日本産業衛生学会 中国地方会
地方会ニュース 第27号(平成28年4月)
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交通事故・労災事故等による軽度外傷性脳損傷MTBIについて

友和クリニック 
宇土 博
はじめに
 2010年頃から、交通事故による軽度外傷性脳損傷(MTBI:mild traumatic brain injury)を発症した重症の患者さんが新経絡治療を求めて職業病外来を受診されるようになりました。
 MTBIは、従来のむち打ちとは異なり、激しい頭痛やめまい、不眠症状、手足の麻痺、共同運動の障害(小脳障害)、ふらつき、失禁、耳鳴り、視力低下、思考能力の低下など多くの中枢神経の障害を併発する障害で、仕事を失い、日常生活も障害され苦しんでおられます。
 今回は、この軽度外傷性脳損傷を産業保健の重要な課題の一つとして紹介したいと思います。軽度 外傷性脳損傷は、通勤途上や業務中の交通事故、職場での転倒事故や転落事故等によって生じます。
 日本の交通事故では負傷者数は、ピークの2004年の118万人から2015年の66万人に減少していますが、なお高い値に推移しています1)
1.多発する交通事故の脳損傷に対するWHO の見解
 外傷性脳損傷の第一の原因は交通事故です。交通事故は、先進国では、減少傾向にありますが、世界的に増加の傾向にあります。WHOの調査では、世界の交通事故の死亡者数は、130万人、負傷者数は 2,000 ~ 5,000万人と報告しています。WHOは、2007年に、2020年には交通事故 road traffic crashes による疾病が世界で第三位、開発途上国では第二位の頻度を占めると予測しています2)
 そして、WHOは、外傷性脳損傷を静かな無視された流行病 silent and neglected epidemic と名付け、世界の医療関係者が一致協力してこれに立ち向かうように勧告しています2)
 このような状況の中で、注目されているのが、軽度外傷性脳損傷です。以下にその概要を報告します。
2.MTBIの発症機序
 従来は、交通事故、転倒事故等による鞭打ちは、その症状が頸部に限局されるものとされてきましたが、実際には、上記のような中枢神経の障害も合併してきます。
 労災事故や交通事故によって外傷性脳損傷(Traumatic Brain Injury 以下、TBIという)という中枢性の器質的障害が起きます。しかし、多くは、「むち打ち」や「頸部のねんざ」と誤診されて長年苦しんでいる方が多くいます。
 軽度TBIとは、軽症とは限らず、受傷後の意識障害が軽度(Mild)という意味です。世界保健機関(WHO)は、2004年に軽度TBI(以下、MTBIという)の定義を策定。受傷後の意識消失(3分以内)・記憶喪失(24時間未満)意識の変容(混迷:錯乱)神経学的異常などが一つ以上あればMTBIと定義されます。
 ある推定では、TBIは毎年10万人当り150人ないし300人(0.15 ~0.3%)発症し、その9割はMTBIと言われています。MTBIの9割は軽症だが、1割は重症で「不幸な少数者」と呼ばれています。
 これから推定すると、我が国でも毎年1.7 万人~ 3.4 万人の重症患者が発症すると推定されます。
3.軽度外傷性脳損傷の発症機序
 通常、「鞭打ち損傷」は、駐・停車している時に稀に走行中に、不意に自車の後方から追突された時に発生する頸部の痛みと運動制限を主症状とする外傷疾患を指しています。細い頸椎がしなやかに前後左右に揺り動かされた際に、頭部に対して、頸部に回転軸を置く回転性の加速・減速のエネルギー(A/D力)生まれて脳の損傷が起こり、脳症状を発症します。
 この脳損傷は、脳神経の損傷(軸索損傷=神経線維損傷:軸索は神経細胞の長い突起を神経線維または軸索と呼ぶ)です。
 交通事故による頸椎に回転軸を置く加速・減速の回転性のエネルギー負荷が脳に作用して、脳の実質が大脳皮質から深部白質、脳梁、脳幹部にかけて損傷されます。
 それにより、①高次機能障害、②脳の局在兆候、③脳神経麻痺、④四肢の運動麻痺、⑤知覚麻痺、⑥小脳症状、⑦膀胱直腸障害、⑧錐体外路障害などを引き起こします。
図1. 交通事故による加速・減速の回転性のエネルギー負荷が剪断力を生み、それによる脳障害が大脳半球と脳幹部の白質に起こる(1956, 1961)脊髄の長軸方向の矢印は、Oosterveld の仮説による脊髄への牽引力を示します。(1991)(石橋)
4.まとめ
 交通事故等の頭部外傷は、頸椎の障害に留まらない脳損傷(MTBI)を引き起し、重度で遷延性の高次脳機能障害や脳神経障害を引き起こすことが明らかになっており、その予防、治療は、産業保健の課題として検討すべきと考えられます。

1) 交通事故総合分析センター、平成27年交通事故発生状況。
2) WHO: Traumatic Brain lnjury, Neurological Disorders,public health Challenges,164-175,2007
第59回 中国四国合同産業衛生学会(松山)のご報告
第59回中国四国合同産業衛生学会会長
三宅吉博
愛媛大学大学院医学系研究科疫学・予防医学講座
