日本産業衛生学会 中国地方会
地方会ニュース 第30号(平成30年1月)
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山口で頑張ってます

宇部興産株式会社 総務・人事室 健康管理センター
健康管理室 統括産業医
塩田 直樹 
 この度、日本産業衛生学会評議員、中国地方会代議員を仰せつかりました宇部興産の塩田と申します。略歴その他は以下の通りですが、小児科医と産業医との二足のわらじを履くきっかけとしては、臨床医時代に外来や病棟でムンテラをしている際に感じた「この子の大事な将来の話をしているはずなのに、なぜ両親が揃って話を聞かない(主に母親任せ)のだろうか?」という素朴な疑問からでした。

 産業医科大学出身ですので、大学医局に最短で戻る為の専属産業医2年間を過ごすつもりで着任したのが現所属でした。いざ現場を見てみると、当社に限った事ではないと思いますが、労働の現場には成果主義、業務目標管理、過重労働、メンタルヘルス不調等々過酷な現状が存在しており、「子どもを救うためには、まずは親が健康に働ける状況を支えねば!!」との思いに至り、今に至っているような状況です。今では日本産業衛生学会指導医と日本小児科学会認定指導医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)等々の専門資格を持ち活動させて頂いており、今でも週に1日の研究日を活用して、北九州市の病院で発達外来を継続しております。

 話しは変わりますが、先日、縁あって、高知県で開催されました第27回日本産業衛生学会全国協議会の場で、チャレンジングなシンポジウムの企画運営を担当させて頂きました。本誌をご覧になっておられる方の中にも、当日お越しになられた方もおられるとは思いますが、概略を御報告させて頂きます。シンポジウムのタイトルは「職場での発達障害を考える~識者に学ぶ、“共に働く”ための視点とは~」とさせて頂きました。
 本シンポジウムを企画するにあたっては、山口県産業医会が、2015年9月に、県内の総務・人事担当または衛生管理者に対して行った、「精神障害(発達障害を含む)を有するメンタルヘルス不調者の雇用支援に於ける、産業保健専門職に求める適切な支援のあり方に関する調査」を参考とさせて頂きました。
 下記にその結果の一部をお示し致しますが、メンタルヘルス不調者の背景要因として発達障害の可能性や社会性の未熟さについての課題を抱えている企業が多く存在し(図1)、その一方で、「相談先がない・わからない」「知識が十分でない」「具体的な支援方法がわからない」(図2)との結果が得られ、職場不適応をきっかけに問題が顕在化し、事例性に関する職場一体となった支援が求められる一群が存在し、それらの労働者への適切な支援の在り方についての対応が求められている現状が明らかとなりました。

 そこで今回のシンポジウムでは、職場で「困った人」としてしか認識されていなかった人が、復職・就労支援の過程で発達障害であることが確定あるいは懸念され、実は「困っている人(発達障害者)」として再認識され、合理的配慮の扱いを巡って、現実的な対応に困ってしまい混乱が生じている現場の課題に着目し、障害を前提とした枠組みに捉われることなく“共に働く”、“精一杯働く”ための支援の在り方を再考する 機会が提供できればと考え企画させて頂きました。
 当日は、熊谷先生に当事者研究分野での学術面における最新の知見を、陶先生に現場での復職支援・就労支援の過程から見えてくる当事者及び関係者を支援する上での課題を、有田先生には経営者の視点から見た障害者を特別扱いしない職場環境づくりの知見を、中西先生には産業医の視点から見た現場の課題の整理と苦悩について、ご講演頂きました。
 恐らく本学会初の試みではないかと思いますが、最初の演者の東京大学先端科学技術研究センター准教授熊谷晋一郎先生に、今流行りのIT技術を駆使したSkypeを使っての登壇を頂き、総合シンポジウムの場でも円滑に参加頂けたことは、熊谷先生、陶先生が別々の視点で述べられた「障害は人ではなく、社会の側にある」との思いを出席者全員で体感頂く機会ともなったのではないかと感じました。また、有田先生がお伝えされた「二人で二人前(配慮の押し付けはしない、企業だから出来る事・出来ない事をはっきりしておく)」や、中西先生がお伝えされた「手順・対策を一緒に考える(OJT(トレーニング)+OJS(サポート))」の考え方は、現場で合理的配慮を考えていくうえでの大変重要なキーワードを提供頂いたのではないかと感じました。有難い事に、学会初日かつ最初のプログラムだったにも拘らず、立ち見が出るほどの盛会な中で進行させて頂いたことに感謝しております。

