日本産業衛生学会 中国地方会
地方会ニュース 第36号(令和3年1月)
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田邉 剛
山口大学大学院 医学系研究科
公衆衛生学・予防医学講座
 人類史上最大の死因であるスペイン風邪では、世界人口が9億人の頃に6億人が感染し、5千万人の死者を出した記録があります。新型コロナは12月はじめの時点で感染者が7千万人、死者が158万人に達しており、第三波でこれからどこまで広がるか懸念されるところです。
 症状の特徴としては突然死を含めた急激な重症化で、血栓の多発による多臓器不全、DICなどが挙げられます。予想外に多いのが後遺症で、2ヶ月以上続く症状として倦怠感53%、呼吸苦42%、関節痛27%に上っています。さらに頭髪の脱毛や味覚障害が続く例もかなりの割合になります。
 感染の経過としては、4月頃がピークの第一波では重症患者比率が5%台に達し、医療崩壊につながりかねないほどに重症患者が急増しました。しかし8月の第二波では重症者比率は1%台にとどまっています。これは感染者に若年層が多くなったことだけが理由では無く、70歳以上の高齢者での入院後致命率も第一波の25.5%から第二波の8.1%に低下しています。理由としてはPCR検査の普及により、より早期に治療を開始できるようになったためと考えられています。死亡につながる重症化リスクとしては、男性であることが2.8倍、年齢が一歳上がる毎に0.1倍増加(つまり80歳では8倍)、糖尿病2.5倍、脂質異常症2.1倍、高尿酸血症3.2倍となっています。
 感染性の時期については、症状が出る前に最も高くなることが明らかになりました。発症日を0日とすると、感染性を有する期間は-2.3日から7日で、ピークは-1日です。感染源は、45%が発症前の感染者、40%が有症者、5%が無症状感染者、10%が環境(コロナウイスルの生存期間は段ボールで24時間、ステンレス鋼で48時間、プラスチックで72時間)です。つまり50%が症状の無い感染者から広がっているため、発熱などの症状だけで隔離してもまだまだ不十分というわけです。
 予防について、マスクによる飛沫を防ぐ効果は不織布マスクで8割、布マスクで7割だったので、タイプにかかわらずマスクを着けることは重要でした。被感染防御効果についても、不織布マスクはぴったりと隙間無く着けるとウイルスの侵入を非常に効果的に防げることが明らかになりました。それに対しフェイスシールドは50ミクロン以下の小さな飛沫にはほとんど捕集効果は無く、マウスシールドはまったく効果が無いことがわかりました。消毒に関しては、市販のアルコール系消毒剤やハンドゾープや台所洗剤のほとんどで完全消毒可能でしたが、次亜塩素酸水系は消毒効果が不十分でした。
 この新型コロナ感染がいつ落ち着くかですが、これまでのパンデミックではスペイン風邪は集団免疫の獲得、SARSは自然消滅、新型インフルエンザは特効薬タミフルと有効なワクチンの開発、MERSは感染地域の限局、というそれぞれ異なる形で収束しています。新型コロナの場合、集団免疫はスウェーデンで試みられたものの、累計死者数が人口100万人当たり約700人に達したため政府は断念しました。ワクチンが有効であれば1~2年で経済活動は復活するかもしれません。しかし懸念として再感染の報告、抗体による重症化の可能性(デング熱のような)が挙げられています。ワクチンが有効で無い場合には、ゆっくりとした集団免疫の獲得が次の方法の候補ですが、最低5年はかかりますし、それ以上早くなると医療崩壊につながる事が予測されています。
 なかなか見通しは厳しいものになりますが、奇跡的に感染爆発の起こっていない日本で、早い収束を目指したいものです。
第95回日本産業衛生学会のご案内
第94回日本産業衛生学会のご案内

第94回日本産業衛生学会 
企画運営委員長・北陸甲信越地方会長
野見山 哲生
信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室
 この度、北陸甲信越地方会が第94回日本産業衛生学会を担当することになりました。昨年の第93回学会、第30回本学会協議会共に新型コロナウイルス感染症拡大によりWEB上の開催となりました。2021年が明けても、新型コロナウイルス感染症による医療負荷が高まる状況での10都府県における第2回目の非常事態宣言という状況で先は読めません。しかし、2019年開催の第93回学会、第29回協議会以降、対面ならさらに深まる議論や親交も交わせていない状況でもあり、当初より予定している現地での開催を目指し、現在準備を進めています。