 陽春の候、皆様におかれましてはますますご清栄のことと推察申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 去る平成27年12月5日(土)、12月6日(日)の二日間、愛媛大学城北キャンパスにおいて、「職場のメンタルヘルスを考える」をメインテーマとしまして、第59 回中国四国合同産業衛生学会を開催し、無事に終了致しましたことを御報告申し上げます。まずは、ご参加頂きました133名の方々に、心より御礼申し上げます。
 初日の産業医部会研修会では、昇淳一郎先生(パナソニックヘルスケア株式会社)を中心に「職場改善ワークショップ」として「ストレスチェックに関する事例検討」(鎗田圭一郎先生、鎗田労働衛生コンサルタント)及び「有害物取扱作業とメンタルヘルス不調との関連性についての検討」(竹崎雅之先生、東レ株式会社)という2題の事例を得て、日本医師会認定産業医制度指定研修会の枠組みでワークショップが実施されました。産業看護部会研修会では「産業保健活動の評価~産業保健計画の立て方と評価~」と題して住德松子保健師(アサヒビール株式会社)よりご講演を頂きました。産業衛生技術部会研修会では「化学物質の個人曝露測定のガイドライン」と題して保利一教授(産業医科大学産業保健学部)よりご講演を頂きました。産業保健歯科部会研修会では「産業保健とこれからの歯科のかかわり」と題して尾崎哲則教授(日本大学歯学部)よりご講演を頂きました。
 懇親会は36名のご参加を頂き、愛媛大学校友会館内のセ・トリアンにおいて開催されました。医学部学生によるマジックの余興にご好評を頂きました。
 二日目の午前中は一般演題の口演が行われ、多岐のテーマにわたる13演題の発表があり、各演題で質疑応答による十分な議論がなされました。
 午後は特別講演I として、国立国際医療研究センター疫学予防研究部の溝上哲也先生に「働く人のこころを支える食生活」と題してご講演頂きました。栄養とうつとの関連に関する疫学研究成果をご講演頂き、職場におけるメンタルヘルスの予防方法としての健康的な食習慣が示唆され、大変有意義なものとなりました。
 特別講演IIとして、北里大学医学部公衆衛生学の堤明純教授より「ストレスチェックの意義と活用」と題してご講演頂きました。ストレスチェックが開始された直後の絶好のタイミングで、ストレスチェックの主目的がメンタルヘルス不調の一次予防にあり、副次的に二次予防として活用することなど、現場での実際的な取り組み方や運用の改善の方策等を具体的に知ることができ、極めて価値ある講演となりました。
 最近では最も規模の小さい学会となりましたが、得ることの多い学会であったと確信しております。これもひとえに、学会のみなさまより頂戴いたしました御支援御指導の賜であると、心より感謝申し上げます。今後とも本学会が盛会となりますことを心より祈念いたしております。
第一回日本産業衛生学会中国地方会研究会(岡山)のご報告
労働安全衛生法の改正に思う

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 公衆衛生学 
荻野 景規  
 平成28年2月13日(土)岡山市にて、第1回日本産業衛生学会中国地方会研究会を開催した。出席者は約60名であった。一般講演は、池内千鶴先生(中電工)と、松本真弓先生(JX エネルギー)にご講演をいただいた。タイムリーな話題提供として、鳥取大学医学部医学科健康政策医学分野の黒沢洋一教授に「鳥取県のメンタルヘルスの取り組み状況について」をご講演いただき、特別講演には北里大学医学部公衆衛生学、堤明純教授に「近年のメンタルヘルス対策の動向」について、お話し頂 いた。
 これまで、中国地方会と四国地方会が、合同で交互に地方会を開催してきた。しかし、経理の都合上、合同の地方会が四国で開催される年には、別のかたちで中国地方会の開催が必要になった。そこで、今回中国地方会研究会として開催したのである。発端は経理の都合上からなのであるが、実は、「岡山は日本産業衛生学会の発祥地なのだから、ぜひ岡山からこの学会を活性化する運動を起こしたい」という強い思いと、「昨今の産業衛生学を取り巻く急激な変化に、ついて行くための教育講演を、もっと活発にするべきである」という責務からである。
 ところで、平成26 年に労働安全衛生法の改正があり、その施行が話題となっている。「化学物質のリスクアセスメント」と「ストレスチェック」である。日本の企業は、大企業が約12000社で、中小企業が約420万社ある。中小企業のうち、従業員20人以下の小規模企業は、約366万社で、87%を占める。つまり、日本企業は、9割近くが小規模企業であり、労働安全衛生法上、産業医選任の義務はないという背景で起きた、大阪の印刷工場で胆管がんが発生した事例と、福井の染料・顔料の製造工場で、従業員に膀胱がんが発症した事例は、記憶に生々しい。どちらの事業所も、従業員は50人以上の中小企業であり、産業医を選任する義務があった。が、大阪の印刷工場では、選任を怠ったとして処罰されている。
 上述の「化学物質のリスクアセスメント」は、選定された640 の化学物質を取り扱う事業者に、リスクアセスメントの実施を努力義務から義務化に変更する内容である。従来通り、50人未満の企業に義務はない。リスクアセスメント自体は、労働災害を防止するための重要な方法である。が、産業医の選任の義務もない、50人未満の中小企業が殆どをしめる現状で、法改正の効果はあるのだろうか。このザル法問題は、古くから多くの労働安全の専門家が指摘してきた問題だ。私が現在産業医をしているある中小企業も、実は長い間産業医の選任を怠っていた。というより、すべきであることを知らなかった。巷には、このような中小企業が多くあるに違いない。また、私が健診機関で健康診断をする際、たびたび経験することなのであるが、現場の従業員は自分たちが毎日取り扱う有機溶剤や特別化学物質の毒性を理解していないことが多い。例えば、「トルエンは回復不能な脳障害をおこすこと もあるよ、気を付けて」というと、みな目を丸くする。法の規制が効果を及ぼさないのであれば、健康と化学物質については、基礎知識の学習の底上げが、絶対必要なのである。すなわち、中等・高等教育の中に、組み込む必要があると考える。
