日本産業衛生学会 中国地方会
地方会ニュース 第31号(平成30年7月)
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アルコール健康障害対策の動き-産業保健場面での期待-

島根大学医学部環境保健医学講座 教授
神田 秀幸 
 アルコールは私たちの生活に豊かさや潤いを与えるものである一方、多量飲酒は依存症や臓器障害を招きやすく、酒の席での暴言・暴力や飲酒の強要など飲酒者から受ける害の影響も少なくない。2018年5月トップアイドルがアルコールを伴う事件で芸能界を去っていったように、飲酒による影響は身体・精神のみならず、社会的にも大きな問題に発展することが多い。産業保健の現場でも、アルコール問題は、以前から広く潜在的な問題であるにも関わらず、問題が顕在化するまで容認される状況が往々にしてみられる。また、職場が多量飲酒を助長するような場面も未だある。長年のアルコール問題に対して産業保健にかかわる者として、まずアルコール健康障害対策を鍵として、アルコール問題の突破口を開く時代が到来したと思われる。
 わが国では、アルコール健康障害対策基本法が2013年12月に成立した。この法律の主なポイントとして、アルコール健康障害の定義と関係者の責務が法的に明確にされた事があげられる。まず、アルコール健康障害を「不適切な飲酒(アルコール依存症その他の多量の飲酒、未成年者の飲酒、妊婦の飲酒等)の影響による心身の健康障害」と定義した。つまり、依存症対策だけでなく多量飲酒や妊婦・未成年者の飲酒も不適切な飲酒として、国民が広くこの法律の適用であることを指している。次いてこの法律では、国・地方自治体、酒類の製造販売を行う事業者、国民、医師等の責務を規定した。特に、医師その他の医療関係者の責務として、国や自治体の対策に協力し、アルコール健康障害の発生・進行・再発の防止に寄与するよう努めるとともに、アルコール健康障害に係る良質かつ適切な医療を行うことが明示された。産業保健関係者も、アルコール健康障害に対し発生・進行・再発の防止等の一翼を担っている。
 健康診断・保健指導においてアルコール健康障害の発見と飲酒についての指導が適切に行われるように求められる。多量飲酒者の簡便なスクリーニング方法のひとつとして、WHOが作成したアルコール使用障害同定テスト(Alcohol Use Disorders Identification; 以下AUDIT)が推奨されている。 AUDITはアルコール依存症だけでなく、アルコール問題(問題飲酒・多量飲酒)を有する者も抽出できる特徴をもつ。わが国でも2018年4月からの特定健診・保健指導の改訂で、詳細設問項目(オプション項目)として、AUDITが盛り込まれ、この使用が推奨されている流れにある。AUDIT質問は10項目からなり、各項目3-4つの選択肢から一つを選ぶ質問紙調査法である(詳細な設問項目は以下URL参照:http://www.kurihama-med.jp/alcohol/audit.html)。AUDITの最大値は40点である。AUDITは世界共通のカットオフ値の設定はないが、わが国では、幅広く問題飲酒者を抽出する場合にはAUDIT15点以上を断酒指導と専門医療につなげ、AUDIT8-14点を酒害教育と節酒指導とする基準が示されている。この基準は、いずれも90%以上の高い特異度をもち、問題飲酒やアルコール依存のスクリーニングに有用であるとされている。
 多量飲酒者を同定した後には、介入である減酒支援としてBrief Intervention(簡易介入、以下BI)が広く用いられている方法である。酒害教育の資料を提供したり、節酒または断酒の目標を立てフォローするなど、産業保健の現場でも行える指導内容である。すでにわが国でBIは、特定健診・特定保健指導プログラムや飲酒運転者への講習に取り入れられるなど広がりをみせている。BIの具体例については、アルコール対策のわが国の拠点である久里浜医療センターのホームページ(http://www.kurihama-med.jp/kaijo_tool/bi_movie_all.html)をご参照頂きたい。
