日本産業衛生学会 中国地方会
地方会ニュース 第37号(令和3年7月)
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これからの日本産業衛生学会中国地方会に寄せて

岸本 卓巳
アスベスト疾患研究・研修センター所長
 新型コロナウイルス感染も1年半以上経過したものの岡山・広島では緊急事態宣言下にありかつての日常生活には程遠い昨今ですが、中国地方会員の皆様にはお元気で日常業務を行われていることと存じます。
 私は中国地方会の代議員に選出されて約20年間継続してこの任を務めてまいりましたが、年齢的に今期が最後となります。過去にも先輩達がこの地方会を活性化するために努力されてきましたが、全国レベルに比較して活動が盛んではなかったと思います。
 今年度からは神田秀幸新会長の下、新たな中国地方会が始まろうとしています。代議員の方々も若返り、私のよく存じ上げているベテランの方々も少なくなりました。会長をはじめとする若い力で新生中国地方会が誕生することを期待しております。私も今までの経験を生かして精一杯協力したいと張り切っております。
 さて、コロナ禍によって、私の働くスタイルも大きく変わりました。コロナ禍以前には週1回以上東京・神奈川に行き、さらには広島・北九州や大阪に出張しておりましたが、この1年半では東京にはわずかに1度、その他の府県には一度も行くことができませんでした。その代わりに、ほぼ毎日のようにWebによる審査会、班会議及び定例の諸会議を行って参りました。その結果、視力が急激に低下して、この4・5月には白内障の手術を余儀なくされました。現在遠くはよく見えますが、コンピュータに向かう際には眼鏡をはずして対応しております。
 このような働き方の変化は、コロナ後にも定着するのではないかと想像しております。 現在、飲食・観光業や航空や電車等の運輸業など感染症に関係する業種に働く人々には大きな逆風になっておりますが、元に戻るには少なからず時間を要すものと思います。これらの人々の間ではメンタルヘルスや運動量の低下による生活習慣病の悪化等様々な健康問題も明らかとなっております。
 我々、産業衛生を専門とするスタッフにはこれら働く人々に対して、どのような支援ができるか?現場における労働者の健康や安全に対しては個々人ではなく、多数の分野のより多くの専門家やその協力者による大きな力が必要だと思います。そして、これらの多くの人々や大きな力をコントロールするべき拠点が必要となります。
 今こそ、日本産業衛生学会中国地方会の実力が試される時ではないかと思います。
 我々も対面で議論することには制約がありますので、Web会議をうまく活用した縦・横のつながりを駆使して頑張りましょう。また、中国地方会から全国へと新たなアイデアや実績などの情報を発信しましょう。会員の皆様のご協力をお願いいたします。
第94回日本産業衛生学会(松本)の開催報告

第94回日本産業衛生学会 
企画運営委員長・北陸甲信越地方会長
野見山 哲生
信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室
 この度は第94回日本産業衛生学会の開催について、中国地方会の皆さんにご報告の機会を頂きありがとうございます。本学会は、令和3年5月18日から21日、松本の会場とWEBによるオンラインによるハイブリッドと、5月26日から6月30日までのオンデマンド配信によるダブルハイブリッド方式で開催し、無事会期を終了しました。会期中3,904名の参加者にご参加頂きました。会期直前の4月から始まった新型コロナウイルス感染症の第4波のために東京都などに発出された3回目の非常事態宣言の期間が終了した直後の開催にも限らず、多くの皆さんにご参加頂きました。主催者として深く御礼申し上げます。
 今回の学会は、すべての人に産業保健の光を、を主テーマとし、ジェンダー、障害、価値観はもとより、所属する企業の大小に限らず、働く人が受ける産業保健サービスを受けることができるよう、基調講演、特別講演、シンポジウムといった指定演題プログラムのテーマ、演者に学会の意図を説明し、企画をお届けするよう努めました。また、最新のコロナウイルス感染症対策についての特別講演、シンポジウムから、災害産業保健、AI、産業保健人材育成に関するセッションもあり、会場参加数は参加者の1割程度でしたが、WEB上では会場の定員を上回る参加者があり、質疑も活発に行われ、今まで会場だけで感じていた臨場感を、WEBでも感じられるものになったと感じました。中国地方会の皆様にもご堪能頂けたでしょうか。
