーシティ研修会『地域保健・産業保健連携研修:複合災害(自然×化学)の初動120分と情報共有』を開催いたします。本研修は、前提や目的の異なる専門職同士が対話し、相互理解を深め、共通言語を見いだし、それを実務に生かすための場です。災害時には、企業(産業保健)と行政(地域保健)とで重視する点が異なることがあります。だからこそ、平時から対話を重ね、関係を築いておくことが、有事の円滑な連携を支えるはずです。多様な背景をもつ人々のニーズに応えるには、一律の対応だけでは足りません。本研修が、明日からの実務に直結する「共通言語を一つ」「連絡したい相手を一人」「次に行う行動を一つ」持ち帰る機会になれば幸いです。ぜひ広島の会場にお運びください。
 『ばけばけ』が伝える、なにげない日々こそ素晴らしいという視点は、産業保健の原点にも重なります。安心して出勤できること、困ったときに相談できること、無事に一日を終え、また次の日も変わらず働けること。そうした日常を支えるためにこそ、客観的な仕組みとオープンマインドの両方が必要です。ここ島根の地から、等身大のDEIの歩みを一歩ずつ進めていきたいと思います。ご安全に。
各県報告 鳥取県報告


鳥取大学医学部環境予防医学分野
金城  文
 最近、振動障害について検討する機会がありました。私自身の気づきや学びがありましたので、共有させていただきます。
 先日、製造業の職場巡視の際、工具を使って樹脂のクリーニング作業をしている従業員がいました。私は、作業台の高さや、粉じん・化学物質の吸引リスクにばかり注意が向いており、工具の振動リスクには関心が向いていませんでした。そこへ、同行していた事業所保健師が「あの工具、振動障害は大丈夫でしょうか?」とつぶやいてくれました。「確かに、かなりの振動がありそう」となり、職場へ工具の詳細や使用時間の確認を依頼しました。
 確認の結果、使用工具は「チェーンソー以外の振動工具(ピストン振動工具)」に該当し、1日当たり20~30分(連続使用3分)毎日使用していることが分かりました。そこで「チェーンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害予防対策指針」に基づき、使用している振動工具の「振動値3軸合成値」を調べ、「日振動ばく露時間A(8)」を算出しました。この工具の「振動値3軸合成値」は比較的高めで、日振動ばく露限界値(A(8):5.0m/s2)に対応した「振動ばく露限界時間」は2.5時間という結果でした。連続使用時間や休止時間は同指針から把握できたものの、防振・防音保護具の着用基準や、健康診断の実施判断基準は明確にわからないままでした。そんな折、丁度、第99回日本産業衛生学会の自由集会で「振動障害研究会」が開催されることを知り、その世話人に、以前、鳥取県代表幹事を務めておられた鳥取大学名誉教授の黒沢洋一先生のお名前を見つけました。自由集会には出席されておられなかったので、メールで伺ったところ、振動障害の疫学データを基に、日振動ばく露量A(8)や健診対象者の考え方について丁寧に教えてくださり、判断の大きな参考になりました。「振動障害研究会」にも参加してみたところ、振動障害の現状と課題について知ることができた上、偶然隣に座った方と情報交換し、これもまた健康実施の判断の参考になりました。
 ここで、今回学んだ振動障害の要点を簡単に共有します。振動障害は、工具や機械の振動が主に手腕を通して人体に伝わり、上肢の末梢循環障害(白指レイノー現象など)、末梢神経障害、筋骨格系障害を引き起こす健康障害です。聴力障害や腰痛などの症状を伴うこともあります。どのような工具が対象となるかは「チェーンソー取扱い作業指針」及び「チェーンソー以外の振具の取扱い業務に係る振動障害予防対策指針」に示されています。「令和6年度業務上疾病の労災補償状況調査結果(全国計)」によると、日本では、毎年200人を超える新規の労災認定があります。令和6年度は210人が新規認定を受けており、業種別では建設業(土木業含む)の135人に次いで、製造業が25人、林業が19人となっています。学生時代の記憶から「振動障害といえば林業」というイメージを抱いていましたが、製造業でも注意すべき疾患であると再認識しました。
