日本産業衛生学会 中国地方会
地方会ニュース 第28号(平成28年11月)
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労働安全衛生法改正~ストレスチェック導入の効果

松江記念病院健康支援センター 
春木 宥子
はじめに
 5年毎に実施される「労働者健康状況調査」によると、強い不安・悩み・ストレスを感じている労働者は平成9年以降6割となりその後もほぼ6割前後で推移しており、自殺者も3万人を超える状態が続いていたことから、平成22年ごろからストレスチェック制度が検討され始めました。その後自殺者数は3万人を下回ってきているものの、精神障害等に係る労災補償の支給決定件数は過去最多の497件(前年度比61件の増)となり、過重労働と共にメンタルヘルス対策は重要課題であり、この度の労働安全衛生法改正で、ストレスチェックおよび面接指導の実施導入が労働者50人以上の事業場に義務化されました。
 大企業ではすでに自社独自に取り組んでいるところもありましたが、大部分の企業は初めてのことで、当初はかなり混乱がありました。研修会・講習会が繰返し開催され、何とか問診票を活用したストレスチェックのスタートに漕ぎつけています。
 ストレスチェック制度は、労働者のメンタルヘルス不調の未然の防止(一次予防)であり、①労働者自身のストレスへの気づきを促し、②ストレスの原因となる職場環境の改善により働きやすい環境にして生産性を向上させることが目標であるので、集団分析(今回は努力義務)も併せて行うことが必要で、まさに健康経営の取組みが求められています。
 厚生労働省が提供する「職業性ストレス簡易調査票」は心理的な負荷の原因(17項目)、心理的な負担による心身の自覚症状(29項目)、他の労働者による当該労働者への支援(9項目)、仕事や家庭生活の満足度(2項目)の57項目から成り(簡易版は23項目)、項目への答えよりストレスプロフィールが図とグラフで示され、更に各評価点と合計点、ストレスの程度及びセルフケアのためのアドバイス、面接指導の要否、申し出窓口の案内などが一連の判定結果として個人別に封書で返されます。 アンケート形式で大事なことは、労働者が自分の状態を正直に記入することです。そして、高ストレス者に該当すると判定をされた方が、面接指導を遠慮なく申し出ることが大事ですが、すでに終了したところの1つでは、参加率66.1%、うちハイリスク者7.0%、面接申し出受付け中で、申し出のあった方から面接指導をしています。
 先般、2名の面接指導を実施する機会がありました。一人は、受け取った結果を自分で見て、すでに精神科を受診し治療を受けており、面接日にはその後の経過・職場の対応について報告を受けるといった対応となりました。就業上の措置なども意見書には書き入れ、面接指導を終了しました。この方にとっては、まさにストレスへの気づきを促し、セルフケア行動を自ら起こすきっかけとなりました。更に仕事量を調整することにより、メンタル不調へ早急な対応が取れ、悪化・重症化を予防できたと思われます。
 他事業所のもう一人は、症状もさることながら職場の状況をお聞きすると、長時間労働があり、なぜそちらの要面談者としてリストに上がらなかったのかを問うと、サービス残業の実態が明らかになりました。仕事や時間の調整はもちろんのこと、やはり早急な受診が必要と判断し、紹介状を作成し受診勧奨すると共に、上司とも三者面談し、受診・配慮が必要な状況であることを理解してもらい就業上の処置についても意見書を作成しました。
 今後、ストレスチェック結果が手元に届き、さらに申し出による面接指導の機会が増えることが予想されます。この2例を体験し、導入の目的が達成されたことを嬉しく思うと共に、今後、ますます意義ある制度として定着していくよう、そして良好なコミュニケーションが醸成され、産業医として係ることでいきいき働ける、働き甲斐のある職場となっていくことを期待しているところです。
第89回日本産業衛生学会報告 ―次世代につなぐ産業衛生学の研究と実践―
第89回日本産業衛生学会企画運営委員長

福島県立医科大学衛生学・予防医学講座 
福島 哲仁  
はじめに
 第89回日本産業衛生学会は、平成28年5月24日から27日にかけて福島県福島市で開催された。