 さて、今回の学会では、変動する新型コロナウイルス感染症の感染状況に対応できるよう、感染対策チームを発足させました。現地参加者の人数を収容人員の50%として参加登録頂きながら、感染対策チームには感染状況に応じ、どのように現地またはオンライン参加とするかの判断いただくかをフローでお示しすることに致しました。また会期後は、現地の感染症、公衆衛生学の専門家を含む感染対策チームによって、現地参加による感染拡大があったかどうかの検証を行いました。不要不急でない学会開催といえども、開催することで参加者、開催地への影響を最小化すること、そして感染者を生まない結果を残すことが必要であり、本学会開催による感染者や感染拡大は無いものと結論できました。この点は、参加いただいた皆さまの努力の結果でもあり、深く感謝申し上げます。
 今回の学会を企画運営した北陸甲信越地方会は小規模事業所の多い地方という観点で、皆さんの所属する中国地方会との類似点もあるのではないかと思います。そういう意味で、中国地方会の参加者の皆さんにとって、今回の学会に参加し、どのような点が参加して良かったか、どのような点が不足していたか、改善を必要としていたか、について、忌憚のないご意見を頂ければ幸いです(宛先:sanei94@shinshu-u.ac.jp)。公益社団法人としての日本産業衛生学会が、今後開く学会、協議会にフィードバックできるよう、企画運営委員会の中で総括し、活かしたいと考えています。
 最後になりましたが、皆さんのご協力に感謝し、第94回日本産業衛生学会開催のご報告に代えさせていただきます。
第65回中国四国合同産業衛生学会(香川)のご案内
第65回中国四国合同産業衛生学会について

平尾 智広
香川大学医学部
 中国地方会の皆様、香川大学の平尾智広と申します。このたび第65回中国四国合同産業衛生学会を担当することになりました。前回は平成25年(2013年)ですから8年ぶりの担当となります。会期は令和3年(2021年)11月20日(土)~12月20日(日)で、新型コロナ感染症のため、完全オンラインで開催いたします。晩秋の讃岐路にお越し頂けないのは大変残念ですが、会員の皆様にはご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
 学会のテーマは「新型コロナウィルス感染症と産業保健」とさせていただきました。あまりにも直球ですが、コロナ対応は二年目に入っているものの、依然として職域における最大の課題のひとつです。また今後もしばらくの間、対応の継続が求められることでしょう。特別講演では、国際医療福祉大学の和田耕治先生に、新型コロナウィルス対策の状況について、香川大学の宮武伸行先生に、事業所における新型コロナウィルス対策について、お話をいただきます。学会開催時の11月には、現在とは異なった状況であることが予想されますが、これまでの知見の確認と経験の共有が行われることを期待しています。
 恒例の部会研修会について、今回はオンライン開催のため講師や受講者の移動を考慮しなくてもよいことから、時間帯を分けて二部制としました、参加者は2つの部会研修会をフルで受講することが可能です。また受講による認定単位も取得可能となるよういたします(産業医研修単位については対面受講が求められているため後日周知予定)。一般演題もオンラインでおこないますので、発表者は自宅や職場からゆったりとご発表いただけます。今回のテーマの新型コロナをはじめ、多くの演題登録をお待ちしております。
 学会開催時の11月には、どのような景色が見えているのでしょうか。より良い方向へ進んでいることを期待しながら、ごあいさつに代えさせていただきます。
会  期: 令和3年(2021年)11月20(土)~21(日)
開催形式: 完全オンライン(オンデマンド配信は行いません)
テーマ: 新型コロナウィルス感染症と産業保健
日  程:  
11月20日(土) 部会研修会
  1300-1500 第一部 産業衛生技術部会研修会  産業歯科保健部会研修会
  1530-1730 第二部 産業医部会研修会     産業看護部会研修会
11月21日(日)
  0930-1130 一般演題(オンライン講演のみ)
  1230-1300 総会
  1330-1430 特別講演1 和田 耕治(国際医療福祉大学)
  1445-1545 特別講演2 宮武 伸行(香川大学)
     1550  閉会
演題募集: 令和3年(2021年)8月1日~9月30日
トピックス
 

中国地方会産業看護部会幹事
