日本産業衛生学会 中国地方会
地方会ニュース 第38号(令和4年1月)
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“職場における化学物質管理の方法の変更”に関連して

真鍋 憲幸
産業医部会副会長
広島県幹事
厚生労働省は昨年(令和3年)7月に「化学物質規制の見直しについて」として、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」の報告書を発表しました。このHPの読者の先生方には改めてのご説明は不要と存じますが、法令規制対象外の物質が引き起こす労働災害が頻発している課題を解決するため、令和元年9月から厚労省が「職場における化学物質等の管理のあり方」検討会を設置し議論を重ねてきたものです。今後、速やかに関係法令の改正を行う方針とされています。
これまでの関連法の改廃は、「事故の再発防止型の後追い構造」であり、結果として極めて複雑な形になっているので、根本的な法体系の構造改革は時代の要請でもありました。今後の法改正でどの程度まで整備されるかはわかりませんし、以下の例えはむしろ改正のメインターゲットの部分ではありませんが、例えば健診一つとっても、一つの化学物質が「有規則と特化則の両方の縛り」を受け、加えて「安衛則第45条の特定業務従事者健診の規制」も受け、ついでに「安衛法第66条の酸取扱い者の歯科健康診断の括りも受ける」というようなことも決して稀ではありません。一つ一つの条文の要求は理に適っていても、それが統合的にまとまっていないので、嘱託産業医の先生はもとより健診業者のような専門機関にとっても神経衰弱みたいになっている状態でした。それをヌケモレなくやっている日本の企業ってすごいなぁと思いつつ、「こんなことに時間をかけていたら国際競争力は発揮できないんじゃないか?」と筆者も個人的に感じていたところです。
さて、詳しい話は実際に法律が変わってから丁寧に関係者で紐解いていくこととして、現下では「こんな感じで変わりそう」というアタマ出しが以下のように発信されていますのでご紹介します。
【基本的な考え方】
労働者のばく露防止対策等を定めた化学物質規制体系を、化学物質ごとの個別具体的な法令による規制から「自律的な管理」に見直す。
具体的には
ばく露濃度等の管理基準を定め、危険性・有害性に関する情報伝達の仕組みを整備する
事業者はその情報に基づいて自らリスクアセスメントとばく露防止措置を選択して行う
【化学物質の自律的な管理のための実施体制の確立を具体的に条文内で示す】
ラベル表示・安全データシート(SDS)交付義務対象物質を現在の約700種類から約2,900物質に増やす
ラベル表示等を義務づける物質のうち、国がばく露限界値(労働者がばく露する濃度の上限値)を定める物質は、その濃度以下で管理することを義務づける
全ての事業場に対し、化学物質管理者の選任義務づけ、職長教育・雇い入れ時と作業内容変更時に教育を行う対象業種を拡大する
【危険有害性情報の伝達強化】
SDSの内容充実(推奨用途と使用制限の項目追加等)と定期的な更新を義務づける
事業場内で他の容器に移し替えるときのラベル表示等を義務づける
一方で、上記の条件の具体的要求事項を満たせば、「特化則」の規制等は柔軟的になるようです。
【特定化学物質障害予防規則等に基づく個別の規制の柔軟化】
特定化学物質等に関する健康診断を、一定の要件を満たす場合に緩和する
なお、他にも以下のようなことが変更されます。
化学物質の高濃度ばく露作業環境下でのばく露防止措置を強化する
がん等の遅発性疾病に関する対策の強化
つまりは、「危険性・有害性が確認された全ての物質に対して、国が定める管理基準の達成を求める。但し達成のための手段は限定しない方式に大きく転換する」ということになります。
さて、ところで、これで実際の企業現場、産業保健や安全衛生の担当者、また嘱託産業医の先生方が「法律の構造が変わってスッキリした!管理しやすくなった!」と実感できるようになるにはきっとしばらく時間がかかるだろうなとも思っています。
ただ、もちろん法律が無限に増改築を繰り返す現状よりはきっとよくなるとも確信しています。
当中国地方会を含め産業衛生学会や私達のような産業保健を主たる業務にしているメンバーが、行政と協力しながら「本当にわかりやすい形」で「具体的に」、現場に伝えていかないといけないのだろうな、それが一番大切だなと思っています。
ある本によると、「伝える」と「伝わる」は全く別物とあります。キャッチボールにたとえるなら、「伝える」は自分がボールを投げた状態。「伝わる」は相手がボールをキャッチした状態とのことだそうです。確かに普段の自分の業務を振り返っても「伝わったな」と確信が持てないことに関しては齟齬が発生することが多いように思います。
いわば今回の法改正は「フルモデルチェンジ」のようですので、しっかり勉強して「伝わるように」表現していかないといけないなと思っています。
第65回中国四国合同産業衛生学会についてのご報告
第65回中国四国合同産業衛生学会についてのご報告