 学会は、長野県松本市で、2021年5月18日(火)~5月21日(金)に直接参集いただく集合開催と、それと同時にオンラインで参加いただくWEB開催をハイブリッドで実施、その後6月1日(火)~14日(月)(予定)にオンデマンド開催を取り入れた、ダブルハイブリッド形式での開催を計画しています。
 学会は、「全ての人に産業保健の光を」をテーマにしました。本学会は、性別や人種、価値観、疾病・障がいの有無といった多様性に対応する、ダイバーシティー対応であるべきであり、勤務する職種、職場の規模の大小に関わらず、働く人たち全てが産業保健の成果を享受することができなければなりません。「全ての人に」産業保健の光があたるよう、学会員が参加し、議論を交わし、研鑽していただける学会にしたいと考えています。
 学会は、基調講演は「真の働き方改革をめざして~地域職域連携による健康経営の推進~」として藤内修二先生(大分県福祉保健部)に、特別講演は国の「新型コロナウイルス感染症対策」の先頭に立つ尾身茂先生を含め3人の先生方にお願いし、シンポジウム21、教育講演10、フォーラム5、産業医研修会6、地域交流会等の企画で、学会のテーマを支えています。また、学会の大きな牽引力となる一般演題も、現在の情勢で3~4割減の学会もあるところ、501演題を登録頂きました。新型コロナウイルス感染症関連セッション、優秀演題賞、編集委員会とのコラボ企画等も組みました。後は、中国地方会をはじめとした学会員の皆さんにご参加し、活発に討議、研鑽いただけることで、産業保健を一歩前に進め、受益者である労働者の皆さんに寄与することが可能になると考えています。
 春爛漫の岳都、楽都、学都松本で、皆さんとお目にかかるのを楽しみにしています。

参考:第94回学会HP https://convention.jtbcom.co.jp/sanei94/index.html
トピックス
大転換期の産業保健と本学会中国地方会の役割

神田 秀幸
岡山大学公衆衛生学
 新年度より、荻野景規地方会長に代わり、日本産業衛生学会中国地方会長の任を務めさせて頂くこととなりました神田秀幸です。どうぞ宜しくお願い申し上げます。本紙面を借りて、次期地方会長として、ご挨拶を述べさせていただきたいと思います。
 日本産業衛生学会は、働く人々の健康の保持増進を主な目的として、学術、実践両面で社会に貢献することを目指している学会です。中国地方会は、岡山・広島・山口・島根・鳥取の日本産業衛生学会員で構成されています。
 本地方会を構成する中国地方5県において、いわゆる中小企業の従業員割合は都市圏と比して高く、特に小規模企業の従業員割合が高い状況にあります。COVID-19の世界的流行により、私たちの生活は大きく変化しました。わが国の労働者を取り巻く環境も、この対応に伴って劇的に変わりました。中でも中小企業への打撃は大きく、経営と感染症防止対策との両立にご苦労されている様子を広く耳にしております。職場内のCOVID-19の感染防止にあたり、換気・空気循環などのような作業環境管理や、働く人たちの動線や接触行動のような作業管理など、基本に立ち返っての取組みが産業保健における重要な視点であることを多くの人が知るところとなりました。
 また、中小企業における労働災害の状況を、従業員規模別の労働災害率(度数率、強度率)でみると、企業規模が小さくなるにつれ労働災害の頻度が明らかに増え、強度も重くなることから、本地方において中小企業の産業保健活動は、労働災害防止につながる重要なテーマであると認識しています。
 さらには、ストレスチェックの義務化が進み、どんな業種・業態であっても事業場として集団のメンタルヘルスの状態や高ストレス者の頻度を把握する必要があります。これにより、メンタルヘルス不調者の早期発見・早期対応へとつなげる方向にあります。
 政府が進める働き方改革も、職場環境を大きく変えることにつながっています。就業時間管理の徹底、時間外労働の制限は、これまでの働き方を見直さざるを得ない状況になっています。 
 この他、化学物質による職業ガンの発生が報告され、その適正管理の重要性が改めて認識されるようになりました。これを受け、化学物質のリスクアセスメントが義務化されました。
 このように、職場や仕事に起因する健康障害の防止に関し、現在、産業保健にまつわる大きなパラダイムシフトの時期を迎えたと言って過言ではないと思われます。