落合 のり子
島根県立大学看護栄養学部
 第4回日本産業衛生学会中国地方会研究会のご案内をさせていただきます。
 中国地方会研究会は、中国四国合同産業衛生学会が四国で開催される年に、中国地方で開催する研究会で、今年は、9月23日(木・祝日)に、松江テルサ(島根県松江市)において開催いたします。テーマは「テレワーク時代 産業保健にできること」といたしました。
 新型コロナ感染症対策に伴い、昨年から大きく変わった「労働者の働き方」、「産業保健活動」について、最新情報を踏まえたより良い実践活動への示唆を得ていただければと思います。研究会では、リモートの産業保健活動、テレワーク下での健康管理、産業保健の実践活動に関する3つの研修を予定していますので、是非、ご参加をご検討ください。
 今回の研究会では、感染症対策のため会場の人数制限(会場定員の半数)を行います。そのため、対面で実施する研修を他の会場へライブ配信するハイブリッド方式を取ります。ライブ配信は新たな試みですが、これからの学会や研究会の開催方法を考える上での一つのチャレンジと考えております。皆様のご理解とご協力を、どうぞよろしくお願いいたします。
 詳細につきましては、地方会HPの「第4回日本産業衛生学会中国地方会研究会」開催要項をご覧ください。
 皆様のご参加を心からお待ちしております。
<プログラム>
13:00~13:30 開会セレモニー
13:30~14:30 【研修1】 「リモート産業保健活動の最新状況(オンラインによる衛生委員会等)」
講師:高尾総司(岡山大学大学院 疫学・衛生学分野 准教授)
14:30~15:30 【研修2】 「テレワーク下における健康管理
~安全配慮義務と自己保健義務の観点から~」
講師:高尾総司(岡山大学大学院 疫学・衛生学分野 准教授)
  *【研修1】【研修2】のみの参加者は、解散
15:45~16:45 【研修3:産業看護部会】「Covid-19産業看護職の実践活動から考える
            これからの産業保健」
   講師:落合のり子(島根県立大学看護栄養学部看護学科 准教授)
16:45~17:00 閉会セレモニー
理事会報告
2021年度理事会報告

鎗田 圭一郎
鎗田労働衛生コンサルタント事務所
 2021年度の理事会はこれまでに、第1回理事会と臨時理事会が開催されましたが、7月17日(土)には第2回理事会がZoomを用いたインターネット会議の形で開催される予定となっています。第1回理事会および臨時理事会の主な内容をご報告いたします。
1,2021年度第1回理事会開催日時
  2021年4月10日(土)13:00~17:00
*インターネット会議(Zoom利用)
2,2021年度臨時理事会開催日時
  2021年5月18日(火)18:30~19:10
〔場所:まつもと市民芸術館 会議室① Zoom併用〕
3,これまでの主な審議・報告事項
(1) 学会・全国協議会について
第95回日本産業衛生学会準備状況:2022年5月25日(水)~28日(土)、高知県高知市高地県民文化ホール等4施設で定員は2,500~3,000名とする予定。テーマは「新しい時代の働き方と産業保健」、現地開催およびライブ配信、オンデマンド開催予定、HPにすでに掲載、ポスターも完成(菅沼理事)。
第96回日本産業衛生学会開催地:関東地方会が担当、新型コロナウイルス感染拡大防止や、参加しやすさ等の理由により、開催方法はWeb開催のみの予定とのことだったが、理事数名から対面交流も重要であり現地開催を望む会員のニーズも高いとの意見があり、今後は全面的に理事会が協力し改めてハイブリッド開催を検討することとなった(諏訪園理事)。
第30回全国協議会会計報告:1,391名の参加があり、黒字決算となった(住徳理事)。
第31回日本産業衛生学会全国協議会準備状況:三重県津市で、2021年12月3日(金)~5日(日)〔現地会場開催およびライブ配信〕、12月3日(金)~19日(日)〔オンデマンド配信〕、テーマを「経済社会と健康:ポストコロナの産業衛生を考える」とし、日本医師会の認定産業医単位が取得できる方法を検討中、すでに学会HPに掲載。事前参加登録は8月頃から開始予定(笽島理事)。
第32回全国協議会準備状況報告:2022年9月29日(木)~10月1日(土)、札幌コンベンションセンターで開催、現地開催とWeb開催の併用予定(佐藤理事)。
(2) 2020年度決算報告について:住徳理事