ちょうど東日本大震災発災から5年が経過した今年、福島の地で本学会が開催されるということを鑑み、メインテーマを「次世代につなぐ産業衛生学の研究と実践」として、今日的な産業衛生の課題を取り上げるとともに、震災を経験した東北地方だからこそ未来に向けて発信できる学会にしたいと考えた。前年の大阪会場とは違って、利便性があまり良くない今回の学会ではあったが、どの会場もたくさんの参加者であふれ、有料参加者数は2,378名であった。
メインシンポジウム
 メインテーマである、次世代につなぐ産業衛生学の「研究」と「実践」を、2つのメインシンポジウムとして企画した。このメインシンポジウムに関しては、東北地方会を代表して「研究」を村田勝敬先生に、「実践」を菅原保先生に企画からすべてお願いし、「研究」は大前和幸先生のご協力の下、「次世代につなぐ産業衛生学の研究-実績・不足・展望-」として、また、「実践」は柴田英治先生のご協力の下に「次世代につなぐ産業衛生学の実践-大企業から中小事業所に広がる産業保健の実践と 今後の展開-」として2日目、3日目にそれぞれ開催され、どちらの会場も熱気にあふれ、すばらしいシンポジウムにしていただいた。
特別講演
 今回の学会では特別講演を2 題企画した。1つめの特別講演は、IARC (International Agency for Research on Cancer) の環境・放射線部門長であるJoachim Schüz 先生をフランスのリヨンからお招きし、”The cancer burden related to occupational and environmental carcinogens and open research questions ”と題して御講演いただいた(写真1)。また、東日本大震災から5年の節目に本学会が福島の地で行われる巡り合わせを思い、2つめの特別講演には、福島県立医科大学理事長兼学長の菊地臣一先生より、「大震災・原発事故-危機下における大学の使命・トップの責任-」と題して御講演いただいた(写真2)。どちらも心に残る御講演であった。
一般演題
 出来る限り(特に40歳以下の若手研究者には)口演で発表をしてもらうことを方針としてプログラムを作成した。その結果、一般演題429題のうち口演が156 題となり、前年の学会よりも口演数が増加した。また、40歳以下の筆頭発表者から、企画運営委員会での選考により3名の若手優秀演題賞を選出し、懇親会の席上で表彰を行った。選出された3名は、大塚智美先生、道下竜馬先生、浅井裕美先生で、3名には表彰状の他に豪華副賞(福島の米30kg、桃、会津の日本酒一升)も贈呈された。
懇親会
 学会3日目の夜に、内堀雅雄福島県知事の御臨席を賜り、ザ・セレクトン福島にて懇親会を開催した。今回の懇親会では、ぜひ福島のすばらしさを知っていただきたいということで、企画運営委員長が気合いを入れて昨年、3年連続で全国新酒鑑評会金賞受賞数日本一(24銘柄)をとった際のほぼ全種類を用意したところ(写真3)、会場を埋め尽くした約400名の参加者の皆様に大変喜んでいただけたようだった。また、会津の郷土料理、喜多方ラーメン、福島の円板餃子など、地元の料理も好評であった。
終わりに
 当初思い描いていた学会の企画のすべてが実現できたわけではございませんが、多くの皆様に支えられて何とか無事に終えることができました。学会開催にあたり、東北地方会の皆様はもとより、全国の学会員の皆様に多大なご協力を賜りました。また、学会にご協賛頂きました企業関係者、後援いただきました福島県、福島市、ご支援いただきました福島県医師会、福島労働局等関係各位に、そして運営事務局をお願いした株式会社JTBの皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
第90 回日本産業衛生学会開催に向けて
第90回日本産業衛生学会 学会長
柳澤 裕之
東京慈恵会医科大学 環境保健医学講座 教授
日本産業衛生学会 関東地方会 地方会長
 “ 働く人の健康を衛る”“ 職業病を予防する”ことを目的として設立された日本産業衛生学会の歴史は古く、第1回学術大会は1929(昭和4)年に倉敷労働科学研究所(現公益財団法人労働科学研究所)所長 暉峻義等(てるおかぎとう)博士を学会長として岡山県倉敷市で開催されました。以来、毎年、学会が開催され、平成29年には第90回を迎えます。
 この度、このような歴史ある日本産業衛生学会の第90回学会長を仰せつかり、平成29年5月11日(木)~ 13日(土)の3日間の日程で東京ビッグサイト TFT ビルにおいて学会を開催することになりました。第90回という節目にあたることから、メインテーマは“ 産業保健近未来図”として、来るべき第100回に向けて今後10年間に労働衛生が向かうべき道筋や取り組むべき課題を取りあげ ております。
