日本産業衛生学会 中国地方会
地方会ニュース 第33号(令和元年7月)
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日本医師会産業保健委員会の答申と産業医の実務

鎗田労働衛生コンサルタント事務所
鎗田 圭一郎
  平成30年3月の日本医師会産業保健委員会の答申では、産業医業務について、優先順位という観点で5項目に分類され、下記のような答申が出されている。
・優先順位1 産業医が行うべき業務
1) 職場巡視を行うこと。
2) 衛生委員会(又は安全衛生委員会)に参加すること
3) 健康診断及びストレスチェックに関する労働基準監督署への報告書を確認し、捺印すること。
4) 職業性疾病を疑う事例の原因調査と再発防止に関与し、助言や指導を行うこと
・優先順位2 産業医が行うことが最も適切な業務
5) 健康診断及び面接指導の結果に基づき、就業上の措置に関する意見を述べること。
6) 長時間労働に従事する労働者の面接指導を行うこと
7) ストレスチェックの結果に基づき労働者の面接指導を行うこと
8) 健康診断及び長時間労働の面接指導、ストレスチェック等の健康管理に関する企画に関与し、助言や指導を行うこと
9) 診断書その他の健康情報を解釈、加工し、就業上の措置に関する意見を述べ、治療と就業の両立支援等の労務管理に活用すること。
・優先順位3 産業保健スタッフや外部機関の協力を得て産業医の業務負担が軽減できる業務
10)~20)略
・優先順位 4 法令での規定はないが、事業者が産業医に期待する業務
21) 職場復帰の可否の判断及び職場復帰プランの作成
22) 事業場に滞在している時に発生した傷病者の救急措置を行うこと
23) 運転業務等の特殊業務に従事する労働者の就労適性を診断すること。
24) 感染症の予防や拡大を防止すること。
25) 危険有害要因に関するリスクアセスメントについて助言すること。
26) 緊急事態における地域医療システムとの連携に関する職務
・優先順位5 産業医の職務でないもの
27)~32)略
 しかしながら、実際の産業医業務ではどうであろうか?
 ストレスチェック後の面接や長時間労働者の面接に関しては、当該者が面接を希望した場合に実施されるものであるが、実際に希望される方はごくわずかである。働き方改革で面接指導者の対象が月100時間以上から月80時間以上に下げられても、おそらくこの傾向は変わらないであろう。
 法令で定められている産業医業務については、確かに答申で示されている通りであるが、20社程度の企業と産業医契約を結び産業医活動をしている私には、9)やメンタル疾患に関する21)、感染症に関する24)こそが、答申にもある通り企業ニーズの最も高いところであり、これが実施できる産業医を企業は今まさに求めている。産業医には幅広い知識が必要で、この企業ニーズを的確に捉え、徐々に企業の産業保健をあるべき姿にしていくことが、大企業は別として中小規模事業場ではとくに必要であり、産業医の腕の見せ所でもある。
 折しも働き方改革関連法では産業医・産業保健機能の強化が挙げられ、産業医に直接相談できる環境整備が必要とされた。この相談等や産業医の勧告権の強化を上手く活用し、労働者の就労支援を行っていくことこそが、今まさに産業医に求められている課題だと私は考えている。
第92回日本産業衛生学会 開催報告