 次に、ストレスチェック制度であるが、導入の背景には、働き盛り世代の自殺者数や、自殺の原因でもある精神障害等の労災補償状況が、請求・認定件数ともに、高水準で推移している現状がある。1999年に自殺を労災とする新しい指針が示されてからは「過労自殺」として労働災害と認定されるケースが急増した。従来、政府はこの状態を問題視し、労働安全衛生法で労働の量をチェックしてきた。しかし、自殺の原因は、労働の質にもあることから、総合的なメンタルヘルス対策の第一歩として、ストレスチェックが義務化されたのである。今回のストレスチェックの特徴は、個人にメンタル状態の気づきを促すとともに、全国共通の設問により、検査結果を部署ごとに集計・分析し、職場におけるストレス要因を発見し、職場環境の改善を図るところにある。
 健全な会社経営にとって、メンタル対策が、職場環境の改善には欠かせない投資であることを、理解している大企業は、既に取り組んでいる。一方で未だに「健康管理や健康への配慮は自己責任、会社は関与しない」と考える経営者が多いことも事実である。はたして、ストレスチェック制度が義務ではない中小企業にとって、今回のこの法改正は何の意味があるのだろうか。また、実際、産業医・面接指導医が足りなくて困っている状況から見ると、職場に混乱を巻き起こしているだけという感もある。現場と政策との乖離をここにも感じるのは、私だけであろうか。ともあれ、学会としてもこの推移を見守る必要がある。
第一回日本産業衛生学会中国地方会研究会(岡山)のご報告
第一回行事企画に参加出来た喜び

JXエネルギー(株)水島製油所 
松本眞由美 
 2015年9月より、日本産業衛生学会 産業保健看護専門家制度がいよいよスタートしました。本来なら、新制度をスタートするまでに基礎コースや短縮Nコースを受講すれば、スムースに移行出来たかと思うのですが、当所は一人職場で、遠方での講義に参加できるのも限られており、今回、第一回登録者試験を受けるしかない、「やるっきゃない」と思い、受験しました。試験の準備を始めたのは 昨年8月末で、9月に全国協議会場での、模擬試験も知ったのですが、その頃全く自信はなく、11月のファーストレベル準備講座も都合で参加できず、気持ちばかり焦りました。でも、保健師の資格をお持ちの方々に、受験すると話したところ、「過去問(保健師国家試験)どうぞ」と頂いたり、何かお手伝いしたいとお声かけを頂き、有難いなあと思いつつ、返って、頑張らねばとの気持ちをしっかり持てたように思います。
 試験前日に、会場の下見を行い、東京に住む娘宅へ向かいました。当日は早くに会場入りしたものの、いざ試験が始まると、第一問目から疫学、「あ~分からん・・・」しばらく考えるも頭がボーとしてくる、「いや~いけない=わかるところに進もう」と思い直し、時計を見ながら、問題番号を確認、マークシートを塗っていきました。時間がない~と思いつつ、終わってみれば、全く自信もなく、そそくさと会場を後にしました。翌日帰路に就く時に、「あ~っ、しまった」とミスに気づいてももう手遅れです。時間経過とともに、受かりますようにと願いつつ、不安な日々を過ごしました。2月上旬に封筒が届き、合格証を手にした時には、思わず、「やったあっ」と大喜びで、直ぐに携帯電話より、大先輩にご報告できたことも嬉しかったです。  また、今年2月13日には、第一回日本産業衛生学会 中国地方会が岡山で開催されました。準備期間も短く、演題発表の依頼をいただいた折に、「第一回」に惹かれて、お引き受けした次第です。実は、学会での発表は2回目となり、慣れない資料づくりに今回も多くの方に見ていただき、ご意見を頂戴して、完成させました。そして、今回は、「当所で対応したメンタルヘルス~件数と復帰プランに基づいた好事例について~」と題し、発表しました。2つの事例をご紹介させていただきましたが、不調となった場合は、同じような対応ではうまくいかず、復帰支援プログラムによるフォローアップを行った事例は、うまくいった一つです。メンタルヘルス対応は、本当に時間がかかり、様々な不安定状況により、個々にあった対応を要します。よりよい環境づくりに苦慮することも多いのですが、一 人一人の良いところを伸ばせるよう、援助できればと思います。
 そして今回、堤明純先生の特別講演で印象に残った内容には、①管理監督者研修は繰り返し実施することが良い。②ストレス判定図での職場毎の集団評価においては、職場改善活動を実践していく。③早期復職を働きかけることが重要で、生活記録表やリワーク支援制度の活用も有効である。など、本当に納得のいく素晴らしいご講演を拝聴できました。
 今回は日本産業衛生学会の行事となる第一回イベントに参加出来た喜びと共に、今後はより一層、微力ながらも貢献できるよう、尽力していきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
第60回 中国四国合同産業衛生学会(鳥取)のご案内
学会長 黒沢 洋一
鳥取大学医学部健康政策医学分野