 本学会は、大学などの研究機関と産業現場とが連携し、労働や職場環境の様々な健康障害要因を究明し、その有効な解決方法を調査研究しています。中国地方会では、四国地方会と合同学会を開催し学会発表や学術研究に関する情報交換の場を提供し、また中国地方会研究会を設け、産業保健スタッフのための研修会や研鑽の場を提供しています。さらに、産業医・産業看護・産業衛生技術・産業歯科といった職能別の部会も活動しています。これからも、学びの多い地方会にできればと思っています。多くの方々が中国地方会にご参加頂けるような、魅力ある会になるよう尽力したいと思います。
 時代の大転換期を、皆様とともに知恵を出し合い、苦難を共に乗り越えていきたいと考えています。今後の地方会運営に、皆様方からご提案・ご要望をお寄せ頂ければ幸いです。
引き続き、中国地方会の活動にご理解とご支援、ご協力のほどをどうぞ宜しくお願い申し上げます。
理事会報告
理事会報告

鎗田 圭一郎
鎗田労働衛生コンサルタント事務所
 2020年度の理事会は下記の日時で開催されましたが、12月19日に開催された理事会の内容も併せ主なところを報告させていただきます。
 なお産業医部会など、部会からの報告は各々の部会から報告されると思いますので、この報告では割愛させていただきます。
1.2020年度理事会開催日時
  第1回:4月18日(土) 第2回:6月27日(土) 第3回:9月12日(土)
第4回:12月19日(土)
*いずれも13:00~17:00、ZOOMを使用のWEB会議
2.これまでの主な審議・報告事項
(1)学会・全国協議会について
第93回日本産業衛生学会サテライト研修会:2020年10月17日(WEB開催)

第94回日本産業衛生学会準備状況:会期を2期に分けて開催(長野県松本市)
メインテーマ:「全ての人に産業保健の光を」
2021年5月18日(火)~5月21日(金)【会場(2,000名)及びライブ配信】
2021年6月1日(火)~6月14日(月)(オンデマンド開催)
*一般演題は、会場発表を伴うポスター展示と、講演発表、誌上発表の3通りを予定。
演題の応募を1月12日まで延長した。

第95回日本産業衛生学会準備状況:2022年5月25日(水)~5月28日(土)、高知県高知市高地県民文化ホールで開催予定。開催方法はCOVID-19 の流行状況にもよるが、「新しい時代の産業保健(継続可能な社会を目指して)」をテーマとする予定。
第96回日本産業衛生学会開催地:関東地方会が担当
第30回日本産業衛生学会全国協議会準備状況:2020年11月20日(金)~11月30日(月)に誌上およびWEB開催(一部オンライン開催)、プレ企画として2020年11月3日(火)に鹿児島県医師会館において定員100名の研修会を開催された。
第31回日本産業衛生学会全国協議会準備状況:テーマを「経済社会と健康:ポストコロナの産業衛生を考える」とし、メイン会場以外にも出席確認可能な会場を設けライブ配信する等、日本医師会の認定産業医単位が取得できる方法や会場開催(三重県津市)とWEB開催の併用を検討。
現地会場開催およびライブ配信開催:2021年12月3日(金)~5日(日)
オンデマンド配信開催:2021年12月3日(金)~19日(日)
(2)学会・全国協議会の開催方法について
   学会・全国協議会への参加者数の増加により、地方都市での会場の確保が難しくなって来ている状況を踏まえ、地方会長へアンケートを行い地方会連携会議で協議した結果、「全国協議会はこれまでどおり全地方会輪番制で開催するが、年次学会は、適した会場を有する5大都市(札幌、東京、名古屋、大阪、福岡)に固定して開催する。担当は、開催都市に近い地方会でグループを作り、輪番制とする。会場は担当地方会で決定する。新方式への移行は2023年度からを予定している。」という運営案が提出され、継続審議されることとなった。
(3)広報委員会の委員・学会ホームページの見直しについて
   ホームページ見直しワーキンググループが新しいホームページのグランドデザインを決定し、業者候補6社を選び提案と見積もりを依頼、ホームページ見直しワーキンググループの検討を経て、業務執行理事会の判断でほぼ業者が決定された。
(4)政策法制度委員会からの答申について
   2017年12月に理事長から政策法制度委員会へ諮問していた産業医及び産業保健活動の今後のあり方について、政策法制度委員会から提出された答申案が提示された。大きくすべての人に産業保健サービスを提供すること、その提供のあり方、またILO国際労働基準の批准状況と今後の課題についてとりまとめている。引き続き理事からの意見を募集し、2021年1月に最終決定される予定。
(5)COI規定類の改正について