第92回日本産業衛生学会
企画運営委員長 斉藤政彦
大同特殊鋼(株)統括産業医 
 第92回日本産業衛生学会は東海地方会の担当で、2019年(令和元年)5月22日から25日まで、名古屋国際会議場にて開催いたしました。メインテーマは『現場への貢献! ~人、企業、社会を支える~』です。産業衛生学は実学で、実際の産業現場に役立って初めて価値があります。職場における有害因子を取り除いて労働者の健康を保持増進する、さらにそれを通して企業の発展へ寄与し、日本社会全体を支えることが、学会の使命と考え、このテーマにしました。
 当日は、真夏日を記録する少々暑いほどの好天の下、一般有料参加者数が4700名を超え、さらに名誉会員や国際交流企画などの招待者、市民公開講座への無料参加者などを加えると、総数五千人を超える方にご参加いただきました。盛会は皆様のおかげと深く感謝致しております。
 内容としては、一般演題が583、企画プログラムは、基調講演1、教育講演9、特別講演7、シンポジウム18、パネルディスカッション7、フォーラム7、特別プログラム5で、他に、他学会との合同企画として、日本精神神経学会との合同シンポジウム、さらに国際交流の一環としてアジアから若手研究者を招いてシンポジウムを開催しました。特徴的な企画としては、JR東海の柘植会長、トヨタ自働車の河合副社長、三菱重工の二村取締役など、大企業の経営の中枢で活躍されている方々に、普段聞けない貴重なご講演をしていただきました。また基調講演では川上理事長に、学会創立百周年へ向けてのビジョンを語っていただきました。ほかの企画でも立ち見者が出るほどの盛況ぶりで、どのプログラムも現場へ役立つ内容で、メインテーマに沿ったものだったと考えています。また、懇親会では、ひつまぶしやきしめんなどの名古屋メシをご堪能いただき、最優秀演題賞の発表と表彰、国際交流企画のアワード授与などを行い、会員相互の親睦を深めていただきました。
 さて昨今、産業現場では、労働者や職場環境が大きく変化しています。雇用の流動化やダイバーシティーマネジメントの促進、さらに今後は外国人労働者の急増が予想されます。一方で、テレワークの推進、AI(人工知能)やロボットの進出などがあります。これらの変化は急激で、遠くない将来、仕事や労働、職場といった基本概念が大きく変わる可能性を示しています。一方で『健康経営』が一つのブームとなっており、従業員の健康を重視する機運が広く社会へ浸透しつつあります。
 そんな中、産業保健スタッフの業務は、過重労働対策、ストレスチェック(メンタルヘルス対策)、化学物質管理、病気と仕事の両立支援など、増加の一途をたどっており、さらに働き方改革関連法の成立に伴い、労働安全衛生法が改正され、産業医・産業保健機能の強化が図られます。また、それらの活動をエビデンスでもって支える学術的調査研究も重要です。この先、産業衛生学の社会的役割は間違いなく増大するでしょう。今回の第92回日本産業衛生学会が、少しでもそのお役に立てば、この上ない喜びです。どうもありがとうございました。
第63回中国四国合同産業衛生学会(徳島)のご案内
有澤 孝吉
徳島大学大学院医歯薬学研究部予防医学分野 
 令和元年11月30日(土)、12月1日(日)の二日間にわたり、第63回中国四国合同産業衛生学会を徳島市で開催することになりました。本学会が徳島県で開かれるのは平成21年以来10年ぶりのことになります。当時、徳島県では糖尿病死亡率が全国で最も高い年が続いていたこともあり、「職域における糖尿病予防」をシンポジウムのテーマとして設定いたしました。
 この10年間、わが国では少子高齢化の進行、生産年齢人口の減少とともに人手不足の問題が顕在化し、産業保健をめぐる環境も大きく変わってまいりました。最近では、長時間労働の是正や労働形態の多様化への対応など、働き方改革への取り組みが求められております。このような時代背景を踏まえ、今回の学会では「働く人の未来を守る産業保健―働く意欲を活かす健康支援」をメインテーマとさせていただきました。実行委員長には、日亜化学(株)産業医の斎藤恵先生にお願いし、また徳島県医師会との共催として、会場は県医師会館(徳島市幸町)をお借りすることとなりました。本学会は、中国四国地方で産業保健に関わっておられる様々な職種の方が一堂に会する貴重な機会であります。多くの皆様のご参加をお待ちしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
トピックス
電動ファン付き防じんマスクと通常防じんマスクの比較に関する研究