 第60回中国四国産業衛生学会を平成28年11月26日(土)から 27日(日)まで鳥取県米子市・米子コンベンションセンターにて開催することとなりました。鳥取県米子市では第50 回中国四国産業衛生学会、10年ぶりの開催地となります。学会長として一言ごあいさつ申し上げます。
 本学術総会のメインテーマは「次世代の労働者の育成と健康管理」とさせていただきました。重工業から情報・サービス業への産業構造の変化、IT 技術の急速な導入、国際化に加え、急速な少子高齢化社会を背景に、フリーターやニート、派遣労働の増加にみられる勤労意識の変化など労働環境、職場の状況に大きな変化が生じています。その中でどの職場においても次世代の労働者の育成が重要な課題となっています。また、メンタルヘルスでの新しい動きもあります。ストレスチェック制度の導入です。労働者が自分のストレスの状態を知ることで、ストレスをためすぎないように対処し、ストレスが高い状態の場合は医師の面接を受けて助言をもらい、会社側に仕事の軽減などの措置の実施や、職場の改善につなげることで、「メンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組みです。このように、次世代の労働者の育成、ストレスチェック制度の導入等、健康管理の新たな展開が求められています。そのため、「次世代の労働者の育成と健康管理」をテーマに中四国で活躍されている産業保健の専門家・実務家が一堂に会し、様々な立場から産業保健活動の可能性を追求する新たな取り組みの発表の場を提供できればと開催に鋭意努力して企画を進めております。
 さて、開催地の米子市は、陸路では高速道路や鉄道が整備されている便利なアクセス環境から、山陰の玄関口で、「伯耆富士」である国立公園大山、北に日本海、そして西には汽水湖として日本で2番目の大きさを誇る中海があり、豊かな自然に囲まれています。境港は国内3位の水揚高で、年間を通じて新鮮な海の幸が満喫できます。中国四国産業衛生学会の皆様には、研究・実践成果を分かち合い、交流を深める傍ら、豊かな山陰の自然、文化、食を堪能していただきたいと思います。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げます。
第26回日本産業衛生学会全国協議会(京都)のご案内
企画運営委員長 久保田昌詞
(独)労働者健康安全機構 大阪労災病院
治療就労両立支援センター 部長
 第26回日本産業衛生学会全国協議会の企画運営を任されました。日本産業衛生学会近畿地方会を代表して、ここに謹んで関係者の皆様にご挨拶を申し上げます。
 日本産業衛生学会は1929年(昭和4年)の創始以来、戦中の一時期を除いて連綿として続き、今日に至っています。毎年初夏に開催される学術総会はすでに88回を数えましたが、秋季には本学会の産業医部会・産業看護部会・産業歯科保健部会主催の「産業医・産業看護全国協議会」と産業技術部会主催の「産業技術部会全国大会」が4半世紀前から開催されてきました。2016年度からこれら4つの部会が合同で「日本産業衛生学会全国協議会」を開催することになり、その最初の企画運営を任されました。
 例年の「全国協議会」には全国から約 1,000人の学会員が集い、最先端の科学的知見と優れた実践活動の情報交換を通じて、産業保健の発展に寄与してまいりました。今回は 2016年9月8日(木)から 9月10日(土)の3日間を会期として、京都(会場は京都テルサ)で開催いたします。
 本学会では「変革期を迎えての産業保健の協働」を主題といたします。社会情勢のめまぐるしい変化や母体企業の経営状況、雇用形態の変化等々、労働者を取り巻く環境は大きく変化しています。その中で、データヘルス計画へのかかわり、労働安全衛生改正に伴うストレスチェック制度をはじめとする新たな取組み、さらには産業医制度の見直しの議論も始まるなど、産業保健も大きな変革期を迎えています。この変革期を乗り切るために、私たち産業保健に関わる者は職種間はもとより、経営者や保険者さらには福祉などとの連携を深め、協働して変化を先取りしていくことが求められていると考えます。このような意図でメインシンポジウムをはじめとする 12の特別プログラムと 6つの教育講演、産業医や産業看護職向けの実地研修などを企画しているところです。合わせて全国で活躍されている産業保健専門家・実務家からの多数の一般演題のご発表も期待しています。
 産業保健が今日抱えている課題の実践的な解決に大きく寄与できることを志して企画運営していく所存であります。本学会運営に対しまして、温かいご支援・ご指導を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
【プログラム(予定)】
メインシンポジウム
シンポジウム 11 セッション
教育講演 6題
ポスターセッション
実地研修(事業所研修、会場内研修)
委員会 自由集会など
ランチョンセミナー
イブニングセミナー
【プログラム時間(予定)】
8日:13:00 ~ 20:00 (実地研修のみ)
9日:10:00 ~ 18:30
10日:9:00 ~ 17:30
9月9日プログラム終了後懇親会を予定しております。
【一般演題募集】
2016年3月23日(火)~5月31日(火)
【事前参加登録】
2016年4月中旬(予定)
皆様のご応募、ご参加をお待ち申し上げます。
http://www.c-linkage.co.jp/ncopn26/
トピックス:「受動喫のない職場」を達成した企業誕生!