 アルコールを原因とする内科系疾患や外傷をかかえた人は、身体的フォローのみであると、治療につながっても回復後、再び問題飲酒をする。その繰り返しで問題の本質にたどり着けず、仕事や家庭、果ては命まで失うような場合が生じることもみられる。したがって、産業医や産業保健スタッフなどによる、早期からの気づきや声がけが重要な役割をもつ。産業保健の現場の健康相談や健診フォローをしている中で、職場や隣人とのトラブルがあるなど、小さな変化からアルコール問題に気づく機会がある。産業医や産業保健スタッフが得意とするこのような場面から、地域の医療機関、保健師や栄養士など他職種と連携して対応することで、アルコール健康障害を低減させることにつながり得る。このような成果を期待して、今後は、法的根拠をもって産業保健の場面で節酒あるいは断酒の指導などアルコール健康障害に係る保健医療の取組みが一層求められる動きにある。
第62回中国四国合同産業衛生学会(島根)のご案内
第62回中国四国合同産業衛生学会
学会長 神田秀幸
島根大学医学部環境保健医学講座 教授
 この度、第62回中国四国合同産業衛生学会を島根県松江市で開催させて頂くにあたり、ご案内を申し上げます。 
  日時:平成30年(2018年)11月17日土曜日〜11月18日日曜日
  会場:松江テルサ(島根県松江市朝日町478-18)
  メインテーマ:「健やかに はたらく-働き方改革と健康経営の展開-」
  学会ホームページ:http://sanei62-shimane.jp/index.html
 少子高齢化・人口減少、消費者ニーズの多様化などから産業構造は大きく変化しつつあります。それに伴い、働く人たちを取り巻く環境も変革が求められています。職場の働き方と健康管理の重要性が再認識され、様々な観点から見直しが迫られる時となりました。
 そこで、今回の学会のメインテーマは、「健やかにはたらく-働き方改革と健康経営の展開-」としております。今日的な産業衛生の課題を取り上げつつ、新しい時代に向けた発信ができる学会にしたいと考えております。シンポジウム企画として「働き方改革と健康経営の展開」は、先進的な取組みや労務管理、産業保健の実践的な展開についてご発表頂き、経営者あるいは労務管理の考え方をふまえた産業保健の新しい展開を考える機会とする予定です。
 本会は学術研究発表だけでなく、実践報告も大いに受け入れる方針にしております。発表形式も従来の一般口演だけでなく、ポスター発表の機会を設けました。こうした形で、産業保健の現場の方々の生の声を発信する機会、意見交換をする機会にして頂ければと思っております。この他、これまで通り、産業医・産業看護・産業歯科保健・産業衛生技術各部会開催も企画しております。
 時を同じくして、出雲大社では、全国の神々が集まる神在祭が行われております。神々が集まるがごとく、産業保健関係者が集い未来の産業保健を語り合う場となれば幸いです。
 神在祭や各種イベントで島根県内が混み合う時期となります。宿泊や交通の早めの確保をして頂きますことをお勧め申し上げます。
 たくさんの皆様の演題登録、学会ご参加を心よりお待ち申し上げております。
<主なスケジュール>
11月17日土曜日(時間は予定です)
各部会の研修会:14時~
役員会等:17時~
懇親会:18:30~ 松江テルサ中会議室
11月18日日曜日(時間は予定です)
一般演題:9:10~(口演)
シンポジウム:10:10-12:10 松江テルサ大会議室
テーマ:「働き方改革と健康経営の展開」
ポスター発表:説明時間12:10~
総会:13時~
一般演題:13:40~(口演)
☆随時、当学会ホームページ(http://sanei62-shimane.jp/index.html)を更新していきますので、ホームページもご参照下さい。
トピックス
―発達障害は改善します―
未来を変えた11の症例―の出版
宇土 博
友和クリニック
 この6月に、広島の出版社のガリバープロダクツから、「発達障害は改善します-未来を変えた11の症例―」という本を日本新経絡医学会の推薦で出版します。この本は、我が国で初めて、発達障害が治療により改善することを示したものです。発達障害を持つ本人や親御さんだけでなく、医療関係の方にも参考になると考えています。その内容について簡単に紹介させていただきます。