岸本 卓巳
(独)労働者健康安全機構 
アスベスト疾患研究・研修センター
 岡山産業保健総合支援センターでは平成12年から粉じん事業場における粉じん対策として通常防じんマスクのもれについての調査を行ってきた。平成30年度には電動ファン付き防じんマスク(PAPR)を使用した調査を行ったので紹介する。
 日本の粉じん事業場は環境改善により、粉じん量が減少しているにもかかわらず、新規のじん肺有所見者数は毎年100人以上ある。新たなじん肺の発生要因として、通常防じんマスクの適切使用がなされてないことも考慮されるため調査を行った。
 通常防じんマスクと電動ファン付き防じんマスク(PAPR)のもれ率の比較検討を行った。また、メリヤス布の有無によりもれ率がどのような影響を受けるかについて検討した。対象者は常時粉じん作業を行っている104名を対象とした。性別では102名は男性で、2名が女性であった。粉じんばく露年数は10年未満の作業者が約70%と大半を占めた。
 通常防じんマスクのもれ率は1.3%であり、PAPRでは0.33%であった。通常防じんマスクによるもれ率はメリヤス布ありが28.5%、メリヤス布なしが14.4%であった。一方、PAPRではメリヤス布ありが0.45%、メリヤス布なしが0.29%で問題になるレベルではなかった。吸入性粉じんの個人ばく露濃度の中央値は0.5mg/㎥で、マスクのもれ率を考慮した場合、通常防じんマスク着用者の吸入性粉じん濃度は0.043mg/㎥であり、PAPRは 0.001mg/㎥であった。許容濃度はシリカでは0.03 mg/㎥、第1種粉じんでは0.5 mg/㎥であるため、シリカを吸入する事業場では珪肺が発生する可能性があることが判った。
 PAPRに対するアンケート結果ではPAPRの重さを感じるあるいは大きさを感じる人が約70%あった。また、視界の変化が気になるあるいは動きにくさを感じる人が約50%いた。しかし、ファンの音に対しては全く気にならない人が過半数以上で、通常防じんマスクに比較して呼吸が楽であるとした人が86.7%を占めた。今後PAPRを使用したいと希望した人は65.3%であり、PAPRの着用感はよいと判断した。
 平成15年度の調査研究においても通常防じんマスクの平均もれ率が24.3%あった。そのため、通常防じんマスクの適正な着用方法を指導したところ、平均もれ率は20.6%から5.8%に減少した。マスク適正着用指導効果を確認するため平成16年から5年間粉じん事業場に定期的に出向いて通常防じんマスクの適切な使用方法について指導を行い、短期的なもれ率は改善されたが、長期的な改善が認められたのは7事業場のうち2事業場のみであり、通常防じんマスクの適切な着用を持続させることの難しさを痛感した。
 PAPRは通常防じんマスクに比較して有意に粉じん吸入量を減少させる効果があり、着用した作業者も呼吸のしやすさ等のメリットが大きく、今後着用したいと望む作業者が過半数以上を占めた。今後、PAPRの使用機会が増加すれば価格等も低下すると予想されるため高濃度粉じん事業場での使用が拡大することが期待される。
理事会報告
鎗田 圭一郎
鎗田労働衛生コンサルタント事務所
理事全員出席の下に下記日時、場所で審議が行われた。
日時:2019年5月22日(水)18:30~19:20
場所:名古屋国際会議場
審議事項
1. 理事長の選定について:圓藤前総務担当理事
 

「理事改選に伴う理事長及び業務執行理事の選出等に関する覚書」(平成29年度臨時理事会承認)の手順に従い、理事長と業務執行理事が選定された。

 理事立候補者は、川上憲人理事1名であったため、川上憲人理事の所信表明後、理事全員による無記名投票が行われ、満票一致で川上憲人理事が選定された。
2. 業務執行理事の選定について:川上理事長
 

川上理事長より、業務執行理事候補者が下記のように推薦され、本人の同意を得て、本理事会にて信任された。
副理事長:森晃爾
総務担当理事:竹林亨、福島哲仁

経理担当理事:住徳松子、宮本敏明
3. 部会新幹事の委嘱について:竹林総務担当理事
  産業衛生技術部会の次期幹事が推薦され、理事長から委嘱されることとなった。
4. その他
 

次回以降の理事会日程について:竹林総務担当理事
 第2回理事会;2019年7月21日(日)
 第3回理事会;2019年9月12日(木)
 第4回理事会;2019年12月21日(土)

を予定
以上
各県報告 広島県報告
真鍋 憲幸
三菱ケミカル株式会社
中国地方会の皆様こんにちは。
この度、産業衛生学会の産業医部会の幹事を拝命しました真鍋です。
もとよりこうした役目がキチンとやり通せる自信など全くない愚か者かつ怠け者ですが、できる限り尽力していきたいと思っていますのでご指導の程何卒よろしくお願い申し上げます。さて、そこで、広島県からの報告のコーナーに掲載することはやや場違いな感じもしますが、私の備忘を兼ねて、中国地方会に関連する部分でこれから私が理解しなければならないと思っている(すなわち、まだ理解していない)ことを含めて整理してみたいと思います。