   日本医学会連合COIガイドラインの改正に伴い、学会のCOIを見直した改正案が提示された。COI申告の対象者が理事、監事の他、編集委員会委員、許容濃度等に関する委員会委員等、大幅に増加し、また条件も厳しくなることから事務処理量が増大することについての懸念やCOI申告書に書かれた内容を委員会が審査することについては慎重に検討する必要があるとの意見もあった。
(6)その他
   「地方会の活性化について」や「研究会の増額申請について」などが審議され、「日本産業衛生学会100周年に向けたWGと活動案」や「ダイバーシティ推進委員会の子育て中の学術集会参加ヒント集」などが報告された。

 上記のように様々な案件が理事会では審議、報告されていますが、昨今の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により2020年度の理事会はすべてがWEB開催となりました。また、このような世情下では、外部団体からその提言に対する産業衛生学会としての賛同を問われるケースが多くあり、理事会の開催が困難な緊急の提言に対してはメールでその是非を理事全員に問い、理事全員の賛成が得られなければ賛同しないことが改めて確認されました。
以上
部会報告 産業医部会報告
中国産業医部会 ご報告

部会長 奥田 昌之
 中国医部会組織 正式な名称は日本産業衛生学会中国地方会産業医部会です。中国地方会にある組織の一つで、地方会のガバナンスの下予算の配分があります。会員は日本産業衛生学会産業医部会(産業医部会)の会員がそのまま当部会の会員で、産業医部会から助成金もいただいています。今年11月23日の地方会役員会で当部会の規則が承認され施行されました。また当部会の役員(敬称略)は、部会長奥田(山口)、副部会長真鍋(広島)、世話人に高尾(岡山)、鎗田(広島)、井手(山口)、塩田(山口)、黒澤(鳥取)、春木(島根)、顧問に宇土(広島)の体制となっております。
 医部会の活動 学会の目的は学術の振興とそれによる学術と社会の発展への寄与であり、学術活動やその成果の社会還元と、成果に基づく専門職の質の向上機会の提供です。他の部会同様医部会では特に後者の産業医の質向上を担う役目があります。学術的集会が日本産業衛生学会で、部会が行っておりますのが全国協議会です。学会でも産業医フォーラムとしての医部会の活動はあります。第30回全国協議会(鹿児島)は、誌上、Web開催で11月下旬に開催されたところです。個人的な感想ですが、リモートとの参加で便利なところもありますが、「ながら」参加になったり、他の用事と重なったり混乱してしまいました。中国地方会では併催していますが、残念ながらコロナ禍で令和2年度の学術的集会の地方会の開催がなく、併催となる中国医部会の研修会を開くことができませんでした。誠に申し訳ありません。今年度は活動が困難と思いますし、他の地方会でも似たような状況と伺っています。
 医部会の話題 中国地方には遠隔地に本社がある工場も多いこととも思います。そのような事業場では有害業務もあるにもかかわらず産業医の確保が困難であることも見聞します。ICTの発達、規制改革の波、さらにコロナ禍でのテレワークの推進という状況のなか産業医の在り方が再び問われています。昨年経団連から「専属産業医の遠隔化および兼務要件の緩和」(令和元年度分)の要望がだされ、厚生労働省は常駐が望ましいと回答しておりますが、さらにオンラインで可能な業務内容を明確にしようとしている動きがあります。端緒の専属産業医だけでなく、嘱託産業医の事業場や産業医の選任義務のない事業場での活動にも関係します。産業医部会も意見を述べておりますが、さらに学会理事会でまとめられています。先般の全国協議会ではオンライン面接指導を実施した発表報告もありました。オンライン業務の利点・欠点・検討すべき課題などを、紙面ならなおよいですが演題でもよいので発表いただくとエビデンスが積み上がります。基発第214号(H9.3.31)、基発0915第5号(H27.9.15)もご参考ください。
 専門医資格の更新はコロナ禍で1年延期になるようです。必要な単位をご確認ください。
医部会の予定 令和3(2021)年の予定は、次の通りです。
 1月30-31日プロフェッショナルコース
 5月18-21日第94回日本産業衛生学会(松本市) 産業医部会フォーラムをハイブリッド形式で開催
 12月3-4日第31回全国協議会(津市) ハイブリッド形式
2022年は部会成立30周年です。32回全国協議会は北海道担当です。
部会報告 産業看護部会報告