第65回中国四国合同産業衛生学会 学会長
平尾 智広
香川大学 医学部 公衆衛生学 教授
   中国地方会の皆様、第65回中国四国合同産業衛生学会を担当させていただいた香川大学の平尾です。去る令和3年11月20日~21日に今年度の学会を開催いたしました。今回の学会は当地方会としては初めてのオンライン開催であり、従来とは異なることが多々ございました。それにも関わらず100名の方のご参加をいただき無事終えることができました。皆様方の御協力に感謝申し上げます。学会が行われた11月下旬は、国内における新型コロナウイルス感染症の流行も落ち着いており、対面での開催も可能であったと思われます。しかし準備を行っていた8~9月頃の流行状況から、完全オンライン開催とさせていただきました。ご不便をおかけした皆様にはお詫びを申し上げます。
 さて学会の内容ですが、初日の部会研修会では、例年通り4部会から研修会を提供していただきました。すべてオンラインでの研修会となりましたが、各部会の先生方のご尽力で大変スムーズに運ぶことができました。内容も大変濃いもので参加者からも高い評価を受けております。また同時に開催した産業医講習会(医師部会、産業衛生技術部会)では対面受講が必須となっていることから、特別に聴講室を設けさせていただきました。オンラインを駆使した講習会の運営でしたが、各部会の先生方のご協力でこちらも大変スムーズに進めることができました。
 2日目午前は一般演題の発表でした。登録演題数は8題でしたが、それぞれの発表に十分な時間をかけて討議をすることができました。また午後の特別講演では、国際医療福祉大学の和田耕治先生より、新型コロナウィルス感染症の最新の知見及び職域での諸問題についてご講演をいただきました。また香川大学医学部の宮武伸行先生からは、事業所における具体的な新型コロナウィルス感染症対策の取り組み及びその課題についてわかりやすくご解説いただきました。
 今回の学会は完全オンライン開催となったわけですが、その他にも可能な限りのペーパーレス及び電子化を進めて参りました。今後も対面オンラインの併用形式の学会が続くと思われます。第65回地方会の経験が、次年度以降のスムーズな開催の一助となれば幸甚です。
第4回日本産業衛生学会中国地方会研究会のご報告
第4回日本産業衛生学会中国地方会研究会報告

