学術集会長 挨拶
 2021年9月18日・19日に岡山において 第4回学術集会を開催いたします。

 超高齢化社会を迎える中で、医療や介護を担い、あるいは研究や教育に携わる我々は、地域包括ケアシステムの構築を通して地域社会を支えるという重要な役割を担うことになります。その実践の中でアドバンス・ケア・プランニング (ACP:将来の医療やケアについて患者さんを主体にその家族や近い人、医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思決定を支援するプロセス) の重要性については誰もが認識するところであり、様々な取り組みによって次第に広がりつつあることを感じます。

 これまでがACPの必要性の理解の段階であったとすれば、これからは更に一歩進んでACPの実践上どのような課題が待ち受けていてどのように解決してゆくのか、といった次のステージへと踏み出す段階に入っていると思います。同時にACPの話し合いの場も、病院や大学などの限られたフィールドの中から飛び出して本来の患者さんの日々の生活の場へと広げてゆく段階に来ています。
 患者さんは地域での「生活者」であることから、病院だけでなく在宅や施設といった生活環境におけるACPの実現には、医療職のみならず介護職や行政、福祉ほか生活に関わる数多くの職種の協力が不可欠であり、ACPの質的向上のみならず関わる職種の裾野の拡大も必要です。そこで、今大会のテーマは 「多職種で支えるエンドオブライフケア」 ~よりよいコミュニケーションをめざして~ としました。

 多職種で1人の患者さんを取り巻いて支えてゆくために必要なことの1つは「よりよいコミュニケーション」にあると考えます。

 患者さんとのかかわりのなかでどれだけ情報が得られ、その人を理解してあげられるか。 病や衰弱の進行など変わりゆく自らの身体状況に対する不安、それまでの人生での生き方やこだわり、残される人々への思いや気がかり心配など、患者さんの生活に根ざしたスピリチュアルな部分への関わりも重要となるでしょう。そのためには私たち一人一人が人文・哲学分野にも裾野を広げて考えることが必要になってきます。本学術集会ではそんなきっかけになるテーマも用意されています。

 エンドオブライフケアの実践上突き当たる課題は様々です。
在院日数が短縮化されるなか、病院でのACPの課題が退院して在宅や施設に帰ったときにうまく在宅や施設のスタッフに引き継がれるかどうか。現場での取り組みで苦労している在宅スタッフの課題を病院や大学の立場でどうシェアしてゆくか。意思決定をしたくない人に無理にACPを強いることなく、自ら意思表示したくなるようにもってゆくにはどうすれば良いか。ACPさえ表明されていれば問題はないのか、果たしてその通りに実現されるのか。これら様々な課題に対して、関わる多くの職種の人たちそれぞれの理解・情報を円滑なコミュニケーションにより共有することで一人の患者さんの人間像の理解を深め、チームとして課題を解決してゆくこと。それが真の支えにつながると思います。

 学術集会での講演や発表などで多くの知見を得たり貴重な経験をシェアしたり、あるいは多職種スタッフとの会話に影響を受け理解を深めたりすることで、明日からのエンドオブライフケアに関わるなか“この仕事でよかった”“一緒に関わって良かった”と喜びを感じられるようになる、この大会がそんな機会となることを願っています。

 2019年の第3回大会(名古屋市)のあと、COVID-19のために1年延期となっての第4回大会は、当初予定であった倉敷市の会場から岡山市へと配信拠点を移し、WEB開催となります。
 会議も学会もWEB開催がニュー・ノーマルの時代となった今、新しい開催形式のもとで、参加者同士の“よりよいコミュニケーションをめざして”・・・それが今回の学術大会に課せられたもうひとつの課題です。
 移動のための時間・費用がなくなって、より参加しやすくなりました。住んでいる地域は異なれど、全国各地で同じ時間を分け合って一緒に考えましょう。
 皆様の御参加をお待ちしています。

日本エンドオブライフケア学会 第4回学術集会
学術集会長  小森 栄作
ももたろう往診クリニック 院長