 以上、取り留めのない報告となってしまいましたが、今後とも、御指導・ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い致します。
第61回中国四国合同産業衛生学会(高知)のご報告
第61回中国四国合同産業衛生学会 学会長
和田 安彦
前高知県立大学健康栄養学部、和歌山県田辺保健所 
 第61回中国四国合同産業衛生学会を「産業保健における疫学データの活用と倫理」をメインテーマとして、平成29年11月24日(金)から25日(土)まで高知市の高知県立県民文化ホールにて第27回全国協議会(23日から開催)との合同で開催いたしました。高知市では第55回学会以来、6年ぶりの開催地となりました。約210名の参加をいただき、盛会裏に閉会しました。ご参加いただいた会員の皆様や、ご協力いただいた関係者の皆様に心より感謝いたします。
 スケジュールは例年とは異なり、11月24日の午前に全国協議会との合同企画シンポジウム5「産業保健における個人の健康情報の保全・活用と倫理」を開催しました。愛媛大学三宅吉博教授による「産業保健における疫学研究」、東京大学医科学研究所井上悠輔准教授による「研究倫理指針の改正と医学研究」、京都工場保健会森口次郎理事による「労働衛生機関における情報管理と活用」のご発表と金子努法律事務所金子努弁護士による法的なアドバイスをそれぞれいただきました。その後の全体討論を通じ共有財産としての健康情報の活用について共通認識を得られ、川上憲人日本産衛学会理事長からも分かりやすかったとの評価をいただきました。
 夕方18時半から学会場隣の三翠園庭園に面した会場で盛大に行われた全国協議会懇親会に混ぜていただきました。全国協議会の菅沼成文企画運営委員長、杉原由紀運営実行委員長のご高配により実現した高知の日本酒競演や鰹の藁焼き実演、正調よさこい踊りなどの企画に中四国はもちろん全国からの参加者が魅了され、高知の食と文化を深く知ることとなりました。なお、学会前の9月にNHK TVブラタモリで高知の地形形成と文化・歴史が紹介されていたことも盛会の一因と思われます。
 翌25日の午前中に13題の一般演題の口演があり、いずれも学会メインテーマ「産業保健における疫学データの活用と倫理」の実践と言えるもので、学術的な内容も含まれ、活発な議論と教育的配慮により相互の理解も深まったと思います。
 11時から中国地方会役員会、四国地方会役員会が、12時より合同役員会がそれぞれ開催されました。その後主会場で総会を開き、次期学会長の島根大学神田秀幸教授からもご挨拶いただきました。その後同じ会場で全国協議会合同企画、市民公開講座「過去の災害・防災風土資源から学ぶ 〜ローテク防災術・津波避難タワーについて〜」を開催し、香川大学松尾裕治教授から、先人の知恵から学ぶ減災の考え方を分かりやすくお示しいただきました。
 14時からの部会研修は4つ同時に進行しました。まず、産業医部会研修会では、「社内診療所の診療で注意したいこと 〜想定症例を基にした対応検討〜」をテーマにした吉永光一郎先生(日本製鋼所広島製作所診療所)の事例検討の実習があり、続いて「働き方改革につながる過重労働医師面接の実際 ~健康障害を起こさないために~」をテーマに中瀬勝則先生(中瀬医院)からの解説と模擬面接の実習が行われました。産業看護部会研修会では、「産業看護職の実践能力向上をめざして ~研究論文作成の手がかり~」をテーマに藤井智恵子先生(松蔭大学)から講義と演習を行っていただき、続いて「社員が安心して働けるためのメンタルヘルス体制の見える化」をテーマに赤澤百合子先生(㈱タダノ志度工場)から事例を発表いただきました。産業衛生技術部会研修会は、門田義彦先生(門田労働衛生コンサルタント事務所)から「事業場における有害業務」、浜井盟子先生(愛媛大学統合医科学)から「医療機関における安全衛生の管理」とそれぞれ題してのご講演をいただきました。産業歯科保健部会研修会は全国協議会との合同シンポジウム形式で「特定健診・特定保健指導における歯科口腔保健」をテーマに開催され、大勢の参加がありました。座長の趣旨説明の後、岡田寿朗先生(香川県歯科医師会)から「日本歯科医師会が作成した『標準的な成人歯科健診・保健指導マニュアル(生活歯援プログラム)』について」、加藤元先生(日本アイ・ビー・エム健康保険組合)から「健康保険組合の取り組み – 行動変容を目的とした歯科予防プログラムの展開 –」、林浩範先生(香川県健康福祉部)から「特定保健指導における歯科保健指導の効果」とそれぞれ題するご発表をいただき、全体討論では多職種による活発な議論が展開され、職域における食を含む歯科保健の重要性が認識されました(写真)。
 なお、学会長の急な個人的事情により全国協議会の杉原先生(高知県庁)、四国地方会長の菅沼教授(高知大学)及びそれらのご所属の皆様に運営をお願いする事態となりましたことをお詫び申し上げます。
 最後になりますが、参加された多くの皆様と、協力いただいた諸先生方、関係諸機関に御礼申し上げますとともに、中国四国合同産業衛生学会の今後益々の発展を祈念いたします。