落合 のり子
島根県立大学
 第4回中国地方会研究会は、当初2021年9月23日に対面とオンラインのハイブリッド形式で行う予定でしたが、Covid-19蔓延防止の観点から10月1日から10月31日までインターネットを経由するオンデマンド配信での開催となりました。中国地方会としては初めての試みでしたが、54名の参加者があり、今後の研修方法を考えるよい機会となりました。研究会の参加者と運営にご協力いただいた皆様に心から感謝申し上げます。
 今回の研究会では、「テレワーク時代 産業保健にできること」をテーマに、3つの研修を配信しました。研修1・研修2では、岡山大学の高尾総司先生に「リモートワークの産業保健活動の最新状況」と「テレワー下における健康管理」についてご講演いただきました。コロナ禍のなかにもかかわらず、タイムリーで充実した内容を学ぶことができたと、大変好評でした。研修3は、私の「Covid-19産業看護職の実践活動から考えるこれからの産業保健」についての講演でした。長期化している感染症の仕事や生活への影響を幅広く捉え、課題や対策を検討する必要性について情報共有することができました。
 研修方法には、動画配信サービス「vimeo(ビメオ)」を使用しました。動画視聴用URLと閲覧用パスワード、研修資料ダウンロードURLを参加者に事前連絡し、参加者は自分で手元資料を見ながら、職場や自宅で視聴する形式を取りました。視聴方法の案内資料は、E-mail添付と郵送で確実に届くようにし、参加証明書と領収書は郵送しました。動画視聴に関するトラブルに対応するため、問い合わせ窓口も設定しましたが、特に混乱もなく、順調に視聴されたものと思われます。参加者からは、音声も聞き取りやすく、資料もわかりやすかったと好評でした。ただ、オンデマンドだと、どうしても視聴が先延ばしになり、最終日直前の駆け込み視聴が多かったようです。
 オンデマンド研修は、研修受講のための移動の必要がなく、自分の都合に合わせて繰り返し視聴できるというメリットはあるものの、質疑応答や意見交換がリアルにはできないというデメリットもあるため、今後の課題と考えます。
 また、今回の研修方式では、これまで研修受講の制約であった移動時間や労力が省けるわけですが、オンラインに対応するハード面の環境整備と使い手の情報リテラシーの向上が必須となるでしょう。企画運営する側も慣れるまでは大変ですが、必要なところは業者に相談しながらサポートを受け、スキルアップを目指すしかないと思います。
 オンラインであっても、自由に意見交換したり、懇親会でリラックスして対話を楽しめるニューノーマルな時代が、目の前に来ているように感じています。
理事会報告
理事会報告

鎗田 圭一郎
鎗田労働衛生コンサルタント事務所
1.2021年度理事会開催日時
  第1回:4月10日 
臨時理事会:5月18日 
臨時理事会:7月15日(理事会決議の省略による) 
第2回:7月17日 
第3回:10月31日 
*いずれもZOOMを使用のWEB会議
2.これまでの主な審議・報告事項
(1)学会・全国協議会について
第94回日本産業衛生学会報告:参加登録は3,904名(内現地参加約400名)

第95回日本産業衛生学会準備状況報告:高知県立県民文化ホール等を会場として、会場およびライブ配信は2022年5月25日(水)~5月28日(土)、オンデマンド配信期間は2022年6月16日(木)~6月30日(木)を予定、HPが開設されている。