コロナ禍で事業を予定どおりに実行できず全体的な収入が減少した一方で、会場費、旅費交通費等の支出が抑えられた他、誌上・オンライン開催に変更した学会、全国協議会の努力により多額の余剰金が発生したこと等により大幅な黒字決算となった。結果として、2020年度の公益目的事業会計の収支相償を満たすことができなかったため、2021年度は、積極的に公益事業を推進する必要があることを確認した。
(3) 学術委員会報告:堤理事
9つのテーマを委員で分担して活動していることが報告された。活動範囲が広く、スピード感が求められるため、委員会内に連携委員のような位置づけの協力者をおきたいという要望があった。これに対し、10名の委員増員が提案され、異議無く承認された。
(4) 広報委員会報告:照屋理事
ホームページ見直しワーキンググループから新しいホームページのデザイン案の提示があり、9月末の公開を目標にしているとの報告があった。
(5) ダイバーシティ推進委員会報告:久保田理事
会員向けの学会参加に関するアンケート調査の分析結果が報告された。すべての学会員が積極的に学会活動を行うためには、研究や学会活動に対する職場の理解と個人的な要因への支援が必要であること、併せて参加しやすい学会の開催方法の検討が必要であることが示された。さらに、そのための方策が提案され、学会ホームページや産業衛生学雑誌等で会員に周知したいと報告された。
(6) その他の審議事項
COI確認手順について
役員の選任に関する規定の改定について
委員会新委員、部会新幹事の委嘱について
委員会委員の交代
新入会員について など
(7) その他の報告事項
各部会報告、各委員会報告、各担当理事報告などがあったが、その他として宮本理事から学会100周年記念事業への取組や住徳理事から事務所則改訂の動きなども報告された。
(8) 日本産業衛生学会 正会員状況
正会員合計8,233人(2021年3月30日現在)
(9) 理事長の選出〔臨時理事会〕
理事長への立候補者は森 晃爾理事1名であったことを確認し、森 晃爾理事は所信表明した。信任を協議し、新理事長は森 晃爾理事に決定した。森 晃爾理事は、その就任を承諾した(福島前総務担当理事)。
(10) 業務執行理事の選出
森理事長より、業務執行理事候補者が下記のように推薦され、本人の同意を得て信任された。
副理事長  :武林 亨
総務担当理事:堤 明純、森口次郎
経理担当理事:住徳松子、林 朝茂
以上
各県報告 広島県報告
テレワークと健康影響について

真鍋 憲幸
中国地方会広島県代表幹事
COVID-19の拡大で、私たちの生活は大きく変化しました。COVID-19 により亡くなった方や後遺症に苦しむ方、大きな損害を被った方もおられ、COVID-19 が今後どうなっていくのかはまだまだ見通せません。職域においても働き方への大きな変化があり、その一つがテレワークの加速です。産業保健分野としては今後様々な報告や研究がなされるものと思いますが、このコーナーでは一産業医として私が関わっている企業群で実施したテレワークアンケートの結果の一部を紹介してみたいと思います。
アンケートは今年4月に、製造業に勤務する日勤者約1万人(雇用形態は問わず)に対して実施しました。
1回目の緊急事態宣言中またはそれ以降でテレワークを実施(自身が経験)した割合は74%に上りました。
テレワーク勤務は出社勤務に比べて生産性が増したと感じた人は28%、下がったと感じた人は37%でした。
テレワークで発生した問題については下記のグラフのような項目が多くみられました。
(複数回答可)
こうしたアンケート結果より、PC 更新、サテライトオフィスの設置や自宅での通信環境改善支援などのインフラ整備に早い段階で着手をしたところ、その後の生産性が向上することも各種調査で確認できつつあります。
また、テレワーク勤務で時間外労働(残業)の変化については、増えた人が10%、減った人が28%、6割の人は変わらないと答えました。なお、会議や打ち合わせが増えた人は16%、減った人は43%に上りました。但し、自由記載での会議減少の理由は、業務効率化や標準化などのいわゆるポジティブな理由だけではなく、「会議をするツールが無かった」、「会議に呼ばれなくなった」などの記載もありました。(呼ばれなくなったこと自体は会議参加者を厳選したポジティブな結果である可能性もありますが、回答者本人がネガティブな捉え方をしている場合、決して生産性やエンゲージメントが上がるとは思えないので、こうした部分でもフォローの仕組みが必要であるとも感じています)
一方で、テレワークと健康状態については以下のような結果となりました。
テレワークで「身体」の健康状態に変化はありましたか?