写真:産業歯科保健部会研修会のシンポジウム
第27回日本産業衛生学会全国協議会のご報告
第27回日本産業衛生学会全国協議会企画運営委員長 
菅沼成文
(日本産業衛生学会四国地方会長 高知大学)
 平成29年11月23日(木)から25日(土)の3日間、905名の方にご参加いただき、高知市の高知県立県民文化ホールで、日本産業衛生学会の産業医部会、産業看護部会、産業衛生技術部会、産業歯科保健部会の4部会合同での全国協議会として2回目となる「第27回日本産業衛生学会全国協議会」を開催した。また、例年この時期に開催している「第61回中国四国合同産業衛生学会」も合同開催となった。
 平成28年3月に準備会を開催し、企画運営委員会が発足した。併せて、日程と高知での開催が決定した。高知での開催に際して、高知らしいテーマというところから企画運営委員会で議論し、4つの部会すべてが関心を持つことができ、かつ部会の垣根を越えた議論ができるテーマとして、「大規模災害に備える産業保健 ~過去に学び・未来に備える~」を全国協議会のメインテーマとした。
四国地方会の各部会幹事が中心となり、4つの部会の全面的な協力も得て、全国協議会の「実践を重んじる」という方針に沿うようシンポジストの選定やセッションの企画がされた。メインシンポジウムは「過去に学び未来に備える産業保健」をテーマとし、その備えとなるBCPについて、前日のシンポジウム「危機に備える ~産業保健を含めたBCP立案~」が企画された。今回は第61回中国四国合同産業衛生学会を同時開催するのにあたり、シンポジウム「産業保健における個人の健康情報の保全・活用と倫理」を合同企画とした。
 今回、事業所研修は初日23日が祝日であることから、24日午前の実施となった。高知ならではの事業所をということで、製造業3社((株)垣内、(株)太陽、ニッポン高度紙工業(株))、造船(新高知重工(株))、食品製造(澁谷食品(株))、酒造(司牡丹酒造(株))の6社にご協力いただいた。各事業所では職場巡視実習後、熱心に質問や討論が行われ、事業所の方からも振り返りのためのよい機会になったとコメントをいただいている。特に人気の高かった司牡丹酒造(株)への参加者からは、夕方の懇親会の席でも、様々豆知識が披露されていた。
 24日の午後は、室崎益輝先生(兵庫県立大)による基調講演「大規模災害に備える産業保健」において、阪神・淡路や東日本の大震災の経験から、正しく備えることの大切さをご講演いただいた。続いてのメインシンポジウムでは、久保達彦先生(産業医科大学)から、災害産業保健のこれまでの経緯と今後の展望について、土倉義浩先生(東京海上日動)からは熊本地震の企業への影響についてBCP策定のメリットとまたその限界等について、岩村和典先生(ニッポン高度紙工業(株))からは、「従業員の安全を確保すること」と「供給責任を果たし、信用・信頼を維持すること」を2本柱としたBCP策定理念から実際の事業継続への取り組みについて、尾﨑正直高知県知事の代理として登壇された酒井浩一先生(高知県危機管理部長)からは、南海トラフ地震に立ち向かうための行政の取り組みの紹介についての講演いただいた。それぞれの講演後、フロアを交えての討論となったが、日常の安全衛生への取り組みの大事さやBCP策定に安全衛生部門が関わることの重要性などが議論された。
 その他のシンポジウムは、大規模災害時のリスク対応や歯科の価値・役割、BCP立案といったテーマから、昨今話題の多い「発達障害」、「治療と職業生活の両立支援」「化学物質管理の現状と課題」と幅広く7つ行われた。教育講演も災害に関わる3題と治療と仕事の両立支援、男女共同参画に関する話題と、計5題行われた。
 特にシンポジウム1「職場での発達障害を考える -識者に学ぶ“共に働く”ための視点とは-」は、初日の午前中からのセッションにも関わらず、会場がほぼ満席となるほどの盛況ぶりであった。シンポジストの熊谷晋一郎先生(東京大学)が急遽Skypeでの登壇となったが、座長、シンポジストの先生方、フロアからのご協力により、無事進行でき、IT化の進んだ現代の学会の在り方を提示できたかもしれない。企画の時間中はほとんどロビーに人が居ないという状況から、各会場ともに全体的に熱心に議論が行われ、参加された皆様が十分に満喫されたものと考えている。
 産業看護部会、産業技術部会、産業歯科保健部会の研修会がそれぞれ行われたが、部会を超えて相互に参加者があり、幅広い討論の行われる研修会となった。また参加者からも、普段の研修会とは違った視点の話が聞けて有益だったと肯定的なご意見をいただいている。また、自由集会は5つ行われた。
 過去最多の70題の示説演題の発表がされた。座長は置かず、1時間のコアタイムに自由にディスカッションする形式であったが、生活習慣病、保健指導、職場環境改善、ストレス、メンタルヘルス等幅広いテーマの発表が行われた。これらの演題の中から、産業医部会のポスター賞に、犬飼みほ先生(リコー三愛グループ)の「職域における肥満度とのちの総医療費との関係 第一報」が、産業看護部会のポスター賞に、川副愛子先生(西日本産業衛生会)の「知的障害者雇用事業所におけるストレスチェック 企業外労働衛生機関保健師の立場としての支援」と今野瑠美子先生((株)日立製作所)の「情報通信関連事業所における男性就労者のアテネ不眠尺度関連因子について」がそれぞれ選出され、懇親会場にて表彰された。
 24日夕方に、会場の南隣の三翠園(土佐藩主山内家下屋敷跡)にて、川上憲人日本産業衛生学会理事長の挨拶、産業医部会と産業看護部会のポスター賞表彰がなされ、岩城孝章高知県副知事によるTOSAワインでの乾杯で幕を開けた懇親会では、高知県酒造組合と企画運営委員持ち寄りの高知県内18酒蔵の日本酒と、実演による鰹のタタキを十分に堪能いただけたものと思う。正調よさこい踊りの演舞に誘われて、参加者も鳴子を手に、一緒によさこいを踊って会場は一体感に包まれた。
 杉原由紀運営実行委員長の思い描いたとおり、4部会が部会の垣根を越えて参加ができる企画、参加者が共通に関心の高いポスター発表のコアタイムと基調講演およびメインシンポジウムの時間に重なる企画を入れない、ランチョンセミナーは行わず、昼休みは町を散策し高知のおいしいものを召し上がっていただこう、という手作り感溢れる全国協議会となったのではないか。ご協力いただいた各企画の座長および講師、シンポジストの先生方はもとより、熱心に聴講し、討論にも加わっていただいた参加者の皆様のご協力にも、厚くお礼申し上げる。
第2回日本産業衛生学会中国地方会報告