 健康診断の対象者については、「振動工具(チエンソー等を除く。)の取扱い等の業務に係る特殊健康診断について」において「1の各号の業務に常時従事する者について」とあります。実務上は「振動障害の診断ガイドライン2013(日本産業衛生学会振動障害研究会)」の「Ⅵ.新しく提案する診断体系」に記載されている以下の内容が具体的でわかりやすいです(以下引用「職場での振動障害予防のための健康管理としての健診は1次健診と2次健診で構成する。2次健診は産業職場で広く実施できるように簡略化する。1次健診対象者の目安としては、使用している振動工具の振動レベル(日振動ばく露量であるA(8))が2.5 m/s2以上とする。ただし、一日振動工具使用時間が2時間を超える場合は、日振動ばく露量A(8)が2.5 m/s2未満であっても健診対象者とすることが望ましい。」)。防振保護具、防音保護具については、一定の振動強度がある振動工具を使用するのであれば原則使用したほうが良さそうです。
 今回の事例を通じて、振動障害にも注意を向ける必要性、職場巡視でのメンバーそれぞれの「気づき」を共有する大切さ、そして学会参加が現場の課題解決への貴重な出会いを生むことを実感しました。小さな気づきですが、皆様の日々の業務の参考になれば幸いです。
編集後記
日本産業衛生学会中国地方会 会長
神田 秀幸
岡山大学学術研究院医歯薬学域公衆衛生学
 2026年は世界を意識せざるを得ない年となっています。ミラノ・コルティナ冬季五輪、サッカーW杯、そして秋にはアジア競技大会が愛知・名古屋で開催されます。一方、世界の政治情勢に目を向けると、依然として終息が見えないロシア・ウクライナ戦争、年明けのベネズエラ大統領拘束、グリーンランド危機、イスラエルと米国によるイラン攻撃など、紛争や危機、混乱が世界各地で勃発しています。対立より対話、紛争より平和、ルールのもとに誰もが秩序をもって行動すること、こうした当たり前のことが普通にできることを、世界に望まずにはいられません。スポーツに誰もが心を動かされ、熱くなったり感動したりするのは、その根底にこうしたルールや平和の姿勢があるからなのではないかと個人的に思う次第です。わが国で開催されるアジア競技大会が平和のもと開催されることを切に願っています。
 さて、本号は主に各県から寄せられた内容で構成される紙面となりました。お忙しい中、ご執筆いただいた担当の皆様、誠にありがとうございました。各県で選出された執筆者の皆様に、それぞれの専門分野や関心を持つトピックスを取り上げていただいたことに加え、岡山産業保健総合支援センター相談員の福岡悦子先生には、暉峻義等先生の功績や倉敷労研の果たした役割など、産業保健の「温故知新」に示唆を与える内容でトップページを飾っていただきました。福岡先生は、当地方会において長く産業保健看護部会を牽引してくださったレジェンドとも言える存在です。暉峻義等先生や倉敷労研を語り継いでいただき、本年11月の倉敷での全国協議会に大きく弾みをつけていただく内容となりました。紙面をご覧のとおり、中国地方会にはレジェンドから中堅、若手まで幅広く会員が活躍しています。会員の皆様の居場所となれるよう、地方会運営に努めて参ります。
 いよいよ本年秋には、全国協議会が倉敷で開催されます。川崎医科大学の伊藤達男先生を企画運営委員長として、着々と準備が進められています。当地方会としても、全国協議会の成功に向け総力を挙げて協力しております。
 倉敷での全国協議会が、対話・平和・秩序をもって開催できるよう、引き続き企画運営に努めて参ります。倉敷はおよそ100年前に第1回日本産業衛生学会が開催された記念すべき地です。先人たちの歩んできた道のりに敬意を表しつつ、これからの百年の歩みにつながる会になればと思う次第です。2026年の協議会が、産業保健の世界で広く意識されるきっかけになれば幸甚です。
 今後とも、中国地方会の活動にご理解とご協力をどうぞよろしくお願い申し上げます。