「withコロナ」の時代へ向けて

落合 のり子
島根県立大学
 中国地方会では、中国・四国合同産業衛生学会を11月に山口県で開催するよう準備を進めておりましたが、COVID-19のため残念ながら中止となりました。恒例の産業看護部会研修会や世話人会もなく、大変残念に感じております。いつもなら対面でできる産業看護職同士の情報交換も、コロナ禍では困難であるため、他の人たちの様子がわからないことで不安や焦燥感がつのる、といった声も寄せられております。
 このような状況下ですが、島根県では、研修会を対面からオンライン開催に変更し、グループワークを取り入れたり、研修会以外に「産業看護カフェ」を開いたりして、近況をオンラインで話す場づくりをしています。はじめは、お互いに分からないことだらけで、とても不安でしたが、いざ参加してみると「久しぶりにマスクを外して、顔の見える関係で話せることが、何よりも癒しに繋がった」との感想を伺いました。
 私自身も、大学での授業が遠隔授業に変更となったため、教材作成や授業の録画に大変な時間と労力を割くことになりました。マニュアル通りに録画を配信しても、何らかの理由で学生から「見ることができません!」とメールが来ると、すごく焦ったことを思い出します。
 職場や自宅でリモートでの研究会や交流会に参加するには、新たに通信環境を整え、自分自身も使用方法に慣れるなどの課題があります。しかしながら、「withコロナ」の時代には、新しい「交流」技術を獲得するチャレンジも必要ではないでしょうか。これまで、学会や研修会参加に対して「遠い」、「時間がかかる」、「費用がかかる」などを理由に諦めていた人も、その気になれば参加可能な世界が待っています。また、リモートでの健康相談や保健指導は今後増加が予想されますので、これまでの仕事のやり方を見直す機会ともいえるでしょう。ピンチをチャンスにすることができれば、自分自身の自信に繋がり、産業看護職としての仕事の可能性を広げることになるでしょう。
 中国地方会の中でも、お互いを高め合うためのアイデアと工夫を凝らし、会員同士の繋がりを大切にしたいと考えています。皆さまと、対面でまたはリモートでお目にかかれることを楽しみにしております。
部会報告 産業衛生技術部会報告
「産業衛生技術部会」中国地方会代表幹事
田口 豊郁
川崎医療福祉大学医療福祉学部 特任教授
E-mail: taguchit@mw.kawasaki-m.ac.jp
(産業衛生技術部会ホームページhttp://jsoh-ohe.umin.jp
産業衛生技術部会について
 産業衛生技術部会では,作業環境管理(Working Environment Control),作業管理(Work Practice Management)を中心とした幅広い活動をしている産業衛生技術者が、その専門性をより高めていくための情報の収集と発信をしています.当部会の活動状況については随時,ホームページで紹介しています.当部会への入会は,日本産業衛生学会員ならばどなたでも可能です.日本産業衛生学会費以外の会費はかかりません.
1.2020年度活動報告
 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に振り回された1年でした.
 2020年度は,①第93回日本産業衛生学会(旭川,Web開催2020年6月12日~28日),②第30回日本産業衛生学会全国協議会(鹿児島,Web開催2020年11月20日~11月30日),および③第64回中国四国合同産業衛生学会(山口,COVID19蔓延のため中止)――の中で以下の活動を行いました.
1) 第93回日本産業衛生学会(旭川,Web開催2020年6月12日~28日)
産業衛生技術部会専門研修会:「遠隔管理の産業衛生分野への応用」.測位システムを活用した化学物質管理と今後の可能性,他計4題
産業衛生技術フォーラム:「現場における有効な熱中症予防技術」,製造業における熱中症予防対策の実践,他計4題
2) 第30回日本産業衛生学会全国協議会(鹿児島,Web開催2020年11月20日~30日)
シンポジウム2:「パワハラ行為者の行動特性を考慮した一次から三次予防対策を考える」
教育講演1:「さらなる労働衛生管理を目指して」
4部会合同シンポジウム:「労働者の高齢化に対する産業保健スタッフの果たすべき役割」
自由集会企画○○と話そう:「産業衛生技術部会長と話そう」
3) 第64回中国四国合同産業衛生学会がCOVID19蔓延のため中止になりましたので,恒例の産業生成技術部会(中国地方会)主催の産業衛生技術研修会は未開催となりました.