日本産業衛生学会の産業医部会の幹事は全国で25名おられます。中国地方会からは2名の定員があるようです。これまで宇土 博先生と岸本卓巳先生という大先輩が長らくご担当をなさっておられましたが、この度、山口大学の奥田昌之先生と小生が役を仰せつかりました。
なお、中国地方会としての産業医部会員数は2019年6月時点で80名、全国では約1400名だそうです。先の幹事会では、産業医部会を含む産業衛生学会にいくつかある部会の会員数をそれぞれ増やしていくことも大切なミッションの一つであることが確認されました。

全国を俯瞰する視点でみますと、産業医部会の業務(役割分担)は、学会理事会と協力しての全国協議会の運営や企画をはじめ、専門医制度、生涯教育、政策法制度、倫理審査、プロフェッショナルコースの企画、健診標準フォームの検討、日本医師会との協働、ダイバーシティ推進などに分類される業務群と、全国に9つある地方会での産業医部会の運営になるようです。
当然ながら、各地方会ごとの産業医部会長を長とする組織構成と、上記全国幹事会における地方会担当幹事は別である場合もあろうかと考えますので、今後、本地方会の産業医部会における役割分担などについても勉強しないといけないなと思っております。

また、中国地方会では、荻野会長をトップとする11名の役員のうち、地方会ニュースの原稿調達を含めて所属する県単位ごとの担当者も決められています。そのうち広島県の担当が小生になります(と認識しています)が、その役割をアサインされてみて初めて、私は広島県にどのくらい会員の方がおられるのかとか、産業医部会に入っておられない先生とのコンタクトの手段がないことなどに気づきました。当然ながら、各県単位での報告に際しては、医師以外でご活躍の方々にもご担当・ご執筆をお願いしたい(きっと、産業保健の分野では、医師以外で活躍されている人のほうが地域では多い)と思っていますが、そういった方々を私は県単位では把握できてないことにも気づきました。
今後、地方会の役員の先生方や各部会の先生方に教えて頂きながら、把握に努めていきたいと思っております。
一方で、今後、学会では各県ごとの代議員から県幹事を選出することと伺っていますので、その県幹事の先生との業務や役割の整理が必要なのだろうなと感じています。

ということで、分からないコト尽くしであることを露呈してしまった近況報告となってしまい、「こんな奴に任せて大丈夫か?」という声が多方から聞こえてきそうで大変申し訳なく思っておりますが、「分からないことの可視化」から行って、記録に少しでも残すのが私のひとまずの役目かなと思っております。

最後に、産業保健に関する広島県の数値情報などで、今回私が知り得た(不安感が募って関係団体にひとまず聞いてみた)ものを上述本文と一部重複しますがメモしておきたいと思います。なお、学会関係のデータだけではありませんことをご了承下さい。

・広島県所属の産業衛生学会産業医部会 会員数: 31名 (中国地方会では80名)
・広島県下の日本医師会認定産業医数: 約1530名
・広島県下の常勤(専属)産業医数: 約20名
・広島県下の50人以上の事業所数:約700事業所(一部カウントしていない業種あり)
うち、1000人以上の事業所数:約20事業所