 近年、office automation 化やfactory automation 化に伴い、労働環境は目まぐるしく変化する一方で、株式会社クボタのアスベスト問題、大阪の印刷会社で発生した胆管がん、福井の染料・顔料原料製造工場で発生した膀胱がんなど、化学物質による健康障害が表面化しております。また、東日本大震災、それに続く熊本地震の発生で、職場の災害対策の強化が求められております。2015年12月からストレスチェック制度が始まり、労働者の健康保持増進の取り組みも、新たな時代に入りました。最近では、慢性疾患を抱えた労働者に対する就労と治療の両立支援や今後の健診のあり方などの議論が進められております。第90回学会では、働く人の健康増進、未来への慈恵と福祉の実現に向けて、活発に議論し、意見交換することを目的としています。
 第90回日本産業衛生学会では、本学会として初めて厚生労働省が後援団体となり、教育講演や多くのシンポジウムに行政の立場から参加することになりました。ここ5年あるいは10年先の行政の方向性が示されるものと思います。
 会場まではゆりかもめで風光明媚な東京湾を楽しみ、会場では議論や意見交換、最新情報の入手をたのしみ、お台場では観光を楽しみ、有意義な時間を過ごしていただければ幸いです。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。
トピックス:職場におけるメンタルヘルス対策
~岡山における現状と対策~
岡山労災病院 
岸本 卓巳 
 岡山労災病院では、岡山大学大学院疫学・衛生学分野の高尾総司講師らによる産業保健研修会を平成20年度から定期的に開催し、平成24年度からはおおむね毎月第二または第三木曜日の19:00 から2時間、メンタルヘルス対応に焦点をあて講義とグループワークを行なっている。岡山産業保健総合支援センターの協力も得て、医師のみならず産業看護職、人事担当者、社労士の皆様も参加して現場における事例検討や現場での問題点や標準化された対応策について討論を行ない、よりよい明日への施策を練っている。
 また、平成28年11月30日に1回目の実施期限となるストレスチェックに対するその傾向と対策についても高尾講師から総論から各論に至るまで丁寧な御指導を受けており、遠くは神戸市からの参加者も出ている。
 ストレスやメンタル不調に至る諸問題は我々のような嘱託産業医にとっては対応が難しく、我流で対応にあたっている現状であるが、このような事例検討も含む勉強会で人事担当者の皆様からも現場における意見を聞ける機会は貴重である。過労自殺が増加の一途をたどり、厚労省もその対応に苦慮している昨今、大変勉強になるので他県の皆様にも参加して頂くことをお勧めする。高尾総司著「健康管理は社員自身にやらせなさい」(労働管理によるメンタルヘルス対策の極意)は一読に値すると思う。
 一方、岡山産業保健総合支援センターでは2年前から産業医学相談員等による「ストレスチェック制度」に対する説明会を開催して対応に当たってきた。しかし、その内容を十分に把握している事業場は多くなく、派遣労働者に対する対応、面接指導の対応医師の選択など質問項目は山積している現状が明らかとなった。そのため、事業場からの要請により「ストレスチェック制度Q&A~問い合わせ内容から現状を探る~」の演題名にて岡山県内3会場で解説を行なったところいずれの会場も70名以上の多数の参加を得た。ストレスチェック制度については産業医もそうであるが事業場における混乱は否めない。このような質問に対する解説の機会を増やして対応することがストレスチェック問題解決の最もよい対策と思われる。

 
2016 の理事会報告
宇土 博
友和クリニック
最近の産業衛生学会理事会の主な検討事項について報告します。
1.4部会の英語名称の変更
 これまで、衛生技術部会は、日本産業衛生学会のとは、独立的に運営されていましたが、2016年から合流して行うことに決まり、産業医産業看護全国協議会も4部会を統合した全国協議会という名称に変更されました。この全国協議会の名称変更に伴い4部会の英語名称が以下のように変更されました。
 産業医部会 Expert Community of Occupational Health Physicians