松江記念病院健康支援センター顧問 
春木 宥子
「受動喫のない職場」を達成した企業誕生! のニュースです。
 平成22年に閣議決定された「新成長戦略」の工程表の中で、「受動喫煙のない職場の実現」が目標として掲げられたことを受け、「がん対策推進基本計画」では、喫煙率の低下(平成34年度までに成人の喫煙率を12%にする)と共に、受動喫煙防止対策としては、平成32年までに受動喫煙のない職場を実現することを目標としました。平成25年からの「健康日本21(第2次)」においても、同様に平成32 年には受動喫煙のない職場の実現が目標として掲げられています。
 これらの状況を受けて、平成27年には「労働安全衛生法の改正」(6月1日施行)となり、その第68条の2(受動喫煙の防止)で、労働者の受動喫煙防止のため、事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講じることを事業者の努力義務としました。
 教育・啓発がなされ、時代と共に喫煙率は低下してきてはいます。職場の健康支援活動をする産業医はじめ産業看護職、衛生管理者も、力を合わせてたばこ対策に取組んできていますが、現実にはなかなか喫煙者ゼロにはなりません。厳密に受動喫煙のない職場となると、「敷地内禁煙」となっても呼出煙や三次喫煙がありますので、安衛法の事業場の実情に合わせた取組みの努力義務ということでは、まだまだ先は遠いの感がありました。
 ところが、ついにこれを達成した会社があります。それは、松江市古志原に会社社屋を構える「(株)真幸土木」です。この会社は社員50人未満ですので、嘱託産業医契約はしておりません。しかし平成15年からTHP(健康づくり)活動に取組み、保健師さんの指導を受けていました。その保健師さんの紹介で、私に秋の労働安全週間の行事として講演の依頼があり、以後、毎年テーマを変えて、健康に関するお話をしていました。もちろん、たばこのお話も過去にしています。平成18年そして平成21年には、喫煙者に禁煙チャレンジをしてもらい、治療費の助成をするといった会社の取組みをしていました。しかし、再喫煙もあり、若い社員の喫煙率が高いといった状況が続いていたようです。
 今年度は、「もう一度たばこの話をして欲しい」との要望がありましたので、「えっ、どうして?」と怪訝な思いを抱きながら、それでも全く同じ話ではと、昨今の「健康経営」という視点からのたばこ対策、受動喫煙対策の必要性に焦点を当てた講演をしました。ところが講演の後、即座に社長から、「先生!今日はサプライズがあります!」と。「えっ、何でしょう?」 本当にびっくりでした。
 安全衛生委員会で、いまだに禁煙できない喫煙者8名全員が禁煙にチャレンジすることを決め、そしてこの安全大会を機に社員全員の前で、社長に宣言するということになったのです。一人一人が前に出て、日付と直筆のサインを入れた禁煙宣言書を読み上げ、社長に手渡しました。そして、そのあと社長から、「8人全員が禁煙チャレンジに成功したら、全社員に健康報奨金として一人2万円を支給します! 健康促進の為にと報奨金を決めました。禁煙判定期日は12月末日とします!」との約束が表明されました。
 さて、年明けて結果はどうなったんだろう?と電話してみました。「1か月半までは全員禁煙を頑張った。残念ながら、2名が飲み会の時につい1本に手が出て脱落した。しかし6名は禁煙達成したので、社員全員に1万円をプレゼントした」とのこと。
 「これを機会に、受動喫煙のことを皆で考え話し合いました。その結果、1月半は全員喫煙なしで頑張れたので、会社に出勤している間は禁煙にする(家庭での喫煙は問わないが)、敷地内禁煙でかつ会社車両も禁煙にするということになりました。会社の全車両はクリーニングに出し、しっかりきれいにしました。」当然ながらたばこ煙の臭いはなくなり、三次喫煙対策もしっかりされました。
 「それにしても、よく決断されましたね!?」 「100万円の出費は、簡単なことではありません。しかし、これは先行投資で、まさに健康経営です」のお答えが返ってきました。お部屋には平成27年3月に創設され、島根県知事より認定された「第1回しまねいきいき雇用賞」の楯が太陽の陽を浴びてきらきらと輝いていました。今回に限らず、これまでの禁煙成功者の声をアンケートし、社員に読んでもらおうと思っているとのこと。あとフォローも素晴らしい! 社員を大事に思い、日頃から社員の本音の声を聴くことをされ、コミュニケーションは良好な様子が伺えます。先輩が後輩を育て、感謝の気持ちを伝え助け合う関係がしっかり出来ているようです。まさにESなくしてCS,CSRなし!を実現なさっていました。ここで働く社員は幸せです!