(回答) 非常に改善した+改善した:21%、悪化した+非常に悪化した:20%
テレワークで「精神」の健康状態に変化はありましたか?
(回答) 非常に改善した+改善した:25%、悪化した+非常に悪化した:16%
更に詳しい質問として、テレワーク勤務中に運動や体操を実施したかについての回答は、「全くしていない」が64%を占めることもわかりました。また、テレワーク中は日常生活におけるコミュニケーションの量(時間や質)が悪化すると回答した人は、約30%に及びました。
上記の結果より、私がご支援をしている企業では従業員向けにデジタル媒体ではなく、あえて冊子を作成し、テレワークTipsとして「メンタル&ボディヘルス」と「オンラインミーティングのコツ」の2編を提供し情報提供と啓発を行っています。
感染拡大防止のために導入が加速したテレワークは、ある全国的なアンケートでも働く人の50%が経験済みという報告もあります。一方で多くの企業がテレワークの準備が不十分な状況でバタバタと導入した側面があるため、様々な健康影響も出てきているようです。今回は紙面の都合で詳細はご紹介できませんが、この度我々が実施したアンケート結果を予測モデルからの推定による機械学習で統計解析しましても、テレワークにおける生産性向上を果たすためには、コミュニケーションの頻度やタイミング、睡眠や食事、運動などの一定量の担保などいくつかの工夫が必要であることが示唆される結果となりました。
本来、テレワークや遠隔コミュニケーションシステムは、「働き方改革」のツールであり新型コロナの流行が無くても、遅かれ早かれ働く現場で広く用いられる仕組みであるとも考えられます。それがある意味では新型コロナのおかげで一気に広まったわけです。
結果としてテレワークの健康や生産性、エンゲージメントへの影響がわかりやすくなったとも言えます。
これを一種の好機と捉え、様々な検証を今後も多くの企業や研究機関が協力して進めていければいいなと感じています。
各県報告 岡山県報告
高尾 総司
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
疫学・衛生学分野
 ちょうど昨年、私も疑問に感じていたことについて、ひとつわかったことがありますので、共有したいと思います(ご存知の方にとっては、あらためて整理するほどのことでもないのかもしれませんが、認識に齟齬があればぜひご指摘ください)。似たような地方会行事として、「中国四国合同産業医衛生学会」と「中国地方会研究会」があります。これらの違いとして、前者においては部会活動として研修会などが予定され、一方で後者は担当する県の裁量による内容によって構成されるものであるということです。
 さて、本題の「岡山県における動向」ですが、新型コロナウイルス感染症の流行もあり、正直なところ、この1年間において地方会として位置づけられる活動は行えなかったと言わざるを得ないかもしれません。そこで、今後、地方会でも取り組んでいくとよいのではないかと考えられる取り組みについて紹介することにします。昨年の10月に、日本医師会認定産業医研修会を「配信」する試行を行いました。通信トラブル等にも備えるため、同じビルの別フロアの貸会議室間をZoomを用いて接続して、配信会場1、受信会場3というセッティングで行いました。この方式でも、受信会場におけるスクリーンの大きさや配信会場との双方向性の担保などいくつかの要件はあるのですが、現在では居宅における研修の要件整備も進んできたことから、この「ビュー会場形式」の実施は、それほど難しいものではなくなってきたといえるかもしれません。
 しかしながら、実際に実施してみれば、やはり1受信会場において、PCの音声を会場のアンプを経由してスピーカーにうまく接続することができないという失敗がありました。結局、PCのスピーカーから出力された「小音量」の音声を、マイクで拾って、会場スピーカーから流すという代替案で対処しましたが、ややというか、あまり聞き取りやすいとは言えない状況でした。原因が完全に解明できたわけではないのですが、会場のアンプには接続するマイク端子(PCのスピーカー出力をアンプのマイク接続箇所に入力する形となる)は、そもそも形状が普段見慣れないプロ仕様のXLR端子(通称キャノン端子)であり、PCに通常備えている3.5mmステレオミニ端子に変換するプラグはもちろん会場側が用意してくれましたが、どうやら「48Vのファンタム電源」供給の有無といった、もう少し、専門的な問題があり、おそらくこの「電源」問題でうまく機能しなかったものと思われます。