引き続きご指導の程何卒よろしくお願い申し上げます。
各県報告 岡山県報告
道明 道弘
どうみょう医院 院長
 小生は、数ヶ所の事業所の産業医の傍ら、岡山産業保健総合支援センター産業医学相談員と日本労働安全衛生コンサルタント会岡山支部副支部長を以前よりしていて、そのことに関しての報告をします。岡山県では労災件数は漸減していましたが一昨年急に増加し昨年も増加したため、岡山労働局等が危機感を覚え、昨年は特に増加している岡山労働基準監督署、倉敷労働基準監督署管内で「安全塾」を7月から各々計3回ずつ行い、産保センターを通じて、小生は第1回目の講師が当たり、「熱中症対策について」を岡山と倉敷で講演しました(写真)。最近の猛暑で、岡山県では熱中症での労災申請も多くなっているとのことです。今年も注意が必要です。
 さらに、建設業労働災害防止協会岡山県支部主催の「石綿作業主任者」の資格認定研修会で「石綿による健康障害及び予防措置に関する知識」の講義を小生が初期より行っています。講師の不足で研修会が出来ない県が多い中、岡山県は初期より続いていて、他府県からの受講者も多いです。
 また、重大事故につながる健康起因事故防止対策として全日本トラック協会主催による「過労死等防止・健康起因事故防止セミナー」で2~3年前より産保センターからの依頼で「トラック運送事業における過労死等防止対策及び健康起因事故防止対策」を講演しています。睡眠時無呼吸症候群を含めての健康起因事故防止対策でした。
 なお、小生が副支部長をしている日本労働安全衛生コンサルタント会岡山支部では主に労働安全コンサルタント関連の仕事が多いですが、産業医としての労働衛生コンサルタント業務の研修会及びその広報等の仕事もしています。
 昨年の10月27日に岡山ロイヤルホテルにて日本労働安全衛生コンサルタント会中四国ブロック会議を岡山支部の担当で開催しました。本部から会長や役員、各県支部役員、また、岡山労働局安全衛生課長等が来賓で参加されました。議事では、現在の当会における問題点等を各県支部から上げて討論しました。最後に懇親会にて本部会長や役員を交え、各県支部の役員が懇親して散会しました。  
各県報告 島根県報告
地方会学会参加と産業保健看護専門家制度のポイント取得について

中国地方会産業看護部会幹事
落合のり子
島根県立大学看護栄養学部
 元号が平成から令和に代わり、2か月が経過しました。皆さまにおかれましては、お元気にてご活躍のこととお喜び申し上げます。
 昨年11月の第62回中国・四国合同産業衛生学会(於:松江テルサ)には、たくさんのご参加をいただき、誠にありがとうございました。島根県で10年ぶりの地方会でしたが、ポスター発表も加えていただいたおかげで、多くの産業看護職にとって発表の機会にもなりましたし、学会の運営スタッフとしても、貴重な体験をさせていただきました。ご理解ご協力をいただいた皆さまに、改めて心から感謝申し上げます。
 中国地方会では初めて、当日の学会運営スタッフに対して、産業保健看護専門家制度(以下、専門家制度)の「社会貢献証明書」を発行させていただきました。学会参加や研修会参加で取得できる専門家制度のポイントについては、ご存知の方も多いと思いますが、社会貢献についてのポイントについては、取得できる機会が限られております。産業看護部会としては専門家制度の登録者をさらに増やすとともに、登録された方々がスムースに更新したり、研修したりできるよう、地方会の皆様に情報提供したいと考えております。
 そこで、このたびは、専門家制度の現状、登録者認定試験と準備講座、専門家制度の更新について述べたいと思います。
<専門家制度の現状>
 日本産業衛生学会産業保健看護専門家制度は、2015年9月にスタートし、全国で1192名が上級専門家・専門家・登録者として登録しています(2019年5月10日現在)。中国5県では75名が登録しており、専門家制度の認知度が高まるにしたがって登録者数が増加しています。
<登録者認定試験と準備講座>
 次回の登録者認定試験は、2020年1月に予定されております。その準備講座(任意参加)は、東京(11月9日)だけでなく、福岡(9月28日)、大阪、名古屋でも開催予定です。これから登録者認定試験の受験をお考えの方は、ご検討いただければと思います。詳しくは、産業看護部会ホームページ、各地方会ホームページでご確認ください。
<専門家制度の更新>
専門家制度の更新は5年ごとです。2015年9月に登録産業看護師からの移行認定で専門家制度に登録された方の初回更新は、2020年8月末です。更新のために必要なポイントを取得見込みかどうか、ご確認ください。特に、学会参加ポイントは不足していないでしょうか。日本産業衛生学会以外の学会参加ポイントは認められませんので、ご注意ください。地方会学会参加については、所属地方会以外の地方会学会でもポイント取得は可能です。
社会貢献のポイントは学会の運営スタッフで取得できる場合があります。