 
部会報告:産業医部会報告
中国地方会産業医部会幹事            
山本 真二
日新製鋼(株)周南製鋼所診療所
 産業医部会では、毎年秋に開催される中国四国合同産業衛生学会の中で産業医研修会「職場改善ワークショップ」を開催しています。今年は、2015年12月5日(土)、6日(日)に第59回中国四国合同産業衛生学会が愛媛県松山市で開催されました。中国産業医部会からは、鎗田労働衛生コンサルタント事務所 所長 鎗田圭一郎先生による「ストレスチェックに関する事例検討」、四国産業医部会からは、東レ株式会社愛媛工場産業医 竹崎雅之先生から「有害物取扱作業とメンタルヘルス不調との関連性についての検討」について、グループワークを行いました。
 まずは、鎗田先生から、「産業医と不法行為のケーススタディー」について講義がありました。産業医の発言が不法行為と判断された事例の解説に加え、ストレスチェック制度における産業医の役割についてお話を頂きました。引続き、事例検討としてメンタルヘルス不調者に対して産業医の不法行為が問われないためにどのような対応が必要かの視点で、与えられた症例のグループワークを行いました。産業医として、メンタルヘルス不調者の発するサイン(表情、言葉、態度等)をしっかり受け止めると共に、ストレスプロフィールの中でも「抑うつ感」のスコアを見逃さないようにと、アドバイスを頂きました。
 次に、竹崎先生から、「有害物取扱作業場における作業環境管理とメンタルヘルス不調者管理」という、二つの異なる着眼点から対策を要した事例のグループワークを行いました。教育訓練中の労働者がアセトンによる洗浄作業中に発症した過換気症候群の症例を提示して、アセトンを含む有機溶剤取扱業務の作業環境管理と作業経験の浅い労働者への注意点を検討しました。一般に有機溶剤の作業環境管理についてはSDSの表示、保護具の着用、換気装置の整備等が必要であり、作業経験の浅い労働者には有害性の周知と作業手順の習得及び厳守に加え緊急時、異変時の対応と健康障害回避対策が確実に行えるよう教育訓練を実施することが求められています。また、過換気症候群の原因がアセトンへの恐怖と自責による強いストレスのためと推定されることにより、有害業務とメンタルヘルス不調の関連障害予防対策として、有害業務においてもメンタルヘルス不調による体調不良が発症する可能性があること、過去にメンタルヘルス不調の経験がある場合は、より発症し易い傾向があることを本人とできれば周囲の同僚にも周知しておくと安心であるとの説明をしておくと良いこと、などの実務的な対策についての解説が行われました。
 今回のグループワークのテーマは2題ともメンタルヘルスに関する内容でした。ストレスチェック制度が義務化され、産業医はメンタルヘルス不調者への対応を今まで以上に求められますので、今回のグループワークは大変貴重でした。今後とも会員の皆様の積極的な参加を期待しております。
部会報告:産業看護部会報告
産業看護部会中国地方会幹事     
井上 恵
中国銀行健康保険組合
 2015年12月5日(土)~6日(日)、愛媛県松山市、愛媛大学城北キャンパスにおいて、第59回中国四国合同産業衛生学会が開催されました。
 産業看護部会は、学会初日の5日に中国四国各県の産業看護職の代表者との交流会である世話人会と産業看護部会研修会を開催しました。  世話人会には、産業看護部会 住徳松子副部会長(アサヒビール株式会社博多工場)にご出席頂き部会から3名、9県から17名の計20名の参加がありました。
 当部会からは①産業保健看護専門家制度に関する情報提供②産業看護部会HP活用と専門家制度HP開設の案内について③今後の学会案内・スケジュール等の報告がされました。続いて、各県の代表者からそれぞれの会での活動報告として研修会・運営上の工夫や広報活動についての発表がありました。
 各県とも年2~5回の研修会を企画実施しており、各県の産業保健総合支援センターや健康保険組合連合会との連携や支援で事業運営されていること等、各会それぞれが活発な活動のために工夫されている内容を情報交換することができました。また課題としては、会の役員・世話人の選任方法や輪番制からの退会者による輪番修正の難しさ、会員の減少傾向に対する取組みの苦労等々、抱えている悩みを共感しながら 話し合いました。それに関しては、これまでの会の歩みや活動をまとめること、会を継承する意義を会員に伝えていくことが解決策の1つになるのではないかとの意見がありました。「研修をグループワーク形式にすると参加者が減少する傾向にある」という研修を企画する上での課題も出ましたが、進行の形式を工夫するアドバイスやコツ等の改善策が活発に意見交換される大変有意義な機会になりました。各県での活動状況を情報交換できる世話人会での交流が、産業看護職間の結びつきを強め、継続したさらなる活動展開につながっていけるようこれからも考えていきたいと思います。
 世話人会に続いて開催しました産業看護部会研修会では、産業看護部会 住徳松子副部会長により『産業保健活動の評価~産業保健計画の立て方と評価~』のテーマでご講演をいただきました。54名(中国地方会18 名四国地方会36 名)が参加して、①産業保健看護活動とそのアセスメント②組織を理解する職場診断③産業保健看護計画の立て方④産業保健活動の評価方法について、講義を受け、理論だけではなく 『労働衛生教育のための情報収集シート』等の参考資料を用いて事例検討をしました。5~6名のグループ毎のワークでは、自分一人では気付かなかった様々な視点や考え方に多くの気づきを得ることができました。
 参加者1人1人が考えを言語化し、話し合い、シートに書き込んで可視化していくことにより、実践的に理解が進んでいくように実感できる楽しくてとても学びの多い充実した研修会でした。今後、より多くの産業看護職に学会に参加して頂けるよう努めていかなくては、と思います。
 最後になりましたが、企画から準備、運営をしてくださいました委員の皆様と愛媛県の産業看護職の皆様に心より御礼を申し上げます。
部会報告:産業衛生技術部会報告
産業衛生技術部会報告
──再考:労働衛生の三管理──

「産業衛生技術部会」中国地方会代表幹事
川崎医療福祉大学医療福祉学部 教授 田口 豊郁
E-mail: taguchit@mw.kawasaki-m.ac.jp
1.労働衛生の三管理
 私が駆け出しの作業環境測定士の頃(1980 年代初頭),ある研修会で労働衛生の三管理を次のよう に学びました.