 産業看護部会 Expert Community of Occupational Health Nursing
 産業衛生技術部会 Expert Community of Occupational Hygiene & Ergonomics
 産業歯科保健部会 Expert Community of Occupational Oral Health
2.第91回日本産業衛生学会準備状況報告
 会期と会場が説明されたが、震災復興の状況によってはメイン会場が変更になる可能性があることも述べられた。
 会期:平成30年5月16日(水)~ 19日(土)
 会場:熊本市民会館、熊本市国際交流会館他
3.第27回全国協議会準備状況報告
 会期:平成29年11月23日(木)~ 25日(土)
 会場:高知県立県民文化ホール
 テーマ「大規模災害に備える産業保健」
4.社会医学領域の専門医制度に関する協議会報告
 かねてから検討されている専門医制度について報告する。社会医学系専門医協議会において、専門研修プログラム整備基準が確定し、現在は、様々な施設にプログラム作成を働きかけていることが報告された。当面の間、指導医、専門医の経過措置が設けられることになり、その要件が説明され、該当者への手続き(仮登録)の推奨が呼びかけられた。平成29年度の基本プログラムの実施計画(案)が提示され、第90回日本産業衛生学会においても「環境・産業保健」の研修会を行う予定であることが報告された。
5.男女共同参画推進について
 国の男女共同参画の推進を受けて、産業衛生学会でもこれを推進するための活動が提案され、承 認された。
理事会内に男女共同参画推進小委員会を設置する。
女性労働者の健康確保支援ガイドラインの作成。理事会から政策法制度委員会にガイドラインの
作成を依頼する。
広島県報告
当社における転倒防止対策について          
真鍋 憲幸
三菱レイヨン株式会社 統括産業医
 中国地方会の皆様、こんにちは。三菱レイヨンの真鍋です。このところストレスチェックや化学物質RAで、うちの産業保健スタッフはてんてこ舞いです。今回は、宇土先生から命を受け、当社の転倒防止対策について、近況に代えてご報告させていただきます。
<はじめに>
 皆様には改めてご説明することではないと思いますが、厚生労働省の報告によると、労働災害の種 類別分類( 休業4日以上) では、「業務中の転倒」が2005年に最頻出災害になって以降、増加傾向です。 ( 転倒災害の種類[原因]は「滑り・躓き・踏み外し」の3つと定義) 当社においても、ここ数年、 転倒災害は全災害件数中30%以上の発生頻度であり、傾向として40歳台以上が約7割を占めますが、 若年層での発生もゼロではありません。(表参照)
転倒災害のリスク要因のうち、これまで当社は設 備対応や4S、意識改革などの対策は実施してきましたが、人的要素である「運動機能の低下」へは積極的に介入できていない状況でした。また、現在の従業員年齢比率は、40歳以上が6割を締め今後、更に拡大していくことは明確であるため、何らかの対策を緊急に講じる必要性に迫られていました。
 そんな中、JFEスチール(株) 西日本製作所の山下真紀子先生や、アスレチックトレーナーの乍 智之先生、また、旭化成ケミカルズ(株) 水島製作所の中村武博先生が、先進的な取組みをなさっていると伺い、見学に行かせて頂き色々と教えて頂く機会を得ました。どちらの事業所も非常に丁寧にご教授下さり、大変多くの知識を得ることができました。
<当社の転倒防止対策>
 約1年間の準備・パイロット施策の期間を経て、当社は本年度より、転倒災害を防止するための対策として2つのコア施策「KAITEKI 体操」と「安全安心体力テスト」を導入しました。なお「KAITEKI」という言葉は、当社のブランドポリシーに用いている言葉です。この2つのコア施策は、当社の健康経営ビジョンである「3つの健康」( 図参照) のうちの一つ、「職場の健康」を実現するための取り組みとしても重要な位置づけとなっています。特に我々がこだわったのは、これらの施策を「健康増進」として推進するものではなく、「安全対策」事業として展開していくことです。
社内理解に一定の時間を要しましたが、最終的には、「安全対策事業」として安全環境部門が責任部署となり、全従業員に任意ではなく、就業中の義務( 業務) として2つのコア施策を位置づけることができました。