4) 産業衛生技術部会幹事会
拡大幹事会をWebで開催した(第1回:6月19日,第2回:11月17日)
2.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策用「換気シミュレータ」の作製
 「換気の良否が簡単に見積もれるツール:換気シミュレータ」をホームページに公開(2020年4月17日)した(エクセルファイルを無料でダウンロードできる).
 (産業衛生技術部会ホームページhttp://jsoh-ohe.umin.jp/covid_simulator/covid_simulator.html)  部屋にいる人数,部屋のサイズ,室内での活動状況,換気装置の条件などを入力することにより,室内の二酸化炭素(CO2)の濃度を推定し,これにもとづいて換気の良し悪しを見積もることができます.事務室,会議用の部屋,集会などの場所,家庭内など,屋内のさまざまな状況で利用できます.
【換気の良否見積もりの区分と対策】
 換気シミュレーターによる見積もりで得られる結果および対策を下表に示しました.結果に応じて推奨される対策を行ってください.
 表 換気の良否見積もりの区分と対策
部会報告 産業歯科保健部会報告
森田 学
岡山大学大学院医歯薬学綜合研究科 
予防歯科学分野
 新型コロナウイルス感染症により多くの関連学会がweb開催、誌上開催となりました。構成員が少ない歯科保健部会、せめて年に一度は顔合わせして、部会を盛り上げなくてはならなかったのに残念です。PC画面で得た情報を、本レターの読者の皆さまに上手く伝える自信がありません。ということで、今回はあくまで私が勝手に選んだ報告にします。
1.電子投票選挙
 もちろん、歯科部会からの報告ではありません。一応、私が選挙管理委員長を仰せつかった立場から、初めて電子投票システムを利用して役員選挙を行った際の感想をいくつか。
 選挙の日程、方法は地方会のホームページに掲載しました。加えて、念のため会員の皆様にメールでお知らせしました。私もそうですが、ホームページを常にチェックしているわけではありませんので。しかし、かなりの数のメールが届かなかったようです。メールアドレスは本部が管理しているものを使わせていただきましたが、アップデートできていないのでしょう。今後、郵送による選挙に戻る可能性はありません。選挙管理委員会からのメールが届かなかった方は、対応よろしくお願いします。
 開票作業は、私だけでキー操作したのでは公正さに欠けますので、他の選挙管理委員の先生の監視下で行いました。一瞬(キーボードを2~3回クリック)で終わりました。便利でした。投票率も同時に分かります。開封作業や、「正」の字を書きながらの集計作業も不要です。実際の投票の画面と操作が若干分かりにくく、「投票途中で投票終了のメッセージが出た」というトラブルもありました。改善点として中央の選挙管理員会に報告します。
2.オーラルフレイル
 いきなり話題を替えて恐縮です。「オーラルフレイル」の研究を始めました。高齢者でよくみられる「口腔機能の衰え」を示す概念です。高齢の方が増えている事業所も多いと思いますので、何かの機会に取り上げていただけたら幸いです。オーラルフレイルは栄養摂取不良を招き、サルコペニア(筋力低下)、ひいては要介護状態にもつながる一因であることが徐々に解明されてきました。口腔機能低下症という保険病名が新たにできたことからも、話題性として十分です。
 口腔機能の衰えを、客観的に、かつ簡便に診断するための機器がいくつか開発されています。舌苔の細菌数測定器、口腔粘膜の湿潤度測定器、舌圧測定器、咀嚼能力測定装置などです。また、オーラルディアドコキネシス(ODK)とよばれる、舌や口唇などの運動速度や巧緻性を発音状況によって評価する検査法もあります。大規模コホート調査では、咀嚼能力、舌圧、ODKの検査結果が身体のフレイルやその後の寿命と有意に関連していました。また、私たちの診療室の外来患者さんに協力をお願いして行った調査では、ODKの低下→栄養状態の低下→身体機能(休まずに歩ける距離)の低下という流れがあることが統計学的に明らかになりました。前述のとおり、ODKは舌口唇の運動機能を表す指標です。具体的には、“/タ/”と“/カ/”それぞれを5秒間で30回ちゃんと発音できることが大事なようです。専用の機器が無くても、ストップウォッチがあれば何とか可能です。読者の皆さまも試してみてください。

ダイバーシティ推進委員会報告
ダイバーシティ推進委員会委員
井上 恵
中国銀行健康保険組合
 ダイバーシティ推進委員会は2018年9月に学会本部の委員会(非常設) として発足しました。