中国地方会産業医部会長 
宇土 博
(友和クリニック)
 2017年8月5日(土)、第2回中国地方会研究会を広島大学医学部の広仁会館の大講義室で開催した。医師会の先生方を始め65人が参加で盛況でした。
 中国地方会研究会は、中国地方の産業衛生に携わる専門家の交流をさらに深め、産業保健の発展に寄与するために平成28年に発足しました。第1回研究会を平成28年2月13日に岡山で開催しました。第2回研究は、この広島で開催いたしました。
 今回の研究会では、現在、我が国で大きな課題になっている職業癌および関連疾患としてのアスベスト問題について、岡山労災病院の岸本卓巳先生に最近のトピックスを含めて講演をお願いしました。岸本先生は、造船作業でのアスベスト中皮腫や肺がんが多発している呉市の共済病院に勤務されている時に、アスベスト問題に精力的に取り組まれ、その後岡山労災病院に赴任されてからも、一貫してアスベスト問題に取り組まれてきました。
 近年、アスベストによる中皮腫の年間死亡数が1500人(2015年)を超え、増加する傾向にあり、先生の講演は、時宜を得たものでした。
 また、私の方で、現在の企業における大きな課題である職域のうつ病の予防と新しい統合医療の治療対策を取り上げ講演しました。そのなかで、新しい頸性うつ状態の概念、職域で使いやすいうつ状態の病態分類、代替医療としての鍼治療の提案を行いました。
 講演に対して、会場からも、パソコン作業者に頸部障害を訴える者が多く、大いに注目する必要があることが指摘されました。現在、パソコン作業は、多くの業種でますます長時間化しており、頸部の交感神経の刺激を介した睡眠障害による頸性うつ病の増加が懸念されます。今後の、うつ病の対策に頸性うつ病の対策が組み込まれることが望まれます。
 一般演題では、三菱レイヨン株式会社の真鍋憲幸先生に、最近企業で増加している転倒事故の予防対策についてお話していただきました。従業員の高齢化や運動量の不足により、平地での転倒災害が全国的に増加し、厚生労働省の報告では、労働災害の種類別分類(休業4日以上)では、「業務中の転倒」が2005年に最頻出災害になって以降、増加傾向にあります。
 三菱レイヨンでもここ数年、転倒災害は全災害件数中30%以上の発生頻度であり、傾向として40歳台以上の受傷が約7割を占めると報告された。対策としての災害防止の体操と体力テストの取り組みは、他企業での参考になるものでした。
 また、鎗田労働衛生コンサルタント事務所の鎗田圭一郎先生に、1昨年12月から施行されたストレスチェックの現状と課題について、これまでの経験を踏まえ、面接場面での対応を含めて、現状と課題についてお話していただきました。産業医は、メンタルヘルスを避ける傾向がありますが、取り組みに特別なスキルは必要なく、積極的な取り組みを行うように提言されました。次回第3回中国地方会研究会は、2019年度、鳥取での開催が予定されています。皆さんの積極的な参加を呼び掛けます。
第91回日本産業衛生学会(熊本)のご案内
第91回日本産業衛生学会総会
企画運営委員長
熊本大学大学院生命科学研究部 公衆衛生学分野
加藤 貴彦
 2018年5月16日(水)から19日(土)にかけて、第91回日本産業衛生学会を熊本市で開催させていただくことになりました。日本産業衛生学会中国地方会の皆さまに、企画運営委員長として一言ご挨拶申し上げます。

 第91回総会のメインテーマは「悠(はるか)なる産業保健 ―人と科学技術の連鎖―」です。人は、生活のなかで様々な生産活動を行ってきました。18世紀の産業革命は、道具の時代から機械の時代へと世の中を変遷させ、工業生産を飛躍的に増加させました。しかし、それは一方で、有害化学物質に曝露される労働者が飛躍的に増加することとなり、様々な健康障害や公害問題が発生しました。また、社会システムにおいては労働者と資本家が分離することによって、人々の経済格差を広げました。1990年代にはいると、インターネットによる情報技術革新の幕開けとなり、仕事の遂行には、多様かつ大量の情報処理能力が要求され、人の心理的な負担が増大していきました。今はまさに、このインターネット社会革命が地球全体をおおっている時代といえるでしょう。
 近年の科学技術は目をみはるほどのスピードで進化を遂げています。未来学者のレイ・カーツワイルは、コンピューターが全人類の知性を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」(Singularity)が2045年に到来すると予測しています。「人口知能」(Artificial Intelligence, AI )やロボットのような科学技術の進歩によって、我々の働き方は大きく変化する可能性があります。人の体と頭脳、機械が融合し、壮大な知的共同体が出現するという予測もあり、働くということの意味を根本的に変えてしまう未来があるかもしれません。翻ってみると、科学技術は様々な功罪を含みながら、社会システムや我々の働き方へ大きな影響を与えてきました。例えばAIやロボットによる代替化は、労働移動や失業を引き起こす可能性がある一方、障害を抱えた人々に対しては、公平に働く機会への扉を開いてくれる可能性もあります。本学会総会では、人と科学技術の連鎖について、その歴史と未来、そして多様性について活発な議論を深めていただきたいと存じます。
 現在までの進捗状況ですが、海外特別講演、メインシンポジウム3題、シンポジウム14題、他学会との共同シンポジウム3題、教育講演10題、そして自由集会49題を予定しております。また、今回の熊本で開催する学会では、35歳以下(※演題登録時)の筆頭発表者から、若手優秀演題賞を選考する予定です。
 会場は熊本市内の1) 花畑町地域(市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)と熊本市国際交流会館)と2) 水道町地域(鶴屋ホール(7F)/くまもと県民交流会館パレア(9F, 10F)、一つのビルです)の2地域の3か所です。

 2016年の熊本地震から1年半が過ぎましたが、現在もなお、我々は復旧から復興に向け県民一体となって頑張っています。学会会場は、熊本城近くの中心市街地にあります。周辺には飲食店やホテルも多く、大変便利でにぎやかな場所です。参加者の皆さまには大いに楽しんでいただけるものと思います。