 なお、KAITEKI体操および安全安心体力テストは、JFEスチール(株) のアスレチックトレーナーである乍 智之先生の全面的な監修を受け、当社オリジナルのものを作成しました。
< 2 つのコア施策の位置づけと期待される効果>
 2つのコア施策は、次のような位置づけで展開しています。まず、転倒災害の一次予防として、KAITEKI体操を毎日行うことで、体力レベルの底上げを図ります。二次予防として、安全安心体力テストを行い、体力低下による労働災害発生リスクの高い人を早期に発見します。三次予防として、低体力者への体力回復を支援します。体操と体力テストを並行して行うことで一次~三次予防が可能となり、転倒災害が減少することを期待しています。
◆ KAITEKI 体操
 加齢や運動不足によって衰えやすい身体機能として、筋力、平衡能力、柔軟性に着目しました。転倒につながりやすい不良姿勢の改善や、歩行・立ち座りなどに必要な筋力の低下を防止するため、ストレッチや筋力を高めるレジスタンス運動、関節の柔軟性を高める運動を組み合わせました。( 下記の囲み部分( 従業員向けに作成したリーフレットの一部です))
◆安全安心体力テスト
 安全に働くために必要な体力的機能を客観的に評価するテストとし、体力の上限を見るものではないことを従業員に繰り返し説明しました。評価は問診と3つのテストで行います。
 ・2ステップテスト( つまずきリスクのチェック)
 ・片足立ちテスト (体重支持力(筋力)のチェック)
 ・5m バランス歩行 (動的バランス能力のチェック)
<今後について>
 当社の取組みはまだ始まったばかりです。本年度は、体操開始前の「従業員の現状の体力評価」として上述のテストの結果を集約中です。今後、KAITEKI体操を継続することで、体力テストの評価値が個々人でも組織でも上がっていくことが期待できます。その「改善を数値として実感できる喜び」をモチベーションにして、数年後の「転倒労災発生率の低下」を目指して継続的に取り組んでいきたいと思っています。
岡山県報告
岡山県産業看護部会より活動報告   
松本 眞由美
JXエネルギー(株)水島製油所総務グループ診療所
 平成12(2000)年5月、岡山県産業看護部会と正式名称を掲げ、年に2回の研修会を実施しております。平成28年度は、4月9日(土)に春の研修会を行い、筑波大学医学医療系 准教授 三木明子先生をお招きし、「健康いきいき職場づくり」~ハラスメントで困ってない?~と題し、ご講演をいただきました。51名の参加があり、「ハラスメントに当たるか否かの区別も理解できた」「いきいき職場づくりにはハラスメントの防止は重要だ」など、参加して良かったとの感想を頂きました。引き続き、午後は春の総会を開催し、活動報告・会計報告・今後の予定などを確認しました。
 今年秋の研修会は、10月1日(土)に、川崎医療福祉大学医療福祉学部臨床心理学科教授 谷原弘之先生をお招きし、「発達障害と思われる社員への対応と復職支援」と題し、ご講演をいただきました。大人の発達障害については、毎日昼食にかつ丼を食べている社員が、ある日上司に誘われてラーメンを食べてから「やる気が出ない」との相談や、提出した書類に上司が付けた付箋の色が蛍光色で「やり直し」と書かれており、人格を否定された気持ちになったなど事例を踏まえて、とても分かりやすい説明で、資料を見るだけでも納得できる内容でした。
 また、その後引き続き、交流会の時間を設け、グループに分かれて、現在困っていることや疑問に思っていることなどの話し合いや、産業看護部会の今後のあり方、健保連と合同で開催している研修会について等の意見交換を行い、有意義な時間を過ごしました。
 実は、今回の交流会での意見交換の資料として、岡山県産業看護部会の皆さんへアンケートを依頼し、集計したものを用いました。所属している学会はあるか、過去3年以内に学会に参加したことはあるか、学会参加のための会費活用はどの程度がいいかなど、会員75名中47名の回答(回答率62.7%)を元に、次年度の予算案を検討する貴重な話し合いが出来ました。
 今後は、会員数をもっと増やし、会員同士の交流も図りながら、今後の産業看護活動へと繋がりを強化しつつ、日本産業衛生学会への会員数の拡大や、中国地方会行事への参加も働きかけを行い、活気ある岡山県産業看護部会として、活動していきたいと思っております。皆様のご協力をいただきながら、尽力して参りますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