   作業環境管理(Working Environment Control)
   作業管理(Work Practice Management)
   健康管理(Health Care)
各々の「管理」をコントロール,マネジメントおよびケアと考えることで,労働衛生の三管理が腑に落ちたと記憶しています.すなわち,①コントロール:人以外のものを管理(制御)すること,②マネジメント:人の集団を管理(働き方を)すること,③ケア:一人ひとりをその人に合ったように管理(医学的に)すること――で働く人の健康と安全を確保することです.つまり,人以外(環境)に働きかけるのが「コントロール」,人に働きかけるのが「マネジメント(集団)」および「ケア(個人)」 ということになります.
しかし,最近の労働衛生関係のテキストでは,このような記述は見当たらなくなりました.コント ロール,マネジメントおよびケアの視点を,「労働衛生の三管理」の理解のために広めたいと思い,この原稿を書きました.
2.医学モデルと社会モデル(WHO の国際生活機能分類)
 問題を解決するために,①人に着目する,②人以外(社会・環境)に着目――するという視点の他の例として,WHO の国際生活機能分類(ICF)の「医学モデル」と「社会モデル」が有名です.以下に,「医学モデル」と「社会モデル」の視点について説明します.
 従来,私たちは,障害者の問題をその人個人の問題として捉え,その理解の仕方は,医学的・生物学的な説明に終始し,解決のすべては本人の努力にあると考えがちでした.このような視点は「医学モデル」と言われ,障害対応への目標は,個人のよりよい適応と行動の変化に向けられます.すなわち,自分自身が変化することが求められるのです.
 一方,「社会モデル」の視点では,障害は個人のみに帰属するのではなく,その多くは社会環境によって作り出されるものと考えます.したがって,ソーシャルアクションが重要であり,社会生活のあらゆる場面で,障害者が完全に参加できるように環境を改善することが社会の共同責任であるとの立場をとります.
 「医学モデル」と「社会モデル」は,一見,対極的なとらえ方にみえますが,一人の人を適正に理解しようとするためには,決して矛盾するものではありません.たとえば,ごく最近障害を受けた人にとっては,医学モデルは極めて重要な意味を持ちます.すなわち,1ヶ月前に脳卒中によって半身麻痺を来した人の場合,機能回復を図るためにリハビリテーションに励み,自らを変化させていくことが最重要課題となります.
 ところが,障害を受けてから相当な時間が経過しているにもかかわらず,依然として,医学モデルの視点で理解し,治療や訓練だけを継続させるということは,まさに人権侵害に当たると考えられます.このような場合こそ,障害者自身が変化しなくても,環境や支援を工夫することによって,その人の日常生活ならびに社会生活は改善されるという社会モデルの視点が大きな意味を持ちます.
 援助の必要な人を支援するためには,その人を正しく理解することが求められます.正しい理解には,先入観を持たないことは言うまでもありませんが,基礎的な知識やモノの見方(視点)が重要であります.同じモノを見ていても,知識と見方の差によって「理解」が大きく異なり,結果として,援助は違ったものとなります.
 「医学モデル」と「社会モデル」の視点は,「労働衛生の三管理」の視点に通じるものがあると考えます.
3.産業衛生技術部会について
 産業衛生技術部会では,作業環境管理(Working Environment Control),作業管理(Work Practice Management)を中心とした幅広い活動をしている産業衛生技術者が、その専門性をより高めていくための情報を発信しています.
 2016年度も例年通り,「産業衛生技術フォーラム」および「産業衛生技術専門研修会」を第89回日本産業衛生学会(福島,2016年5月24日~ 27日)中に,開催します.また,中国地方会では,「産業衛生技術研修会」を第60 回中国四国合同産業衛生学会(2016年11月26日~ 27日)に,開催します.
多くの学会員の参加を期待いたします.