 我が国の発達障害の問題は、発達障害児が就労年齢に達し、産業保健の課題ともなっています。私が会長を務める日本新経絡医学会では、難治性疼痛疾患および難治性疾患と並ぶ学術的な研究テーマとして2009年から発達障害を取り上げ、その要因、治療、予防の研究を行ってきました。これまでの発達障害の治療症例は、450例を越えています。自閉症スペクトラムの症例が多く、学習障害、AD/HDがこれに次いでいます。
 これまで、発達障害に対しては、有効な治療法がなく、薬物とABA応用行動療法などを併用することが行われていますが、大変な労力がかかる上に、十分な効果を上げていない現状にあります。こうした現状を解決するために、この本で紹介する東洋医学の「新経絡治療」が発達障害の治療に応用され成果を上げてきました。
図1.「発達障害は改善します」の表紙
 新経絡治療は、手足のツボを先の尖っていない(てい)鍼(しん)という棒で押すことにより、脳血流を増やし、中枢神経を活性化する治療法です。これにより、発達障害が顕著に改善します。高機能自閉症では、その有効率は、9割以上であり、良い成績を示しています。
  この本では、発達障害の概要、新経絡治療の効果の仕組みや治療成績と症例の紹介、発達障害の子供に必要な学習支援、発達障害の予防について紹介しています。症例報告では、11人の新経絡治療による改善例を紹介しています。その中には、小学生の学習障害の事例で、漢字障害(ディスクレシア)が顕著に改善し、無事に進学高校に入学し、今年、高校を終えて専門学校に進んだ事例も報告されています。また、高機能自閉症の事例では、新経絡治療で症状が改善し、スーパーに無事に就職した例や普通高校への進学やレストランでのケーキ作りに就職が可能になった事例などが報告されています。
理事会報告
田邉 剛
山口大学医学部医学科公衆衛生学・予防医学
【名誉会員】
芳原達也氏(山口大学名誉教授)が推薦され、承認された。
【平成29年度決算報告】
平成29年度に本部会計が850万円の大幅な赤字となり、平成30年度も同様の赤字予算が見込まれることから、対策を検討するチームが設置され、以下が決められた。
これまで学術大会・全国協議会等の参加費にかかる消費税は学会負担だったが、今後は参加者より徴収する。これにより消費税込みの収入が増額することから、学術大会・全国協議会への本部からの助成金を減額する。各部会への助成金も減額する。
来年以降英文誌印刷を停止する。
アジアを中心とした海外への寄贈は中止した。
理事会を全国協議会開催時に開催し、交通費を節約する。
JOHの制作費減のため、編集業務委託先の業者を変更した。産業衛生学雑誌についても今後検討する。
【役員等の定年】
理事の定年については既に70歳と決定されていた。今後は代議員、地方会長、部会幹事、委員会委員についても定年70歳とする方針が承認された。監事には定年を設けない。次回総会で報告、周知し、2年後の選挙から適用できるよう細則の変更等の準備を進める。
【ダイバーシティ推進委員会】
男女共同参画推進小委員会をさらに発展させ、ダイバーシティ推進委員会となることが決定した。多様な職種や性別、立場の会員一人ひとりが活躍し、日本産業衛生学会および産業衛生学の発展に寄与し、学会におけるダイバーシティを推進するため、以下を目的とする。
設置期間:10年 委員会定数:20人
女性や若手会員へ研究や活躍の場を作る。
高い専門性を維持してキャリアを途絶えさせないシステムを構築する。
若手世代が参加しやすい学会運営を目指す。
各部門のリーダーとなる会員を男女差なく押し上げ、男女共同し、産業衛生の研究・強育の充実をはかる。
【政策法制度委員会の提言】
女性労働者の健康確保支援ガイドラインについて、ワーキンググループより取りまとめられた「働く女性の健康確保を支援するために(案)」の45ページにわたる提言が提出され説明された。働く女性に関する現状の解析として、法制度、ライフステージ、生物学的性差などグローバルな視点から解析されている。また女性労働者の健康を確保するために、長時間労働、メンタルヘルス、化学物質と健康障害など、多岐にわたる対応が想定されている。
【学会賞選考細則について】
他の学会ですでに学会賞を受賞した研究について、産業衛生学会の学会賞との重複受賞について制限は設けないが、受賞理由や業績が同じになることなく、本学会の独自性が強調されるよう細則に定めることとした。
【学会の予定】
●日本産業衛生学会
第92回 会期:平成31年5月22日(水)~25日(土)
会場:名古屋国際会議場