島根県報告
島根大学医学部環境保健医学講座環境予防医学
嘉数 直樹
 島根県は小規模事業場の占める割合が高く、労働者一人当たりの業務負担がより過重になっているのではないかと懸念されるところです。小規模事業場は65歳以上の雇用者の割合が一般的に高く、高齢者雇用の受け皿になっている側面もあります。この傾向は高齢化率が全国3位の本県では特に強いことが予想されます。
 上述の背景を踏まえつつ、産業衛生の分野における今日的に重要な課題を3つ取りあげ、本県の現状と動向についてごく簡単ではございますが報告させて頂きます。
1. 過労死等対策 -過労死は「防げる死」-
 広告業界の最大手の企業における新入社員の自殺が労災認定された事案が、本年10月に入ってマスコミで続々と報道されています。過労自殺と断じている報道もあり、社会的な関心も高まっています。かかる深刻な事態は一企業の問題ではなく、我が国における労働慣習とも密接に関係していると考えられます。すなわち、全国の多くの企業において起こりうる事案ととらえるべきです。島根県の事業所(5人以上の規模)の年間総実労働時間(2015年)は、1797.6時間で全国平均の1734時間を63時間余上回っているとの統計結果が公表されています(島根県毎月勤労統計調査)。この数値の経年的な推移に留意しつつ、過労死と明確な関連性のある時間外労働時間については県内の各事象所は一層の削減に努める必要があると考えます。
 本地方会ニュースが発行される11月は、平成28年度の過労死等防止啓発月間となります。これにあわせて本県では、同12日に過労死等防止対策推進シンポジウムが開催されます。今後は、過労死は「防げる死」であることが県内で広く認識され、行政機関と企業、労使、産業保健専門職等が一体となった取組みの強化が強く望まれます。
2. ストレスチェック制度 -いかに実効性を確保するのか-
 改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度が施行され、ほぼ1年が経過しようとしています。この間、本県においても島根産業保健総合支援センターや医師会が中心となり、産業医、保健師、事業主向けの研修会が数多く開催されました。
 今後はストレスチェックの個人と集団の結果を事業場におけるメンタルヘルス不調の一次予防にいかに活かしていくのかが大きな課題になってきます。ストレスチェック制度を形骸化させず、実効性を確保していく上で産業保健専門職の真価が益々問われてくるかもしれません。
3. 事業場における治療と職業生活の両立支援 -連携と恊働の重要性-
 がん等で長期に治療が必要な労働者に対して適切な就業上の措置が図れるよう、本年2月に厚生労働省より「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が公表されました。この取組みでは、労働者の主治医、事業場内の管理監督者・人事労務担当者との連携・恊働が特に重要であり、産業保健専門職はその中心的な役割を担うことが期待されます。
 島根県においては、本ガイドラインの普及啓発を目的に島根産業保健総合支援センター主催の産業医・保健師向けの研修会が既に2回実施されております。また、事業主向けの研修会も今後実施される予定です。同センターには2名の両立支援促進員がおり、企業への個別訪問支援等の活動を通じた事業場の実情にあった助言役を担っています。県内の高齢者の多い小規模事業場ではがん就労者等の割合も高いことが予想され、同センターの活躍が一層期待されます。

 来年から再来年にかけては、労働安全衛生法に基づく産業医制度や定期健康診断のあり方が大きく見直されるようです。産業保健専門職に求められる役割の重要性と専門性は今後加速度的に高まっていくと考えております。日本産業衛生学会及び中国地方会を通して、各県、各産業保健専門職間で最新の知見と情報が共有できればと、願っております。
鳥取県報告
日本産業衛生学会中国地方会 代議員
黒沢 洋一 
鳥取大学医学部医学科健康政策医学分野 