(産業衛生技術部会ホームページhttp://jsoh-ohe.umin.jp/pages/introduction.html
部会報告:産業歯科保健部会報告
産業歯科保健部会活動報告

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
予防歯科学分野
森田 学
 労働安全衛生法では、有害業務による「歯の酸蝕症」等の職業性歯科疾患に対し、歯科医師による検診が義務付けられています。しかし、歯の主な喪失原因であるう蝕や歯周病等に対する対策はほとんど行われておりません。有病率や医療費などから考えてみると、事業所での歯科保健対策が重要であろうことは明白です。理想と現実が乖離しており残念です。
 事業所での歯科保健対策の取り組みが消極的である理由として、真っ先に指摘されるのは「エビデンスが無い」ということです。言われてみればその通りで、産業歯科保健関連の論文は、驚くほど少ないのです。例えば、無作為ランダム化比較試験から得られるポジティブな結果は、説得力のあるエビデンスです。そのような成果報告が一体どれくらいあるのか、ここ20年間の文献を検索したところ僅か3報でした。
 というわけで、現在筆者らの教室では、県内外の事業所を対象に歯科保健指導の介入効果を無作為ランダム化比較試験で評価しております。歯科保健の介入が従業員の「意識レベル」に影響するのか、意識レベルを超えて「実際の口腔の健康」にも影響するのか、興味深いところです。口腔の健康ばかりでなく、「BMI や血糖値」といった具体的な指標でも効果を確認と言いたいところですが、それはあまりにも期待しすぎでしょうか。いずれにせよ、別の機会で報告いたします。
 さて、話題を変えて、平成27年度下半期の活動を報告します。平成27年12月、松山での中国四国合同産業衛生学会において、産業歯科保健部会研修会を開催しました。参加者は15名でした。基調講演として、日本大学の尾崎哲則教授に、「産業保健とこれからの歯科の関わり」と題した講演をしていただきました。続いて、3件の事例発表がありました。まず、行政の歯科医師の立場として、愛媛県庁 高橋直樹先生から、全国初の産官医協定による歯科検診受診促進事業が紹介されました。次に、愛媛県歯科医師会 地域保健担当理事の久保奈知子先生から、大洲市での特定健診結果をふまえた「糖尿病と歯周病教室」の取り組みが発表されました。最後に、愛媛県歯科医師会 地域保健部 委員長の宇都宮久記先生が、伊方町での歯科衛生士による歯科保健指導の実際が紹介されました。
 平成28年度 日本産業衛生学会(福島)では、歯科保健部会としてシンポジウム「いまどきの若者の「職」を「食」からサポートする」、フォーラム「歯科医療職の健康を再考する」、研修会「歯科医療職のストレスマネージメント」を主催します。興味のある方は是非ご参加ください。
編集後記
日本産業衛生学会編集後記第2号

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 
公衆衛生学
江口 依里
 こんにちは。日本産業衛生学会中国地方会のホームページが開設されてから2回目のウェブ版ニュースレターの発行となりました。ウェブ版になって読んでいただける機会が増えたのかどうか、気になるところではありますが、今回も幹事・先生方のおかげですばらしい記事が集まり、大変感謝しております。編集後記では私の身の回りの他愛無いお話をお伝えさせていただく予定です。
 職場の健康の重要な課題のひとつに生活習慣の改善があります。多忙な職域の方々が生活習慣を変えることの大変さはこれまでの保健指導等での経験においても、自分自身かれこれ約10年来ダイエットをしなければという思いに駆られてきた体験からも実感しております。食事制限や運動習慣の大変さから最近私が手を出したのは・・・《ライ○ップなら2ヶ月で理想のカラダへ》・・・! ではなく、《酵素》です。最近「○○市場」等でたくさんの種類の酵素を見かけますが果たしてダイエットに効果があるのでしょうか。
【酵素摂取を体験してみました!】
対象: 自分一人
介入: 気が向いたときに酵素(粉末)を1ヶ月間摂取 
大体1日に一回ぐらいのペースで摂取しました。
結果: 便通が良くなりました!体調も良くなった気がします。体重は1ヶ月で- 0.3kg の誤差範囲・・・。

 では、これまでに「酵素の体重減少への効果」について報告した研究はあるのでしょうか。
 2年ほど前の日本の研究にて、効果が報告されておりました。(林田学,他 診療と新薬51:1120-1130, 2014)
対象: 30-59歳男女(平均年齢47.6歳、69.1kg)46名(うち6名が脱落)
介入: 1日1回、通常食を酵素ドリンク40ml(付属のカップ1杯)に置き換えて3ヶ月間摂取。
酵素ドリンクは、原液もしくは150mlの水または炭酸水で薄めて摂取《これはなかなか大変・・・。》
結果: 介入群では体重が平均4.4kg 減少、BMI が平均1.5減少、対照群ではほとんど変化無し。

 酵素のダイエット効果に関する研究はまだまだ少ないこと、効果が現れている研究に関しても『一食置き換え3ヶ月間』となかなか過酷であることがわかりました。やはりダイエットに王道なしでしょうか・・・。地道に努力してまいりたいと思います。そして、なかなか生活習慣を変えることのできない方々へのモチベーションアップ方法についても考えて行きたいと思います。

 次回はダイエット報告(つづき)とアロマハンドマッサージの介入研究についてお話したいと思います。最後まで読んでいただきましてありがとうございました。今後とも日本産業衛生学会中国地方会をよろしくお願い申し上げます。