 最後になりますが、多くの会員の皆さまが熊本にお越し下さり、本学会総会に積極的にご参加くださいますよう心よりお待ちしております。

学会事務局
熊本大学大学院 生命科学研究部 環境生命科学講座 公衆衛生学分野
〒860-8556 熊本県熊本市中央区本荘1丁目1番1号
TEL:096-373-5112(直通) FAX:096-373-5113
第91回日本産業衛生学会ホームページhttp://www.convention-w.jp/jsoh91/index.html
トピックス
社会医学系専門医制度の開始

大槻 剛巳
川崎医科大学 衛生学
社会医学系専門医協会理事
 医師会員の方々はすでにご存知かと拝察いたしますが、2017年春より、臨床系の新専門医制度に先駆けて、社会医学系専門医制度が発足しました。臨床系も当初は2017年度よりの開始を目指していましたが、種々の課題が明らかになって実際には2018年度からの開始になります。当初、臨床系では初期研修を終えた医師は、すべからく新専門医制度のいずれかの専門領域を専攻することなどの表記がありましたが、実際に産業医として業務に従事されている方々もお分かりのように、産業保健はもとより、行政、公衆衛生、疫学、環境保健などなど、集団に対して健康の不都合の予防に対峙するために、医師としての専門性、知識と技能が必要になる場面も多く、あまたの医師たちが活動しています。そこで関係する団体・学会が2015年春より制度設立に向けた協議会を発足、将来的な日本専門医機構への合流も視野にいれつつ、独立した制度として立ち上げるべく検討を重ね、2016年12月には一般社団法人「社会医学系専門医協会」を設立、2017年4月からの認定プログラムへの専攻医の受入れをすべく、経過措置専門医・指導医の認定作業および自治体や大学を中心とした研修プログラムの認定作業を進めました。初年度ということもあって、開始後半年まで認定作業を継続しておりましたが、2017年年末の段階で、指導医 2,245 名、専門医 269 名、研修プログラム 認定 62、専攻医 107 名 (担当指導医 57 名)の概要となっております。協会は14の関連学会団体によって構成され、詳細は社会医学系専門医協会WEB(http://shakai-senmon-i.umin.jp/)をご照覧頂きたいのですが、日本医師会や日本医学会連合も含めて、社会医学・予防医学・公衆衛生領域を網羅して制度運営にあたっております。協会の構成メンバーである学会の中で、発足前より専門医制度を有していたのは日本産業衛生学会のみでありました。よって日本産業衛生学会では従来の産業衛生専門医を社会医学系専門医のサブスペシャルティとして位置づけることになったのです。さらに制度発足後は、図(日本産業衛生学会専門医制度委員会 事務局長 大神 明氏(産業医科大学産業生態科学研究所 教授)原図を許可により引用)の通りです。また詳細は産業医学ジャーナル2017年11月号(Vol.40 No.6 通巻235号)の特集「新専門医制度をめぐって―制度創設の経緯から今後の展望まで」の中に大神氏が「日本産業衛生学会の取り組み」として記載されてますのでご参照頂ければ幸いです。社会医学系に従事する医師の活動において、専門医制度を設けることで国民の目にわかりやすく、そして何よりも労働も含めた社会生活の中での疾病予防や健康増進への取組に理解を得ることの重要性を鑑み、本制度のさらなる充実と発展にご理解とご協力をお願いいたします。
産業医部会報告
第61回 中国四国合同産業衛生学会 
産業医部会研修会報告

中国地方産業医会部会長
宇土 博
(友和クリニック)
 去る11月25日(土)に高知県立県民文化ホールで、産業医研修会が行われたので、報告します。吉永 光一郎(日本製鋼所広島製作所診療所)先生によって、「社内診療所の診療で注意したいこと -想定症例を基にした対応検討-」をテーマにグループワークが行われました。参加者は、50名を越え盛況でした。 今回のテーマは、多くの産業医が産業保健的な予防活動だけでなく、社内診療所で診療を行っており、問題を起さず、どの範囲まで診療を行うか悩むことが多いことから選ばれたものです。

 一般的な開業では、地域の医療需要と自分の臨床能力を検討した上で、必要な医療機器を整備し開業することになるが、社内診療所を継承する場合、十分な準備ができていない状態で、総合診療的な医療を求められることが多い。需要と供給(医師の診療能力、医療機器)のマッチングという点においては、ミスマッチが起こりやすいと問題提起が行われました。

 実習では、社内診療所での診療経験を基に起こる可能性のある3つの想定事例が提案されました。

 医療資源の少ない社内診療所において、どのように対応するか検討がされました。

 〔事例1〕軽度の体調不良であるが、治療内容について具体的な要求がある事例:医師側からみて、要求に答えることが難しい場合の対応について検討する。

 〔事例2〕帰国後の発熱の事例:業務やプライベートでの海外渡航が増加している。社内診療所には帰国後の発熱や下痢という受診例もある。自院での治療と高次医療機関への紹介のタイミングを検討する。

 〔事例3〕非典型的な症状を訴える事例:社内診療所は医療機器も少なく、一般的には病歴と身体所見を中心に判断していかなければならない。病歴と身体所見から判断することが難しい症例に遭遇した場合の対応について検討する。

 3つの事例のうち、時間的な関係で、2つの事例がグループと討議されました。これらの事例は、参加者にとって、身近な興味ある問題であり、活発な意見が述べられました。今回は、社内診療所で働く産業医の悩みを正面切って検討されたものであり、今後に引き継ぐべき課題として意義があったと思われます。
産業看護部会報告
土佐の高知で学会に参加して ~楽しんで、ためになる3日間~