 鳥取労働局によると、鳥取県における平成27 年定期健康診断の有所見率は48.9%であり、前年平成26年(49.4%)より低い有所見率となっています。また全国の有所見率(53.6%)よりも低い状況です。定期健康診断では、血中脂質(29.2%)、肝機能(13.8%)血圧(13.9%)が、有所見率10%を超える健康診断項目です。特殊健康診断(法令によるもの)においては、有機溶剤等中毒予防規則等の法令に基づく健康診断の受診者が最も多く2,410人となっており、有所見者が89人で有所見率は3.7%(全国5.7%)です。次いで、特定化学物質健康診断が2,342人で有所見率0.7%(全国1.6%)、電離放射線健康診断が1,142人で有所見率9.6%(7.7%)、石綿健康診断が622人で有所見率2.1%(全国1.4%)となっています。
 平成27年の休業4日以上の業務上疾病は11人で、平成26年(27人)に比べ大幅に減少しています。
疾病の内訳は、「負傷による腰痛」が7人、「高熱物体を取り扱う業務による熱傷」が1人、「暑熱な場所における業務による熱中症」が1名などです。このうち「負傷による腰痛」は、過去10年以上にわたり疾病では最も多く、業種別では病院、社会福祉施設など保健衛生業で最も多い(5人)状況です。
   次に、最近の鳥取県の産業保健関連事業について報告いたします。平成28年度は、新しく始まったストレスチェック制度の高ストレス者に対する面接指導に係る研修会が各地区で実施されています。ストレスチェック制度における面接指導は、産業医によっては専門外で対応が困難との意見があり、そのような産業医を支援するため、産業医が面接指導に関して疑問がある場合、産業保健相談員( メンタルヘルス) 等が相談目、電話、メール、FAX 等で応対するシステムを構築されました ( 鳥取方式)。その他、職場健診結果の事後措置、実践ポイント」や最近増加している「熱中症」等についての研修も行われています。 また、平成28年11月26日(土)、11 月27日(日) には、第60回中国四国産業衛生学会「次世代の労働者の育成と健康管理」(米子市・米子コンベンションセンター)が開催される予定です。
 鳥取産業保健総合支援センターは、平成26年度より産業保健を支援する3事業(地域産業保健事業、産業保健推進センター事業、メンタルヘルス対策支援事業)が一元化され、地区医師会等の協力のもと運営されています。平成28年度はメンタルヘルス、ストレスチェック制度に関する産業医向け研修、事業者・産業保健スタッフ向け研修を行い、メンタルヘルス対策促進員の個別訪問支援、高ストレス者に対するする面接指導等が実施されています。また、治療と職業生活の両立支事業も取り組まれています。
 以上、簡単ですが最近の鳥取県の産業保健の状況を報告させていただきました。
山口県報告
第66回学会長

三井化学株式会社大牟田工場(元岩国大竹工場)
産業医
横田 直行
 第66回の山口県産業衛生学会を2016年2月7日に山口市の総合保健会館で開催いたしました。今回は「労働衛生の新たな潮流」をテーマとして、法令の改正がありました「化学物質のリスクアセスメント」と「ストレスチェック制度」を取り上げました。
 午前中の特別講演Ⅰでは「産業保健職のためのやさしい化学物質管理~ヘップサンダルからリスクアセスメントまで~」と題して、三菱レイヨン株式会社統括産業医の真鍋憲幸先生からお話をいただきました。笑いを交えた楽しいお話で、化学物質のリスクアセスメントの基礎から応用まで分かりやすくご説明をいただきました。
 昼からの特別講演Ⅱでは、山口労働局労働基準部健康安全課の田中俊明課長様より「最近の労働衛生行政について」と題して講演を賜りました。化学物質のリスクアセスメントが義務化された背景とその実施方法について、行政の立場から詳細に解説されました。
 午後に行いましたシンポジウム「メンタルヘルス対策におけるストレスチェック制度の実際」では、基調講演として三井化学株式会社統括産業医の土肥誠太郎先生から、メンタルヘルス対策全般の中でのストレスチェックの位置付けと、ストレスチェックを企業の中でどのように活かしていくかを実例も交えてご紹介していただきました。その後、シンポジストとしてお立場の異なる方々からお話をいただきました。まずは産業看護職のお立場から宇部フロンティア大学講師の立川美香先生に、ご自身の実務経験を踏まえ、ストレスチェック制度において看護職に求められる役割や担うべき役割について、次に嘱託産業医の立場から淳風会の徳弘雅哉先生より、主に開業医で嘱託産業医をされている先生方へ向けて、ストレスチェック制度において嘱託産業医が果たすべき役割と、また制度の策定前から関わることによって、嘱託産業医が担う役割を自身で決めることが出来る可能性についてご説明をいただきました。そして最後に日本予防医学協会の橋本誠先生より、外部健診機関へストレスチェックを委託する際に注意すべき点などを中心に、本音を交えたお話をいただきました。引き続き、指定発言をいただいた山口県産業保健推進センターの奥田昌之先生も含めご登壇をいただき、活発な総合討論が行われました。