第93回 会場:旭川
第94回 北陸甲信越地方会が担当
●日本産業衛生学会全国協議会
第28回 会期:平成30年9月14日(金)~ 16日(日)
会場:東京工科大学蒲田キャンパス
第29回 会場:仙台
第30回 九州地方会担当
【専門医制度委員会報告】
登録者数(指導医427名 専門医204名 専攻医229名)
【社会医学系専門医委員会報告】
専門医認定数が3100名を超え、専門研修プログラムの認定が増えた。
【日本産業衛生学会の会員の状況】
正会員数:7,796人(平成30年4月4日現在) 昨年より102人増
各県報告 広島県報告
専属産業医の実務経験から思うこと
升味正光
労働衛生コンサルタント・医学博士 
はじめに
 私は2010年6月~2018年3月までの約8年間にわたり、某半導体製造事業場(従業員数約2300名)において産業医実務を経験してきた。その間、世界の経済を揺るがすリーマンショック、我が国内では東北大震災、原子力発電所の爆発事故などの多大な自然災害や人災が勃発した。企業にとっても大変な痛手となり、倒産に追いやられる事態も生じた。そして社員の気持ちは大きく脅かされ、生活は不安定化して離職者も増えたが、当社は生産をストップしながらも、何とか耐え凌ぐことが出来た。当時、産業医として、このまま存続できるのかを考えたが、社員が残っている限り、今何をすべきかを優先し、全力で社員を支援していくことを決意した。不況から一年半位経過した頃に、米国の某半導体企業から資金援助の申し出があった。長い不安な状態から次第に新しい事業への期待と希望の星が見え始めた。そして、この間に産業医としてなかなか味わえない貴重な体験をすることが出来た。それは、「労働者にとっての職場の意味」、「社員並びに会社を元気にさせる方法」、「企業の発展が個人の生活の質の向上に繋がる」ことなど、産業医の職務以外の貴重な体験をできたことである。
 8年間に経験した貴重な調査研究の中から、今後広島県における産業保健活動をどのように進めていくのが企業にとって、より大きなメリットにつながるかについて以下私見を述べる。
1.広島県産業医として取り組む事項等について
 中国支部会員である産業医のそれぞれの専門分野における立場から、自らが担当した企業における安全衛生管理の実態を把握し、それぞれの産業医としての職務の実践を試みる(plan →do )ことが大切である。その事例を元にして、各県支部内の産業医研修会等で意見交換をすることによって、お互いのスキルアップを図ることができる。例えば個人として解決が困難な事例等が発生した時(check)には、支部・本部の連絡会議(代議員会等)で事案について発議をし、情報交換することによって解決のための糸口を見つけ出し、解決に結びつけることが出来る(action)。又職場改善の好事例等については、産業衛生学会誌、地方会ニュースに投稿する(expand)ことは産業医業務の具現性に役立つと思われる。
 以下に、私が企業で実施した実態調査等で安全衛生の管理上必要と思われた事項について列記する。
1)職場の安全衛生管理体制の関係
安全衛生管理の組織図並びに運用状況
労働災害防止計画並びに実施状況
管理監督者(安全衛生管理者、職長、作業主任者等)の職務の遂行
安全衛生委員会の運用の在り方(審議機関となっているか)
各種専門部会、外部委託機関連絡会等の把握
2)労働安全衛生法並びに労働基準法の順守の関係
産業医の選任
産業医の職場巡視、衛生委員会への出席の有無
産業医の職務の履行・記録・保管等
健康診断の実施並びに健診結果の事後措置:就労上並びに医療上の管理
健診結果に基づく、産業医並びに保健師による産業保健並びに職場生活指導
第13次災害防止計画への取組
以上のデータがそろえば
(1) 事業主並びに産業医に対して、法を順守するために必要な資料は何かを明確にできる。
(2) 労働基準局、産業保健総合支援センター、医師会産業医部会、健診機関、労働衛生機関との連携を強化することで、広島県全企業の労働災害防止の意識レベル向上のために貢献できる。
3)過去の災害発生事例の研究
災害発生時の対応のノウハウについて
再発防止対策 : リスクアセスメントの実施について
災害の原因、特徴のファクターについて
ヒヤリハットの実施について
以上の情報により再発防止に対して、専門的立場から意見を述べ、支援を強化することができる。