第27回日本産業衛生学会全国協議会、
第61回中国四国産業衛生学会
中国地方会幹事 
落合のり子
島根県立大学
 2017年11月23日から25日の3日間、高知市の高知県民文化ホールで全国協議会と中国四国合同産業衛生学会が合同開催されました。岡山から特急で2時間半、瀬戸大橋を渡り晩秋の紅葉を楽しみながら高知駅に降り立つと、澄み切った青空にココロが軽くなってきます。駅からはレトロな路面電車に揺られ、高知城の近くの会場へと到着しました。
 1日目:産業看護部会、自由集会に参加した後、夕方からは有名な「ひろめ市場」に出向き、全国の産業看護職等と土佐の料理とお酒を堪能しました。ひろめ市場は大きな屋台村のような施設で、和洋中さまざまな飲食店が約40店舗も入っています。空きテーブルを確保したら、好きな店舗で好みの料理をいろいろ買って持ち寄り、自由に飲んだり食べたりできる特別な空間で、むせ返るような熱気に包まれており、そのエネルギーに圧倒されながら、高知に来たことを実感した夜となりました。
 2日目:午前中の産業看護部会研修会では「避難所運営ゲーム(HUG)~職場が長期避難所になったら~」が、高知県立大学大学院健康長寿センターの久保田聰美氏を講師に開催され、大好評でした。今回の全国協議会のテーマは「大規模災害に備える産業保健」であり、高知ならではの実践的な研修になっていました。基調講演では、南海トラフ地震に備えて高知県内に100基もの津波避難タワーが設置されるなど、さまざまな対策が進められていることを知り、災害への備えは本気で自分事として行う必要があり、職場での対策を真剣に考える機会を持ちたいと感じました。
 懇親会では、つい話し込んで時間があっという間に過ぎ、気づいたらクライマックスの「よさこい鳴子おどり連」が登場し、それとともに鳴子が会場の全員に配られ、鳴子を鳴らしながらみんな乗せられて踊り続けることに。「高知の城下へ来てみいや(ソレ) じんまも ばんばも よう踊る 鳴子両手に よう踊る よう踊る」こんな懇親会は初めて!と、笑顔に包まれ、今夜もまた忘れられない夜になりました。
 3日目:産業看護部会世話人会では、中国四国9県の産業看護職の代表者と産業看護部会幹事が、各県の研修会の運営等について情報交換を行いましたが、今回は、残念ながら時間の制約があり課題解決の検討までできませんでした。そこで参加者の希望を聞いて、2018年1月に、改めて中国5県の世話人会を開催し組織活動のあり方を探り、産業保健看護専門家制度の活用についても話し合うこととしました。
 看護部会研修会では、「産業看護職の実践能力向上をめざして ~研究論文作成の手がかり~」と題して、松蔭大学看護学部の藤井智恵子先生が実践の総括と自組織への提言を、株式会社タダノ志度工場の赤澤百合子氏が事例発表をされました。今後、研究発表や実践報告、良好事例の報告(GPS)に取り組もうとする産業看護職にとって、大変有意義で参考になる内容だと感じました。
 さて、2018年11月17日~18日には、島根県松江市で第62回中国四国産業衛生学会が開催されます。神在月(かみありづき)にご縁を求めて、出雲路を楽しんではいかがでしょう。
産業衛生技術部会報告
産業衛生技術部会報告および「ハインリッヒの法則について」