この委員会は、学会員のダイバーシティ(多様なスタイル) を考え、若手や女性をはじめ幅広い層の会員それぞれのニーズに応じたより参加しやすい学会活動と学会全体の活性化を目的とした委員19名(4部会、9地方会、専門家)と理事2名で構成される委員会です。
 当面は、学会員向けの活動から始めていますが、当委員会の活動が発展することで、産業衛生分野におけるダイバーシティについて学会として考えることができればと思います。
 これまでの活動では、2019年度第92回総会(名古屋)及び第29回全国協議会(仙台)で、会員参加型の『ワールド・カフェ形式』の自由集会を開催し、学会員の意見を聞く場を作りました。会員を中心に性別や年齢、キャリアも様々な背景を持つ会員が参加しやすい学会運営とは何か、学会へ期待することは何か、私たちができることは何か、などについて活発な意見交換が行われました。得られた意見は委員会提言として理事会に報告されています。議論の概要は産業衛生学雑誌62巻1号「産衛だより」で紹介されています。
 また2019年度は学会における託児室設置状況を各地方会長及び4部会の会長を対象にアンケート調査を実施しました。託児室設置の現状を把握し課題を考察することで、子育て世代の会員が学会行事に参加しやすくなる環境づくりの1つとして進められるものと思います。アンケート結果報告は、産業衛生学雑誌62巻4号に掲載されています。
 2020年度は、より多くの会員が学会活動を活発に行うためにはどんな工夫が必要なのかを検討してきた中でまず初めに取り組むべき課題として、子育て中の学会員が安心して楽しく学術集会に参加できることを挙げ、「子育て中の学術集会参加ヒント集(仮)」を作成しました。各地方会の担当委員がオンライン会議で意見を出し合い、試行錯誤を重ねながら、「楽しく」をモットーに進めました。このヒント集が育児中の学会員の楽しく学会に参加するための後押しとなればと思っています。
 学会参加しやすくなる運営方法として、様々な事情で参加できない会員のために、ICTを利用したオンライン開催等の意見がありましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響により、学会のオンライン開催が図らずも実現可能になって、より多くの会員が学会に関わり参加することができる機会となったように思います。
 第30回全国協議会(鹿児島)では、メインシンポジウムでの活動紹介やフォーラム(オンライン)を開催し、フォーラムでの参考資料として会員の実態調査(アンケート)を9月末に全会員に対して実施しました。当委員会での行事や取組について、今後多くの会員のメリットとなることを感じています。アンケート結果は、産業衛生学雑誌にて公表予定です。
 中国地方会においても本委員会が、本学会における会員のダイバーシティを推進し、学会員が参加しやすい学会活動の在り方について検討し活動していることを多くの会員に知っていただけるよう努めていきたいと思います。
編集後記
日本産業衛生学会 中国地方会長
荻野景規
 日本産業衛生学会中国地方会の役員の先生方の原稿を拝読させていただいて、改めて、新型コロナウイルスが教育現場、産業職場に多大な影響を与えていることがわかりました。
 新型コロナウイルスの影響は、島国である日本の閉鎖性に、黒船到来時並みの大きな社会変革をもたらしつつあります。これからもより正確な科学(science)に立脚した新しい学問体系が、日本産業衛生学会にも要求されます。ところで、コロナ禍の下の産業現場では、企業経営者の資質として「Scienceを理解したうえでマネージメントできる」能力が重要であることが、指摘されました。文部科学省は、大学の専門性の垣根を取っ払い、文系・理系という区別をなくしようとしています。これまでは産業保健にどちらかというと消極的であった(文系)経営幹部よりも、産業保健を理解できる経営者、経営幹部が多く輩出され、本学会の活動がより重要視される日が来ると期待されます。

 最後に、産業職場における有機溶剤の生物学的モニタリングを確立し、日本産業衛生学会に多大な貢献をされた岡山大学名誉教授・緒方正名先生が、令和2年11月21日にご逝去されました。ここに哀悼の意を表し、心より感謝を申し上げたいとおもいます。私が岡山大学へ赴任したとき、緒方先生が言われた言葉『学者は、仮説をたて証明する人のことです。歴史的評価を受けるのは、自ら書いた論文だけですよ』を思い出しました。日本産業衛生学会中国地方会の益々の発展と皆様のご健勝をお祈り申し上げます。