第96回日本産業衛生学会準備状況報告:関東地方会が担当、ハイブリッド開催を検討した結果、現地会場は宇都宮コンベンションホールで開催される。
第31回全国協議会準備状況報告:三重県総合文化センター(三重県津市)を会場として現地開催及びライブ配信は2021年12月3日(金)~12月5日(日)、オンデマンド配信期間は2021年12月3日(金)~2022年1月10日(月)、HPに日程等掲載されている。
第32回全国協議会準備状況報告:2022年9月29日(木)~10月1日(土)まで札幌で開催される。
第97回日本産業衛生学会について中国地方会が担当することとなり、会場や方法等は今後学会本部と地方会で協議することとなった。
(2)学会・全国協議会の開催方法について
   全国協議会・年次学会ともこれまでどおり全地方会輪番制で開催する。年次学会は、担当する地方会が地方会に近い5大都市(札幌、東京、名古屋、大阪、福岡)で開催することを原則とする。
(3)収支相償と遊休財産超過の対応について
   遊休財産保有額制限については、特定費用準備資金として積み立てることとし規定策定を行うこと・収支相償未充足については、公益事業の拡大により2021年度と2022年度でその解消を目指すこと・各会(地方会、部会、委員会)に対し内部留保の適性目安額を提示し、単年度での内部留保の大幅な増額を回避したいこと・各会における特定費用準備金の積み立ては原則認めないこと等が示されたが、地方会の内部留保増額の要因となっている地方会からの学会や全国協議会への助成は、本部助成額決定方法について検討しこの課題に対応すると、経理担当理事から報告された。
(4)今後の活動方針について
   理事会活動方針案として下記の5つの取組みについて個々の具体的な活動が説明された。
ア、 「学会の目的と基盤を前提とした取組み」:多職種連携により、すべての働く人に資する産業保健サービスの提供を推進する。
イ、 「会員の満足向上および自己実現、人材育成のための取組み」:より多くの会員が学会運営に参画し自己実現を図ることができる仕組みや、会員のニーズに応じた学会運営の改善を図る仕組み、人材育成の仕組みを強化する。
ウ、 「学会運営の有効性向上のための取組み」:学術関係委員会や研究会の活性化を通じて学術的価値の向上を図る。また、地方会、部会、研究会の活動を支援し、100周年ミッション重点活動を推進する。
エ、 「ステークホルダー等の連携による貢献基盤の強化の取組み」:厚生労働省、日本医師会、経済団体、労働組合、関連学会、アジアの産業衛生関連学会との連携を強化する。
オ、 「学会運営のリスクマネージメント改善の取組み」:新型コロナウイルス感染拡大で大きく変わった社会情勢を踏まえて、学会の財務状況を再検証し、安定的な学会運営体制を整える。全組織にわたって、学会運営、予算・有休財産管理、利益相反管理等に関するガバナンスを強化する。また、緊急事態発生時における迅速な意思決定の仕組みを構築する。
(5)会員向け調査について
   会員調査(案)が示され、年1回の実施やメールマガジンおよびHPなどで呼びかけURLやQRコードから調査票に誘導して回答を得ること、調査項目を10問以内として初回は100周年ミッションやウイズコロナ時代の学会参加などのテーマを追加することなどで合意された。
(6)その他の審議事項等
   ・倫理審査委員会既定の改定ついて・学会が実施する研究の倫理審査について・委員会委員の交代と追加について・賛助会員に関する細則について、などが審議された。
 監事から奨励賞候補者の推薦が少ないこと、人材が居るにも関わらず候補者が少ないことに対し、これまで学会長候補に挙がったものの受賞できなかった方などの推薦も再検討すべきとの指摘があった。
(7)会員の状況:正会員数8,459人(2021年10月19日現在)
   
2021年11月13日
部会報告 産業医部会報告
産業医部会報告

部会長 奥田 昌之
 コロナ禍では、これまでとは異なる視点での産業保健活動に目を向けることになりました。先日令和3年12月3日からハイブリッド形式で開催された第31回全国協議会(津市)でも、職場での感染予防対策、在宅勤務や活動制限、通常業務制限の中での健康診断や衛生管理の在り方、集団でのワクチン接種、感染後の職場復帰などの話題が報告されました。産業医の活動も新たな方向を模索する時代になっていると感じます。コロナ禍と関係なく、あるいは少しは影響があったのかもしれませんが、専属産業医の地理的な要件が緩和(廃止)され(基安労発第331002号、基発第331005号 令和03年03月31日)、情報通信機器を用いた労働衛生管理活動の幅も広がっています(基発0331第4号 令和3年3月31日)。遠隔地に赴く負担が軽減された一方、情報通信機器の利用で会議の出席、衛生教育、健康相談への対応を、忙しさを理由に言い訳しにくくなるのかもしれません。
 コロナ禍で、中国地方会産業医部会主催の令和2年度研修会の活動はありませんでした。令和3年度は真鍋憲幸先生のご尽力で第65回中国・四国合同産業衛生学会に合わせて11月20日(土)にオンライン形式で研修会を開催することができました。大村大輔講師(三菱ケミカル株式会社)から「産業保健データとAI―ピープルアナリティクスの視点」の講演いただきました。機械学習を用いた解析により、生産性に寄与するテレワークでの働き方の要因を示され、解析方法や新しい概念に参加者は刺激を受けました。
 中国地方会産業医部会は地方会の組織であります。学会の産業医部会の幹事には真鍋憲幸先生と私、奥田が拝命し、幹事会に参加しています。学会産業医部会の事業は、全国協議会の開催、産業医制度、産業医活動、専門医制度に関すること、部会報の発行などがあります。産業医活動に関しては、この12月1日に施行となった事業所衛生基準規則の改正にあたって救急用具の規定は不要であるという意見を、学会を通して具申しました(基発1201第1号 令和3年12月1日)。細部項目に意見が反映されていると思います。第31回全国協議会では産業医部会自由集会が原俊之先生(北海道)、石川浩二先生(東海)を中心に企画され、産業医以外の資格について話題が提供されました。話はそれますが、自由集会のため学会企画運営と講師依頼方法などに手間取ったということでした。
 この全国協議会には、中国地方の会員からの発表もありました。しかし中国地方の学術活動は低調な感じを受けます。地方会産業医部会では先日お伝えしました通り、50歳未満の会員の学会発表を支援することとしました。演題発表者にご活用いただければ幸いです。第95回日本産業衛生学会(高知;2022年5月25~28日)では、学会医部会提案のシンポジウムが5月26日に企画されています。開催地が中国地方のお隣ですので、一般演題の発表の登録はもちろん、COVID-19流行がなく高知でお会いできればと願っております。
部会報告 産業歯科部会報告
産業歯科部会報告