「産業衛生技術部会」中国地方会代表幹事
川崎医療福祉大学医療福祉学部 教授
田口豊郁
1.産業衛生技術部会について
産業衛生技術部会では,作業環境管理(Working Environment Control),作業管理(Work Practice Management)を中心とした幅広い活動をしている産業衛生技術者が、その専門性をより高めていくための情報の収集と発信をしています.当部会の活動状況については随時,ホームページで紹介しています.当部会への入会は,日本産業衛生学会員ならばどなたでも可能です.日本産業衛生学会費以外の会費はかかりません.多くの日本産業衛生学会員がこの産業衛生技術部会へ参加されることを期待しています.産業医や産業看護,産業歯科保健の先生方の参加を歓迎いたします.
2.2017年度活動報告
 2017年度は,第90回日本産業衛生学会(東京,2017年5月11日~13日),第27回日本産業衛生学会全国協議会(高知,2017年11月23日~25日),および第61回中国四国合同産業衛生学会(高知,2017年11月25日)の中で以下の活動を行いました.
1) 第90回日本産業衛生学会 (東京,2017年5月11日~13日)
産業衛生技術専門研修会:「3DのVDT作業の影響と対策 - 職場におけるシースルーHMDや立体映像」.5/13(土)10:30~11:30, 第11会場.
産業衛生技術フォーラム:「多店舗展開している小売業で頻発する転倒災害を防ぐためには」5/13(土)16:00~18:00 ,第8会場.
公募シンポジウム:「化学物質のリスクアセスメント(健康障害防止)のステップアップに向けて―実践事例を踏まえた成果と今後の課題」.5/11(木)13:40~15:40 ,第9会場.
自由集会(1):「化学物質の経皮吸収ばく露と防護:オルトトルイジンによる膀胱がん発症から学ぶ」.5月13日(土)13:00~14:30,第8会場.
自由集会(2):「検知管を用いた簡易リスクアセスメントガイドブックについて」,5月13日(土)14:00~15:00,第11会場.
2) 第27回日本産業衛生学会全国協議会 (高知,2017年11月23日~25日)
産業衛生技術部会研修会:「地元企業の産業衛生活動について―看護職の活動の実際―」,「化学物質の経皮曝露とその防護について」,11月24日(金)9:00~9:50,第2会場.
シンポジウム7:「職場における化学物質管理」,11月25日(土)9:00~11:00,第2会場.
3) 第61回中国四国合同産業衛生学会   (高知,2017年11月25日)
産業衛生技術部会研修会:「事業場における有害業務」,「医療機関における安全衛生の管理」,11月25日(土)14:00 ~16:00.
3.ハインリッヒの法則の再考――間違った解釈の拡がり――
 私が労働安全コンサルタントの資格取得を目指して,安全について独学していた頃(1985年頃,30歳代前半),「ハインリッヒの法則」を学習しました.最近,リスクマネジメントやリスクアセスメントが話題となることが多くなり,「ハインリッヒの法則」に触れた論文,書籍,ネット記事等をよく見かけるようになりました.ところが,私が理解していた内容と違う解説を多く見かけるようになりました.そこで,ハインリッヒの原著1)とその訳本2)を読み返しました.本稿では,著作物・ウェブサイト等で不正確に引用されている例と,ハインリッヒの原著の内容の差異を明らかにし,ハインリッヒの法則の原著の内容を解説します.
 災害防止のバイブルとして,Herbert William Heinrich著「産業災害防止論(Industrial accident prevention)」が多くの著作物やウェブサイトに引用されています.その中でも特に,「ハインリッヒの法則」が数多く引用されています.しかし,その引用のされ方が不正確と思われるものが散在しています.
 不正確な引用の代表的な例として(たとえば,ウィキペディア)は,
①原著の図をそのまま引用せず,1:29:300の部分のみを引用している(重要なのは「1:29:300の三角形」の下に図示されている「不安全状態と不安全行動」である.
「1:29:300の三角形」の部分だけを引用して,1:29:300は330種類の「事故の程度」の比率としている).
②原図の"no injury accident" を「ヒヤリ・ハット」している("no injury accident (ケガのない事故)"は,事故が発生したが,ケガが無かったという意味であり,ヒヤリ・ハットは,「ヒヤッと,ハッと」としたが,事故にならなかった(near miss)という意味である(ヒヤリハットは,ハインリッヒの法則が発表されたずっと後に,日本で発明された言葉である).
――の2例が挙げられます.
一方,1:29:300の意味は,原著の図の説明では,『同一の人間類似したaccident が330 回起きるとき,そのうち300 回はケガを伴わず(no injury),29 回には軽いケガ(minor injury),1回には重いケガ(major injury)が伴う.そして.injury の有無・重軽にかかわらず,すべての accident の背景に,おそらく数千に達すると思われるだけの[不安全行動]と[不安全状態]が存在する.さらに,①accidentを防げば,injury をなくせる.②不安全行動と不安全状態をなくせば,accidentもinjuryもなくせる』――と述べられています.
 北川徹三(1982)3)は,ハインリッヒの1:29:300の法則について,次のように説明しています.
『いま,人が通路上に切り残された木の根株につまずいて,転倒事故がくり返して起きたときどのような割合でけがが起きるか,という問題について考えてみよう.ハインリッヒは,統計上,合計330回の切り株による転倒事故が起きたとき,その中の300回は無傷で,29回は軽いけがをし,残りの1回は骨折のような重い負傷をするという比率を提案した.これを1:29:300の法則またはハインリッヒの法則と称している.これは,同じ種類の事故が多数回起きたとき,受ける障害を重傷,軽傷または無傷に分け,それらが出現する確率を表したものである.』
 ハインリッヒの法則を要約すると以下のようになります.『ケガ(injury)は,事故(accident)の結果生じる.事故は制御可能であるが,その結果としてのケガの程度やコストは制御困難である(事故の結果としてのケガの程度は偶然に支配され,ある確率で表されるのであって,ケガの程度はコントロールできない).注目すべきは事故であって,ケガではない.ケガの程度に重点をおいて,重篤なケガのあった事故のみを分析して得られた原因を事故防止対策の基礎データとして選択することは誤りである.最大のケガのグループ(300のケガのない事故)に重要な手がかりがある.ケガのない事故の原因を分析して,これらの事故に関わる「不安全行動・不安全行動」を見つけ出して,予防対策をとることが重要である.』.
 [1:29:300]は,事故の重篤度(程度)ではなく,ケガの重篤度(程度)の比率を意味します.
 「ハインリッヒの法則」は,災害予防の古典ともいわれていますが,基本的な考えは,現在の「リスクマネジメント」に十分通用し,学ぶべきものが多いと考えます.  また,間違った解釈・引用が拡がっていく一因として,以下のことが考えられます.間違った内容のものが論文・書籍として,あるいはインターネット上に公表されれば,不確かな情報であっても,誰でもネット上に情報発信ができるネットの時代では,コピーアンドペーストで,どんどん広がってしまうことになります.少なくとも,当たり前のことですが,研究者・教育者は必ず原著を確認して人に伝える(孫引きはしない)ことを肝に銘じるべきだと考えます.