 ここからは私の推察ですが、PCのオーディオ端子は、マイクとスピーカーの両方の機能をカバーする4極端子となっています。これを3極マイクと3極スピーカーに分配して、PCから見た場合のスピーカー出力「だけ」を、会場アンプの音声入力に接続しなければならないところ、見た目が似ていたために、分配せずPCの4極端子と上記のXLR端子を直接接続してしまい、またファンタム電源が供給されていたことも問題の一つであったと思われます。自分で書いていても、なんのことかうまく伝えられているのか最後の方はやや自信もなくなってきましたが、今後、おそらく、みなさまにおかれましても、同時に配信・受信をする研修会も計画・実施されることだと思いますので、会場側との事前打ち合わせの際に、上記の内容をみていただくことで、当日慌てなくて済むようなら、何よりです。
各県報告 山口県報告
『新型コロナウイルスワクチン職域接種について個人の視点からみた活動報告』

鍋島 篤典
山口県産業医会 幹事
 新型コロナウイルスワクチンの職域接種実施(以下、ワクチン接種実施)についての活動報告をさせていただきます。最初に自己紹介ですが、平成21年に産業医科大学を卒業し、初期臨床研修を経て平成23年に産業医科大学大学院医学研究科生体適応系専攻博士課程(第二病理学教室)に進学をいたしました。その後、博士取得のため3年で大学院を早期修了し、平成26年から産業医の道へと進み、現在は嘱託産業医として県内・県外の複数の事業場を担当しております。5年ほど前に縁あって、山口県産業医会に入会し、日本産業衛生学会には昨年入会させて頂きました。
 本題のワクチン接種実施についての個人的な関りとしては、今年の6月上旬頃まで全くと言っていいほど興味がなく、ワクチンの種類や違いすらよく知らない程度の知識状態でした。そのような中、6月8日の職域接種申請開始に伴い担当するいくつかの事業場から相談があり、ワクチンについて調べ始めることとなりました。とはいえ、申請についての相談は数件あるものの、職域接種の条件である1,000人を一つの事業所で超える事はなく、すぐの申請は困難でした。
 では、1,000人未満の事業場が職域接種を希望した場合、どうすればよいでしょうか。関連会社や家族、下請けを集めて名簿を作るところから始めなければいけません。そのための事務負担は膨大なものです。実際、600名程度の事業場が、なんとか接種希望者をかき集めて2400名程度の名簿を作りましたが、取りまとめができたのが6月中旬頃で、実際の申請においては、その半数としていたようです。更に、50人未満の中小零細企業が職域接種を希望した場合、とりまとめは商工会議所、商工会等が主体とならざるを得ません。1人、2人をコツコツと集計する状態となるので膨大な事務負担がネックとなりますし、医療関係者や接種場所の確保などのハードルが非常に高く、実質的に困難で、混乱だけが拡がるように感じました。
 話は変わりますが、職域接種に最も必要なものとはなんでしょうか。ワクチン?情報?人脈?時間?資金?・・・上述の通り、当初は手元にほとんど何もありませんでした。そもそもワクチン接種実施に興味がなく、1年半前に福岡県から山口県に引っ越してきたばかりで人脈は限られ、仕事以外ほとんどが子育て(6ヶ月、1歳7か月)に追われているのが私の置かれた状況でした。そのような中、6月下旬頃から様々なところからワクチン接種に関する話を聞くこととなりました。何もない状態から急転直下、情報を集め、人脈をたどり、あっという間に6月末を迎えました。そのような状態で色々な話が間に合うわけもなく、様々な方にご迷惑をおかけしながら今に至ります。
 なお、先日の事ではありますが山口県医師会と山口県産業医会とが連携し、職域接種に関する意見交換がなされる場に幹事として同席をさせていただきました。その際、県に職域接種サポートチームがある事を初めて知りました。