2.産業医として又、衛生コンサルタントとして取り組む事項について
 過去の産業医経験を活かし、これからの中国支部の活性化に向けて自己研鑽を重ねながら新たな産業保健の変革に必要な情報を収集する。又労働衛生コンサルタントの立場から、労働者の健康増進と快適な職場環境づくりに求められているものを職場ごとに明らかにし、新時代にふさわしい働き方改革を推進する。
 以下に、専門分野として活動できると思われる事項を列記する。
1)事業主・労働者を対象としたセミナー等の講師を行う
労働衛生管理の目標達成のノウハウについて
有害業務作業場における職長、作業主任者の役割について
有害業務事業場における健康管理について
有害業務事業場におけるがん対策(職業ガン)について
4大生活習慣病の予防と対策について
職場環境と働く人とのかかわりについて

これにより労使相互の仕事上の理解・信頼関係を深め、共に働きやすい健康職場を形成することが出来る。
2) 産業医、産業保健スタッフ等を対象としたセミナーを開催する
産業医・産業保健スタッフ等の役割について
ストレスチェック制度における産業医の役割等について
職場で発生しやすいメンタル疾患について
職場不適応症候群に対するメンタルサポートについて
過重労働対策(長時間残業が心身に与える影響)について
健康職場(働きやすい快適職場)の形成について
健康職場を目指した働き方改革について

これにより産業医・産業保健スタッフ間の理解・信頼関係を深め、組織として企業としてバランスの取れた衛生教育が出来る。
各県報告 岡山県報告
森本 寛訓
川崎医療短期大学一般教養
 はじめに岡山労働局のホームページ 1に掲載されていた統計資料を参照して,岡山県における平成29年の労働災害の現況をご報告いたします。
 まず「(休業4日以上の)死傷災害発生状況」から,全産業における死傷災害発生数は2113件で,前年(平成28年)の1821件より292件増加していました。また,各産業では,特に第三次産業(商業・保健衛生・接客娯楽・清掃・と畜など)において前年より147件,製造業で前年と比べて95件の増加が認められました。
 次に,「全産業労働災害発生状況」から,死傷災害の事故の型によって発生件数を確認すると,上位3位までで最も多かったのが「転倒」で418件,次いで「墜落,転落」の362件,「はさまれ,巻き込まれ」の309件でした。なお,以上3種の型で全件数の約半数を占めています。また,同資料より災害発生時の起因物別に発生件数を見れば,「建築物等」が453件,「動力運搬(機)」が278件,「用具」が176件となり,これらの起因物で上位3位を占めます。
 さらに「死亡災害発生状況」から,死亡災害の発生件数は19件でした。事故の型を確認すると,発生件数の最上位は「交通事故」で7件,2位は「墜落,転落」と「はさまれ,巻き込まれ」で両者とも3件でした。また,各災害の起因物(大分類)によって発生件数の上位3位を見ると,「物上げ装置,運搬機械」が10件,「動力機械」が5件,「環境等」が2件となっていました。
 以上の資料において,死傷災害と死亡災害の事故の型に着目し,その発生件数を比較すると,特に交通事故は関係者を死に至らしめる事案となりやすいことが推測されます。そこで,死亡災害となった交通事故全7件の起因物の詳細(中・小分類)と災害発生時のエピソードを確認した結果,ライトバンまたはトラックの運転手として死亡したケースが3件,トラック,ミキサー車,またはトレーラーと衝突もしくは接触し死亡したケースが4件でした。つまり交通事故に係る死亡災害の被災者は,その災害の主体である場合と,被害者である場合もあり,そのため他の事故の型よりも発生件数が多くなったと考えられます。なお,他の死亡災害の事故の型では,その災害の主体または被害者である場合の両方のエピソードを有するものはありませんでした。また,死亡災害となった交通事故で被害者として亡くなられた方の中には,当該の労働と直接関係のない人も含まれることが推測されます。
 再度「死亡災害発生状況」のデータより,死亡災害としての交通事故はその半数(7件中4件)が午前2時から8時までの深夜および早朝に発生していることがわかります。通常,この時間帯は生物時計によって眠気をもたらすサーカディアンリズム(概日周期)が刻まれています 2。このリズムに反して運転に従事することが,死亡災害の一因となっているのかもしれません。