専門家制度の詳細につきましては、専門家制度委員会事務局にお問い合わせください。
各県報告 鳥取県報告
日本産業衛生学会中国地方会 代議員
黒沢 洋一
鳥取大学医学部医学科健康政策医学分野
 最近の鳥取県の産業保健関連事業について報告いたします。平成30年4月5日鳥取県医師会の産業医部会が開催され、平成29年度の産業医部会の事業報告が行われ、平成30年度の産業医研修会等の事業計画が検討されました。平成30年度の産業医研修会では、「県内事業場のメンタルヘルス対策取組状況」「勤労者のメンタルヘルス~職場復帰支援の実例~」「作業環境測定の留意点」「職場における熱中症対策」「職場における感染症対策」「職場の腰痛健診と腰痛予防」「がん患者の職場復帰・治療と仕事の両立支援」等のテーマが取り上げられ、県内3会場で284名の先生が受講されました。
 鳥取産業保健総合支援センターにおいては、「治療と職業生活の両立支援事業」「ストレスヘルス対策関係」「産業医・産業保健活動の活性化」を柱として、相談、研修会、セミナー、訪問支援が行われました。 課題となっている「治療と職業生活の両立支援」に関しては、平成30年11月2日に第2回鳥取県地域両立支援推進チーム会議が開催され、15機関が参加されました。 各参集者の取組内容の紹介、ガイドライン等の説明、事例発表などについて報告、協議、意見交換が行われました。
 平成30年11月8日には鳥取県産業保健協議会が開催され、鳥取大学、鳥取県医師会、鳥取労働局、鳥取県福祉保健部、鳥取産業保健総合支援センター、山陰労災病院、地域の労働衛生機関が一堂に会して、鳥取県の産業保健の現状、課題、対策について話し合いが行われました。産業医活動の強化、過重労働対策に関連する医師の働き方改革、「治療と職業生活の両立支援事業」の推進等に関する議論が行われました。
 社員の健康度を企業の価値とみなし、経営課題として取り組む「健康経営」考え方が広がりつつありますが、鳥取県でも、全国健康保険協会鳥取支部と「鳥取県民の健康づくり推進にむけた包括的連携に関する協定」を提携し、「健康マイレージ事業」や経営者実践セミナーなどが実践されています。現在、1786事業場(平成30年9月末)が参加しています。また、鳥取県がん検診の推進のためのパートナー企業の認定制度も取り組まれ、967企業48,011名(平成30年7月末)が参加しています。がん検診受診率は、5年前と比較して8.5%増と成果がみられてきています。
 最後になりましたが、第3回日本産業衛生学会中国地方会研究会の開催案内をいたしたいと思います。令和元年9月21日(土)午後1時15分~ 米子コンベンションセンター(〒683-0043 鳥取県米子市末広町294)にて第3回日本産業衛生学会中国地方会研究会を開催致します。幹事会の後、特別講演「治療と仕事の両立支援(仮題)」を講師:春木宥子先生(松江記念病院健康支援センター顧問、NPO法人しまね子どもをたばこから守る会理事長)にお願いしています。また、特別講演「産業看護研究のはじめ方・進め方(仮題)」を講師:掛本知里先生(東京有明医療大学看護学部看護学科教授、日本産業衛生学会産業看護部会副部会長、同産業保健看護専門家制度委員会委員長)にお願いしています。多くの会員の皆様のご参加を頂き活発で有意義な大会になることを希望しています。
 以上、簡単ですが最近の鳥取県の産業保健の状況を報告させていただきました。
各県報告 鳥取県報告
日本産業衛生学会山口県会員の活動

奥田 昌之
山口大学大学院創成科学研究科
 山口県内限定の産業保健関連団体はいくつかあります。最近の活動をネットで調べ、聞き取り、私の見聞を加えてまとめましたが、日本産業医学会の活動を十分把握できていないかもしれせん。本学会地方会の引き受けにはいつも各団体にご協力いただいているところですが、日本産業衛生学会と直接関係ある下部組織や、直接的経済支援を受けている団体はないようです。学会員は山口県産業医会をはじめ、研修会の講師などで県内産業保健職の知識・能力の向上に貢献されています。山口県から本学会の全国学術集会や雑誌への発表は多くないかもしれませんが、本学会もgood practiceを評価しており、現場から発信できることを期待します。
 令和二年は中・四国合同産業衛生学会を山口県が引き受けることになると思います。皆様のご協力ご支援よろしくお願いします。
 最後に山口県内関連団体の最近の活動状況を記します。