 当日は専属産業医、企業勤務の産業看護職、嘱託産業医活動に従事している医師会会員の先生方、衛生管理者など約230名の方にご参加をいただき、盛会裏に終えることが出来ました。ご参加いただいた皆様や大会関係者に感謝申し上げます。
編集後記
日本産業衛生学会編集後記第3号

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 
公衆衛生学
江口 依里
 つい先日まで冷房をつけて過ごしていましたが、最近はすっかり朝が冷え込みます。会員の先生方におかれましてはお変わりございませんでしょうか。今回で日本産業衛生学会中国地方会3回目のWeb版ニュースレターの発行となりました。お読みいただきまして誠にありがとうございます。前号では、各部会の先生方に部会報告をいただきましたが、本号では、トップページとトピックスの記事に加え、各県における活動をご報告いただきました。大変充実した内容となっておりますので是非お読みいただけますと幸いです。ご執筆いただいた先生方、誠にありがとうございました。

 さて、産業衛生の分野において、本号の他の記事にもありました広告代理店での自殺事案等の影響もあり、ますます職場のメンタルヘルスが話題となっております。私自身も最近ウェブ上のストレスチェックを実施いたしました。現在私が実施している2つのストレス解消法をご紹介させていただきたいと思います。

 まず1つ目はランニングです。今年3月より教室の大学院生とともにレコーディングダイエットを始め、写真のグラフの通り、8ヶ月間で4キロの減量に成功しました!(現在少し停滞期...。)記録することで、食事にも少し気を配るようになり、週約3回ランニングをするようになりました。運動とメンタルヘルスとの関連は多くの研究にて報告されているとおりです。BDNF(脳由来神経栄養因子)が分泌され、生産性や幸福感も増すことが報告されています。(M.E. Hopkins, et al. Neuroscience, 2012)自分自身の実感としても体が冷えにくくなったり、頭がすっきりしたり、いい影響が感じられます。毎日の生活に運動を取り入れることは大変ですが、ダイエットと健康のために、これからも1日5km、週に3回のランニングを続けようと思っています。モチベーションUPのため、今月は神戸マラソンにも挑戦する予定です。定期的な運動はあまり行っていないなぁという先生方、無理は禁物ですが少しずつランニングやウォーキングを始めてみてはいかがでしょうか。

2つ目はアロママッサージの介入研究です。
 生活習慣の改善が大変であることは身をもって感じております。そこで現在、私が大学院生の協力を得て効果を検証しているのがアロママッサージの効果です。[Okayama University Medical Research Updates(OU-MRU)Vol.25]アロマフットマッサージの教室に週3回1ヶ月間参加することにより、血圧値が改善し、不安の得点が軽減し、精神的健康の向上する傾向があることが明らかになりました(Eguchi E et al. PLoS ONE, 2016)。早速家でもアロママッサージやアロマディフューザーで、リラックス効果を発揮させています。もちろん、アロマオイルの内容や質にも効果は異なることでしょう。この研究は、生活習慣の改善よりも楽しく取り組めるというメリットがある反面、決められた時間に教室に週3回参加しに行く必要があるという欠点があります。そこで、次回は自宅でさらに手軽にできるペアでのアロマハンドマッサージの介入研究を実施し、血圧や自律神経機能や不安の評価に加えて、認知機能の改善やお互いの関係性の向上についても評価し、自宅での介護に役立てることができるかについて検証しようと思っています。

今回は、運動とアロママッサージのストレス解消効果についてお話させていただきました!神戸マラソンの結果については次号にてご報告させていただきたいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。今後とも日本産業衛生学会中国地方会をよろしくお願い申し上げます。