森田 学
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 予防歯科学分野
 中国地方会で歯科保健部会幹事の1名増員をお認めいただきました。本紙面を借りて、神田秀幸先生はじめ関係者の皆様に感謝します。いまのところ、部会員は計8名という小所帯(山口県、島根県の会員がいません)ですが、引き続き会員増に努めてまいります。
 さて、外出自粛が続き、報告できるような内容も少なくなった感がしますので、この1年、コロナ禍にまつわる歯科保健関連の話題をいくつか。
1)洗面所での歯磨きで集団感染
 2021年1月、東京都地下鉄で新型コロナウィルスの集団感染事例がありました。保健所から「職員が共同で利用する洗面所で、歯磨きの際の唾液が付着した手で蛇口を触れたことで感染が広まった可能性が高い」との指摘を受け、手で回すタイプの蛇口からセンサー式への切り替えが検討されたとのことです。“たかが歯磨き”ですが、朝と夜だけでなく、昼食後もやればそれだけの効果はあがります。職場で同僚のブラッシング行為を見ると、独りで頑張るよりもブラッシング行為が長続きするというエビデンスもあります。口腔衛生への関心が低下することにならなければよいのですが。
2)歯科診療の姿勢の変化
 フェイスシールドを着けての歯科診療には閉口しました。診療中、歯科診療台の照明装置や患者さんの顔にフェイスシールドの端がぶつかって、イライラは募り、かえって医療事故が増えるのではと危惧しました。慣れるのに数週間かかりました。反面、患者さんの口の中をのぞき込む体勢(不自然な体勢なのです)をとりにくくなったことから、診療中の姿勢がよくなりました。歯科医師が訴える疾病としてまず出てくるのは、「長時間、不自然な姿勢を続けたことによる腰痛」です。コロナ禍、良いことがわずかでもあったと思うようにしています。
3)マスク生活で増える患者、減る患者
 歯科矯正を希望する患者が増えています。ご存じの方も多いと思いますが、矯正治療では金属を歯の表面に長期間装着するため、見た目の問題から、子供たちには嫌がられます。ところが、「今がチャンス」とばかり、私の勤務する大学病院も若い患者さんで賑わっています。矯正治療中は、装置の着用で口腔が不潔になりやすく、むし歯リスクが高まります。矯正治療を開始された方が近くにおられましたら、フッ化物洗口液(薬局で処方箋なしで入手できます)の使用を勧めてください。
 一方、口臭を気にして来院する患者さんは少なくなりました。マスクをすると、呼気がこもるのですが、自分のにおいには鈍感なのです。しかし、マスク生活から解放されると、職場においても、周囲の人の口臭がとても気になる機会が増えるのではないかと思っています。