1)H.W. Heinrich, Dan Petersen, Nestor Roos(1980)Industrial accident prevention: a safety management approach.5th ed.pp60-66,McGraw-Hille,.*初版(1931),2版(1941),3版(1950),4版(1959),最後に5版(1980)が出版された.
2)井上威恭 監修,(財)総合安全研究所訳(1982)ハインリッヒ産業災害防止論 第5版.pp59-64, 海文堂.
*日本語訳は,初版(1951),3版(1956),5版(1982)に出版された.
3) 北川徹三(1982)基本安全工学.pp16-17,海文堂.
産業歯科保健部会報
森田 学
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 予防歯科学分野
高知で開催された第27回日本産業衛生学会全国協議会における歯科保健部会の活動内容を報告します。
 11月23日のシンポジウムでは「大規模災害における歯科の価値・役割」がテーマでした。大会のメインテーマ「大規模災害に備える産業保健」に歩調を合わせたものです。大規模災害における歯科の役割は被災遺体の身元確認と被災地域での口腔保健支援です。東日本大震災での歯型から判断する身元確認作業の実際、災害時を想定した既存歯科診療情報のデータベース化、そして先の熊本地震における歯科医師会の歯科保健活動など多角的な視点からの報告があり、災害時の歯科の役割を考える機会となりました(写真)。
 11月25日の産業歯科保健部会研修会では「特定健診・特定保健指導における歯科口腔保健」がテーマでした。第3期特定健康診査等実施期間における特定健診・特定保健指導の運用についての見直しがされ、特定健診の問診項目に歯科口腔保健の取り組みに関する項目が導入されることとなりました。具体的には、項目13「食事を噛んで食べる時の状態はどれにあたりますか?」という設問です。新たに歯科の内容が設定されたと喜んでばかりはおられません。この設問に対する回答に対してどのような指導をしたらよいのか、あるいは産業保健スタッフの方が歯科医院を紹介するにしてもどのようなルートを作るのが効果的であるのか、など未解決部分が多く残っています。研修会では、日本歯科医師会の「生活歯援プログラム」、健康保険組合・予防歯科診療室での歯科保健指導内容、行政が主体となって取り組んだ、早食いに対する歯科保健指導による肥満改善効果の事例紹介がありました。産業保健師の方も多く参加していただき、時間ぎりぎりまで質問者の絶えない活気のある研修会でした。
 同じく、最終日の中国四国合同産業衛生学会では、筆者の教室員が事業所での歯科保健活動の成果を発表しました。ランダム化比較研究で指導群と非指導群の1年後を比較しました。口腔保健行動には差が出ました。しかし、残念ながら臨床指標では差が出ませんでした。おそらく歯科保健部会が発足して以降初めての歯科保健関連の発表と思われますが、大事なのは継続することです。読者の皆様におかれましては、「歯科についても何か・・」と思われたら、ぜひお声かけください。
編集後記
日本産業衛生学会編集後記第30号

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 
公衆衛生学
伊藤 達男
 寒冷の候、めっきり寒くなりなにかと気ぜわしい毎日ですが、会員の皆様方におかれましてはお変わりありませんでしょうか。今回で日本産業衛生学会中国地方会5回目のWeb版ニュースレターの発行となりました。お読みいただきまして誠にありがとうございます。本号では、各部会よりの部会報告をいただきました、更に、トップページの記事に加え、第61回中国四国合同産業衛生学会(高知)・第27回日本産業衛生学会全国協議会(高知)に加えまして第2回日本産業衛生学会中国地方会研究会(広島)のご報告と、第91回日本産業衛生学会(熊本)のご案内と本年の日本産業衛生学会中国地方会の活動を納めるに相応した内容となっておりますので是非お読みいただけますと幸いです。ご執筆いただいた先生方々、誠にありがとうございました。

 産業衛生の分野において、現在も職場環境でのストレスの話題が続いております。私自身、日立造船因島工場の産業医を拝任しておりますが、職場における様々なストレス要因の把握・改善さらには生活習慣の改善指導が時間をかけて対処すべき主要な業務となっております。

 産業衛生の分野において、現在も職場環境でのストレスの話題が続いております。私自身、日立造船因島工場の産業医を拝任しておりますが、職場における様々なストレス要因の把握・改善さらには生活習慣の改善指導が時間をかけて対処すべき主要な業務となっております。

 冒頭にもあげさせて頂きましたが、ストレス環境の改善方法、各個人でのストレス対処法の開発は、産業衛生に関わる私たちの急務であります。当教室では、本年の7月より岡山大学医学部の学生さん、当教室の大学院生の皆様と共に「健康づくりのための身体活動基準2013」に基づいたストレスに強い体づくりと運動習慣獲得(3Mets毎日60分)を実行すべく、毎日30分の5km(6.4km/時: 6.0METs)のランニングを2週間行い、健康数値の改善傾向を計測致しました。結果として、細胞内に発生した活性酸素を分解する酵素であるスーパーオキシドディスムターゼ2(Superoxide dismutase,SOD2)の上昇を確認できました。これは私たちが以前に行った4週間の運動試験で得られた見地の続報となる試験ですが、運動週間の獲得が抗酸化能力の上昇に強く関わる可能性を示唆しています。

 そもそも活性酸素の何がいけないのかについてですが、細胞に影響を与え生体組織として抗酸化能力を超えた時に、肥満、糖尿病、動脈硬化などの疾病が発症すると考えられています。私たちがこの度の試験で得られた結果から、カロリー制限や運動トレーニングは、細胞内のエネルギー産生場所であるミトコンドリアから一時的に活性酸素を産生させますが、対応する生体内の反応として核内の転写因子を活性化し、最終的にスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(Cat)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)等の抗酸化酵素を誘導し疾病予防や抗加齢に有利な細胞環境を作り上げます。このメカニズムをミトホルミシスと言い、むやみな抗酸化処置を行うことよりも抗酸化能力を高めた体づくりが重要であると提唱されています。(右図:ミトホルミシスの概念図)

 今回は、運動と抗酸化ストレス能力の獲得について記載させていただきました。この度の試験に参加いただいた江口先生、長岡先生はマラソンを完走されており見事に運動習慣獲得を実現されました。今後は抗酸化能力とアスリート能力獲得の関係について検討して参る予定ですので、貴重な被験対象としてもご活躍いただけると思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。今後とも日本産業衛生学会中国地方会をよろしくお願い申し上げます。