 以上、今回の経験を通じ、県内関係機関との連携体制を構築する事がとても大切な活動の一つである事を実感した次第です。今後ともご指導を賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。
各県報告 島根県報告
岩本 麻実子
日立金属(株)安来工場 健康管理室
今年度より、中国地方会の島根県代議員となりました。私自身は専属産業医として10年近く実務に明け暮れ、アカデミックな場からやや離れていましたので、代表幹事という立場は大変恐縮に存じますが、できる限り尽力致しますので、ご指導ご鞭撻の程何卒よろしくお願い申し上げます。
 さて、島根県内では2021年7月8日時点の新型コロナウイルスの感染者数は560名、死者数は2名と報告されています。そのうち県東部の松江市(255名、うち寮生活での1つのクラスターによる感染者が100名以上)と出雲市(90名)の2市で62%を占め、その他で目立つのは接待を伴う飲食店でのクラスター、感染拡大地域との往来(仕事・観光・帰省等)による散発的な感染者が多くなっており、市中感染は見られていないように思われます。車通勤・車移動が多い等、フィジカルディスタンスが取りやすい環境が寄与しているのかもしれません。
 私が産業医活動をする中で衛生教育を行う機会が多くあり、“労働衛生の3管理”の考え方は様々な分野に応用でき、医学用語に慣れていない職場でも理解してもらいやすいと実感しています。新型コロナウイルスとの戦いは、「目には見えない敵との戦い」と表現されることがありますが、職場での有害物質との戦いも同様に「目には見えない敵との戦い」であることが多いです。有害物質を新型コロナウイルス自体に置き換えて、新型コロナ感染症対策を“労働衛生の3管理”を軸に整理すると本質的な理解につながると考え、下図のようにまとめてみました。
「労働衛生の3管理」では、①作業環境管理⇒②作業管理⇒③健康管理の優先順位で対策を行い、組み合わせます。
作業環境管理(職場に新型コロナウイルスを持ち込ませない・広げない)
職場: 人が集まる必要がある場合は3密(密閉・密集・密接)を避け、0密を目指す
在宅勤務・テレワークの促進
感染者や体調不良者が仕事を休める職場づくり
感染拡大地域への出張を極力減らす
個人: 感染拡大地域との往来を極力減らす
感染対策が不十分な飲食店の利用を控えるなど、日常生活でも3密を避けて行動する
飛沫拡散防止のためのマスク着用
ワクチン接種者の増加による集団免疫
作業管理(感染経路の遮断)
飛沫対策としてユニバーサルマスク
接触感染としてこまめな手洗い・手指消毒
マスク・眼鏡(目、鼻、口の保護)は保護具の位置づけ
健康管理(早期発見、重症化予防)
検温、症状管理
ワクチン接種による感染リスクの低減・重症化予防
 身近な新型コロナ感染症対策である検温やマスク着用はもちろん重要ですが、もし作業環境管理が不十分であれば、作業管理と健康管理に大きな力を注いでも、効果が限定的であることがよくわかるはずです。職場教育を徹底し、職場に新型コロナウイルスを持ち込ませない(職員に感染リスクの高い行動を控えてもらう)、またワクチン接種により集団免疫を作ることが最も重要な新型コロナ感染症対策の第一歩と考えています。
 一方で、新型コロナウイルスは職場で扱う有害物質と異なる特徴を持っています。潜伏期間、症状にばらつきがあり、変異を繰り返し感染力を増していくものもあります。人間が移動する以上は、作業環境中のウイルス量を常に0にすることは不可能です。例えば、感染拡大地域の往来2週間後にとても軽い症状で発症し、出勤してしまう可能性もあります。作業管理で他の職員間の感染リスクを低下させ、健康管理で早期発見し受診につなげ、感染拡大を最小限に食い止める必要があります。
 歴史を振り返ると、インフルエンザやSRASなど数年から数十年ごとに世界的なウイルス感染の大流行が繰り返されています。新型コロナウイルスに対する集団免疫確保後も、ウイルス感染に強い職場作りのため、継続した取り組みが必要です。
 最後になりましたが、第4回日本産業衛生学会中国地方会研究会が来る9月23日島根県松江市で開催されます。新型コロナウイスの感染拡大以来、テレワーク、オンライン会議等の新たな働き方が一気に推進しました。そこで『テレワーク時代 産業保健にできること』をテーマとし日常業務に役立つ研修を予定しています。感染対策を実施しながら行いますので、ぜひ多くの会員の皆様にご参加いただきたく存じます。活発で有意義な会になるよう期待しております。