山口県産業医会: 平成31年1月27日にメインテーマ「職場の中の発達障碍者~支援と協働に必要なこと~」として、発達障害に関わる専門家の講演を中心としたプログラムで第69回山口県産業衛生学会・山口県医師会産業医研修会が開催された。参加者186名であった。産業医会(会長井手宏、事務局 山口県労働基準協会内)が主に企画した。事務局は山口県労働基準協会内にある。任意団体のため、日本医師会認定産業医のための研修を単独で開催することが困難になっている。

山口県産業看護研究会: 第73回山口県産業看護研究会を平成30年6月3日に健康教育・健康の保持増進対策のテーマの研修で、第74回研究会を平成30年12月1日に職場復帰支援、健康教育・健康の保持増進対策のテーマの研修で開催した。上記の山口県産業衛生学会にも協力し産業保健看護専門家制度研修単位を用意した。事務局は在中国電力(株)山口支社内にある。

一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会山口支部: コンサルタント業務の紹介を行っている。

山口県医師会および郡市医師会: 郡市医師会に所属している日本医師会認定産業医は700人強いる。山口県医師会産業医部会がとりまとめ、平成30年9月22日 睡眠呼吸障害について等の講演、平成31年1月12日、両立支援について等の講演を行い、100人以上の参加があった。その他、上記山口県産業衛生学会のほか、山口県医師会主催で郡市医師会引き受け協力による研修会を産業医会協力のうえ十数回開催し、会員が講師となった研修会もあった。山口県内で日本医師会認定産業医基礎研修前期の研修会は開催されていない。

山口県歯科医師会: 地域保健委員会が産業保健を担当している。

山口県看護協会: 日本看護協会は、専門看護師(地域看護分野)の一つとして産業看護にも貢献できる専門資格を認定する制度を作っているが、山口県に地域看護分野の認定者はいない(令和元年6月現在)。

山口県地域・職域連携推進協議会: 地域医保険法、健康増進法に基づいて山口県単位、2次医療圏単位として設置されている。主に団体の代表者で構成され、山口県産業医会の委員もいる。山口県は県が策定した基準による、やまぐち健康経営企業認定を協会けんぽ山口支部と共同で行っている。分煙対策にも力を入れている。

山口産業保健総合支援センター: 年間100回程度の産業保健スタッフを対象としてセミナーを開催し、そのうち約15回が産業医向けのセミナーである。学会会員もセミナーの講師をしている。日本医師会認定産業医のための研修単位を取得できるセミナーはあるが、産業保健看護専門家制度研修単位を取得できるセミナーはない。

一般社団法人山口県労働基準協会: 平成30年10月10日に協会創立70周年記念 第43回山口県産業安全衛生大会を開催した。その他徳山・宇部・防府地区産業安全衛生大会を開催した。
編集後記
日本産業衛生学会編集後記第33号

岡山大学名誉教授 高知大学医学部特任教授
荻野景規
 第92回日本産業衛生学会の総括があり、労働環境の変化と産業保健がおおきく変わりつつあることを感じた。昨年からすべての労働者の『働き方改革』が非常に話題となっているが、特に『医師の働き方改革』については、変化が大きいと予想される分、注目の的である。公的病院は2年をめどに、一般の病院は、5年をめどに厚生労働省の指針に従うことが、暗黙の了解となっている。当面は、医師数の不足、医師の収入の実質的低下が予想されるので、医師会、厚生労働省を中心に政治家を絡めた激しい議論が起こり、産業医学の集団である産業衛生学会は、正論を要求されるであろう。
 本年9月21日(土)に、米子で開催される第3回日本産業衛生学会中国地方会研究会と、
本年11月30日(土)、12月1日(日)に徳島で開催される第63回中国・四国合同産業衛生学会の案内があった。ストレスチェック・働き方改革等の『健康経営』の面から、企業の産業保健への関心度が高まるにつれ、産業衛生学会はますます注目される学会となる。皆様、学会や研究会に積極的に参加され、研鑽に努めましょう。