部会報告 産業看護部会報告
産業看護部会報告

産業看護部会幹事
落合 のり子
島根県立大学
 2021年11月20日、第65回中国四国合同産業衛生学会において産業看護部会世話会がZOOMで開催され、各県の産業看護研究会等の代表や産業看護部会幹事ら22名が参加しました。昨年はCovid-19により学会が中止となったため世話人会も開催できませんでしたが、今回はコロナ禍での研究会運営の工夫や研修方法について情報交換することができました。各県の産業看護研究会等とは、日本産業衛生学会とは別に各県で設立された任意団体であり、30年以上の歴史がある団体も多いです。産業看護部会では、各県の産業看護職の連携や交流を目的として代表者に集まっていただき、毎年、世話人会を開催しています。
 今回の世話人会で情報提供された各県研究会等の活動状況報告によると、この2年間で中国地方5県の研究会等の会員合計数は433名から371名に減少(14.3%減)しています。会員数が減少した4県の減少率は13.6~22.3%の開きはありますが、これまでにない減少傾向に驚きました。減少の理由としては、Covid-19の影響を受け、対面での研修会等が中止となり入会のメリットが感じられないことが影響しているように思えます。2021年になって、各県研究会等の努力によりWeb研修も増えてはいますが、Web環境整備が追い付かない中では受講したくてもできない場合もあります。また、役員からは、これまで以上に負担増加を懸念する声も聞かれ、会員数減少の中で役員を回すことの困難さも感じられました。
 研究会の会員が唯一増加したのは鳥取県であり、増加率は10.8%でした。活動状況の特徴として、コロナ対策に関連した研修を対面で継続していることと、新たに会員の実践報告会を始めたことが挙げられます。産業保健分野の看護職は一人職場も多いため、リアルな繋がりとタイムリーな情報収集に対するニーズが高いことが改めて印象に残りました。
 その一方で、日本産業衛生学会中国地方会の産業看護部会員数は、この2年間で81名から85名に増加(4.9%増)しています。各県の研究会等の会員数が減少する中で、これはどのようなことを意味するのでしょうか。これはあくまでも私見ですが、日本産業衛生学会では、いち早くCovid-19に対応した情報提供がホームページに掲載され、全国学会や全国協議会、各種研修会もWeb開催となるなど、会員がタイムリーに情報収集できたというメリットがあり、会員減少に至っていないように思います。そして、ポストコロナを見据えて、健康経営に積極的に取り組もうとする企業の産業看護職の入会も見られています。
 このように振り返ってみますと、中国地方会産業看護部会としては、各県の産業看護研究会等との連携を強め、研修や研究会運営に有用な情報提供を積極的に行う必要があると考えます。そのために、中国地方会のホームページをはじめメーリングリストを効果的に使うなど、情報活用に関する新たな取り組みを検討しています。
 今後とも、皆様のご理解とご協力をどうぞよろしくお願いいたします。
部会報告 産業衛生技術部会報告
2021年度活動報告
「産業衛生技術部会」中国地方会代表幹事
田口 豊郁
田口労働安全衛生コンサルタント事務所
川崎医療福祉大学 名誉教授
E-mail: taguchit@mw.kawasaki-m.ac.jp
(産業衛生技術部会ホームページhttp://jsoh-ohe.umin.jp
産業衛生技術部会について
 産業衛生技術部会では,作業環境管理(Working Environment Control),作業管理(Work Practice Management)を中心とした幅広い活動をしている産業衛生技術者が、その専門性をより高めていくための情報の収集と発信をしています.当部会の活動状況については随時,ホームページで紹介しています.当部会への入会は,日本産業衛生学会員ならばどなたでも可能です.日本産業衛生学会費以外の会費はかかりません.
1.2021年度活動報告
 昨年に引き続き,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に振り回された1年でした.
 2021年度は,以下の3学会の中で産業衛生技術部会の活動を行いました.
第94回日本産業衛生学会(松本)
   会場およびライブ配信:2021年5月18日~21日,
   オンデマンド配信:2021年5月24日~6月30日
第31回日本産業衛生学会全国協議会(三重県津)
   会場およびライブ配信:2021年12月3日~5日
   オンデマンド配信:2021年12月3日~2022年1月10日
第65回中国四国合同産業衛生学会(高松)
   ライブ配信:2021年11月20日~21日