 交通事故に係る労働災害は,その労働と関係のない人々を被害者にして巻き込む可能性があります。被害者としての被災者を増やさないためにも,深夜から早朝帯の車両運転に対する作業管理が死亡災害発生を抑制するポイントになりうると考えられます。
2. 粂 和彦(2003).時間の分子生物学――時計と睡眠の遺伝子――(講談社現代新書) 講談社
各県報告 島根県報告
産業看護職の仲間と一緒に学会デビュー

落合 のり子
島根県立大学看護栄養学部
 今年の夏は豪雨災害から直後の記録的猛暑が続くなど、大変な年になりました。中国・四国地方で被害に遭われた皆さまに心からのお見舞いを申し上げますとともに、着実な地域の復興と、災害に負けない地域づくりへの取り組みが進んでいくことを祈念いたします。
 さて、今年11月には、島根県松江市で第62回中国・四国合同産業衛生学会(http://sanei62-shimane.jp/)が予定されております。当学会における産業看護部会では、専門講師による「ファシリーテーション研修」を質量ともに充実させ、さらに皆さまとの交流を深めつつ、学び合う時間にしたいと考えております。神々が集う旧暦の10月:出雲地方では神在月(かみありづき)に、楽しく有意義な時間がもてるよう、おもてなしの精神で準備を進めて参ります。
 また、一般演題では口頭発表に加えポスター発表の機会を設けます。できるだけ多くの産業看護職に携わる皆さまの研究や、活動報告する機会を増やしたいと願うからです。日々の活動をまとめるには時間を要しますが、職場の方々からも協力いただきながら、是非とも今回の発表にご応募いただきたいと思います。新設された日本産業衛生学会の「産業保健看護専門家制度」(http://hokenkango.sanei.or.jp/)では、産業看護職の学会参加や学会発表がポイント制でカウントされます。中国5県には、専門家制度の「登録者」、「専門家」、「上級専門家」が約60名登録されております。この機会を逃すことなく、これまで学会参加や発表の経験のない方も、是非チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
 最後に、これから産業看護職としての基礎的な研修を受け、キャリアアップに繋げたいとお考えの方に、改めて情報提供をさせていただきます。日本産業衛生学会産業看護部会のホームページで、「産業看護部会による産業看護専門家制度のための研修」の図(http://sangyo-kango.org/wp/?page_id=602)をご参照ください。
 今年度は、登録者認定試験準備講座(2018年11月10日)、登録者認定試験(2019年1月)、基礎研修Bコース(2018年8月30日~9月1日)、専門家認定試験(11月上旬)等が予定されています。詳細については、お問い合わせください。
 なお、<研修>と<試験>は、問い合わせ先が異なりますのでご注意ください。
<研修>登録者試験準備講座および基礎研修Bコースについては、産業看護部会が担当しています。<試験>登録者認定試験および専門家認定試験については、産業保健看護専門家制度委員会が担当しています。
 それでは、神々が集う11月に松江でお会いしましょう。お待ちしています。
各県報告 山口県報告
第68回学会長
角谷 力
株式会社神戸製鋼所長府製造所 産業医
 第68回山口県産業衛生学会を2018年2月11日に山口県セミナーパークで開催いたしました。今回のテーマは「エビデンスに基づいた予防医学としての産業保健活動」とし、我々が行っている日頃の産業保健活動や規定された法律・ガイドラインの根拠について、今一度考え直すことを目的としました。
 午前中の教育講演Ⅰでは山口大学大学院医学系研究科公衆衛生学・予防医学講座教授の田邉剛先生に、「生活習慣病の発症における遺伝因子の関与」と題して、自然免疫系が様々な生活習慣病に関与していること、また、それらの活性を制御することで生活習慣病の予防・治療法の開発が期待できること、を分かりやすくご説明頂きました。
 午後の特別講演では、山口労働局労働基準部健康安全課の藤村祐彦課長に「最近の労働衛生の動向について」と題して、労働安全衛生法の改正案件や働き方改革について、行政のお立場から解説して頂きました。