各県報告 鳥取県報告
新型コロナウイルス感染症と熱中症

大谷眞二
鳥取大学 国際乾燥地研究教育機構
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、1年半以上経過した2021年7月13日現在、世界の感染者数は1億8千万人、死亡者は400万人を超えました。そして、感染終息が見込めないまま2度目の夏を迎えようとしています。
一方、近年の暑熱環境の悪化により熱中症の発生数、死亡者数とも増加傾向にあります。昨年、2020年の夏、とくに8月になってから猛暑が続き、多くの人が感染を心配ながら熱中症対策を行うことになったことは記憶に新しいかと思います。夏を迎える前には、マスクの着用や換気のための室温上昇によって、熱中症のリスクが上昇すると言われていましたが、実際はどうだったでしょうか。
 今のところ、この問題を検証した報告や研究は多くなく、2021年6月の時点で公開されている論文はひとつだけです(Hatakeyama et al., 2021)。気象条件などを調整してCOVID-19流行下の2020年と流行前の4年間の熱中症による救急搬送数を比較したこの研究では、ほとんどの都道府県でパンデミック下の搬送リスクが低下していたことが指摘されています。“Stay Home”政策やイベントの中止によって屋外での活動が減少したことが背景にあると考えられています。
 しかし、すべての熱中症のリスクが低くなったわけではありません。人口あたりの熱中症搬送数が多く、かつ、COVID-19感染者数が全国最小の鳥取県のデータを用いた私どもの解析では、住居での搬送割合は36.9%とそれまでの3年間の28.3%より高くなっていました。また、搬送患者全体のうち後期高齢者が占める割合は実に47.7%を占め、それまでの3年間(39.0%)を大きく上回っていました。熱中症全体のリスクは低下したものの、高齢者や住居内での熱中症リスクは相対的に高くなっていた可能性があります。
 パンデミックの長期化による“コロナ疲れ”やワクチン接種の開始により感染対策が緩み、多くの人が昨夏より活動的になっています。そのため、昨年の傾向がこの夏も当てはまるとは限りません。いずれによせ、今年も、暑い夏も予測されており、当面は感染と熱中症の両方の対策を続けていく必要があります。
編集後記
日本産業衛生学会中国地方会 会長
神田 秀幸
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科公衆衛生学
 昨年から続くCOVID-19の流行により、東京オリンピックは、ほとんどの会場で無観客となりました。世界的パンデミックから1年5ヶ月以上が経ちましたが、未だ収束の見通しがつかず、さらなる脅威として変異株の動向が注視されるところです。また、全国各地で避難を伴う豪雨や雨で緩んだ土地の土砂災害の発生、さらに今年も酷暑が予想されるなど、天災も私たちの生活を直撃しています。予測のつかない事態が次々と起こる時代となりました。
 当地方会では、2021年度の役員改選後、新体制での初めての地方会ニュースレターの発行となりました。お忙しいところ、多くの執筆者の皆様方からご寄稿頂き、産業保健のトピックスや各県の取組み・動向などを盛り込んだ紙面で構成することができました。ご執筆頂きましたことに感謝申し上げます。また、ここまでお読み頂いた読者の皆様にも御礼申し上げます。
 先が見通せない時期だからこそ、皆様方からの知恵や経験を結集し、この難局を乗り越えることができるのではないかと思われます。ご承知のように、産業保健は働く人の健康や命を守るミッションがあります。中国地方会は、このミッションを達成できるように、意見交換や情報発信がしやすい環境作りを目指したいと思います。
 ニュースレターは、書き手も読み手にも役に立つ情報発信の場として、これから一層活用していただければ幸いです。変化に対応できるトピックスや時代が変わろうと取組むべき根幹となる考え方など、身近なよりどころとなる地方会の広報として、これからも充実を図っていきたいと思います。
 どうぞご安全に!