 また、その後の教育講演Ⅱでは「過重労働による健康障害を防ぐには」というテーマで、3名の講師に講演頂きました。一人目の株式会社安川電機統括産業医である田原裕之先生には、「過重労働による健康影響と関係する法制度」というテーマで、二人目のマツダ株式会社統括産業医である空閑玄明先生には「過重労働対策における産業医の役割」というテーマでお話しいただき、最後に弊社人事労政部長である岡野康司から「企業で実施されている過重労働対策」として、弊社の取り組みをご紹介申し上げました。また、講演の最後には総合討論の時間を設け、フロアからの質問に対して講師が応答・議論し合う、非常に実のあるものとなりました。
 当日は専属産業医、企業勤務の産業看護職、嘱託産業医活動に従事している医師会会員の先生方、衛生管理者等、約120名に方に参加をいただき、盛会裏に終えることが出来ました。ご参加いただいた皆様や大会関係者、特に主催の山口県医師会、共催の山口県産業看護研究会、後援をいただきました山口労働局、山口産業保健総合支援センター、協賛の山口県労働基準協会にお礼を申し上げます。

学会長挨拶

教育講演1

総合討論(全体)

総合討論
編集後記
日本産業衛生学会編集後記第31号

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 
公衆衛生学
伊藤 達男
 残炎の候、会員の皆様方におかれましてはいっそうご清祥のことと慶賀の至に存じます。今回で日本産業衛生学会中国地方会6回目のWeb版ニュースレターの発行となりました。お読みいただきまして誠にありがとうございます。本号では、各県よりの県会報告をいただきました、更に、トップページの記事に加え、第91回日本産業衛生学会(熊本)のご報告と、第62回中国四国合同産業衛生学会(島根)のご案内と日本産業衛生学会中国地方会の活動を詳細にご報告致します内容となっておりますので是非お読みいただけますと幸いです。ご執筆いただいた先生方々、誠にありがとうございました。
 先の西日本豪雨の影響は私たちの地域に大きな爪痕と反省を残しました。産業衛生の分野において、災害時における職場環境での衛生管理、健康管理の難しさを目の当たりにされた会員の皆様も多くいらっしゃったかと存じます。
 私自身も産業医を拝任しております日立造船因島工場の在ります因島におきまして予想しなかった断水という事態に直面することとなりました。広島東部のいたるところで発生しました土砂崩れによる幹線道寸断と島という地理条件に猛暑も加わって、造船所職員のみならず全島に多くの負荷が加わりました。私は因島地域での生活食事環境の把握さらには日立造船因島工場職員の生活習慣の改善指導を主要な業務として行っておりましたが、今となっては地域性を考慮した指導では無かったと痛感しております。
 当教室では、同地域での断水問題への援助支援活動として7月17日に給水活動のボランティアに長岡助教と共に参加して参りました。当時の因島では生活水の援助が一人6リットルに制限されており、生活水はおろか飲料水にも事欠く事態でした。私たちが赴いた際には一人12リットルに増量されておりましたが、それでも通常の生活を送るには十分とは言えない量です。先にも記載しましたとおり、本土からの主要幹線道路が閉鎖されておりますため主な給水は愛媛県より自衛隊の給水車両にて運ばれて参ります。当初は自衛隊員の方々が配水をしておられたのですが、他地域の支援のため配水活動は因島総合病院職員の仕事となりました。豪雨直後より続く猛暑もあって、当時の職員の皆様の消耗は甚だしいものであったと報告を受けております。しまなみ地域独特の山がちな地形が配水活動の難しさに拍車をかけていたと思われます。
 長岡助教が獅子奮迅の活躍をされて給水活動をされておられる最中に、本土からの水が開通するという素晴らしいニュースが届きました。水質の問題もあって因島総合病院で使用できる医療用水レベルの配水はまだ時間がかかるということでしたが、お風呂に入れると喜ばれている皆様の笑顔が大変に印象的でした。
 今回は、未曾有の災害に見舞われたしまなみ地域について記載させていただきました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。今後とも日本産業衛生学会中国地方会をよろしくお願い申し上げます。