1)  第94回日本産業衛生学会(松本)
(1) 産業衛生技術部会専門研修会:【テーマ】「感染防止のための室内換気/その予測・評価」
【題目】:①換気シミュレーターの開発,②シミュレーターを用いた実例,③換気におけるCO2と粒子の挙動,④室内CO2濃度推定値とCOVID-19感染リスクの相関――計4題.
(2) 産業衛生技術フォーラム:【テーマ】「環境中のウィルス飛散拡散予測とマスクの効果」,
【演題】:①スパコン「富岳」によるウイルス飛沫エアロゾル拡散シミュレーション,②一般的に用いられているマスクの防護性能,③環境中のウィルス飛散拡散予測とマスクの効果 マスクメーカーの知見――計3題.
   
2) 第31回日本産業衛生学会全国協議会(三重県津)
(1) 産業衛生技術部会シンポジウム :【テーマ】「テレワーク・在宅勤務における労働環境の問題と今後の課題」
【演題】:①コロナ禍に伴う在宅勤務における作業環境の諸問題の概要,②人間工学分野で現在扱われているWorking From Home(WFH)研究と社会実装の動向,③新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下におけるテレワーク・在宅勤務労働者の精神健康―文献レビューおよびオンラインコホート調査の結果より――計3題.
(2)

産業衛生技術部会 研修会 :【テーマ】「労働現場の安全衛生活動推進に関する連携と協働~現場が動く,現場を動かす,キーパーソンは衛生管理者~」
【演題】:①洗浄現場における洗浄方法見直しによる作業環境改善事例,②作業環境測定機関の測定現場における環境改善提案事例,③高濃度の三価クロムを曝露された労働者における腎機能障害――計3題.

   
3) 第65回中国四国合同産業衛生学会(高松)
(1) 産業衛生技術部会研修会 :【テーマ】「溶接ヒュームと塩基性酸化マンガンに係る法改正」
【講演1】「溶接ヒュームと塩基性酸化マンガンの測定と暴露環境改善」,高月克己((株)サンキョウ−エンビックス)
【講演2】「溶接ヒュームと塩基性酸化マンガンによる健康障害と予防」,森本泰夫(産医大)
――計2題.
編集後記
日本産業衛生学会中国地方会 会長
神田 秀幸
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科公衆衛生学
 COVID-19の感染拡大が一段落し、少しずつ人々の移動や社会活動が再開しつつあるところです。一方で、変異株(オミクロン株)が発生し、その感染流行の動向を注視する必要があります。感染症の流行で、社会は一変し、皆さんの働き方や生活が大きく変わった方がほとんどだろうと思います。社会活動の再開は、感染症流行前と同じでなく、新しい活動に形を変えて展開されるものであろうと思われます。オンライン会議やハイブリッド学会は、当たり前のスタイルとなりました。
 当地方会では、2021年度当学会中国地方会研究会を、島根県立大学落合のり子先生を会長としてオンライン(オンデマンド配信型)にて開催されました。また、その後行われた中国四国合同産業衛生学会は、香川大学平尾智広先生を学会長として2年ぶりに開催され、ハイブリッド学会(現地およびライブ配信)の試みを実践して頂きました。いずれも、対面学会と変わらない質の高い発表の数々で、私自身、大変勉強になった研究会・合同学会でありました。新たなスタイルでの研究会・合同学会を企画・運営頂きました沢山の先生方や関係の皆様のご尽力に、紙面を借りて厚く御礼申し上げます。
 本号は、研究会・合同学会のご報告や各部会の取組みを中心に盛り込んだ紙面で構成することができました。多くの執筆者の皆様方からご寄稿頂きましたことに感謝申し上げます。また、ここまでお読み頂いた読者の皆様にも御礼申し上げます。
 図らずもCOVID-19の感染拡大が招いた社会変化を、当中国地方会あるいは中国四国エリアで上手に活用し、当該地域の産業保健関係者の資質向上に有効に活用できる方策を探していきたいと考えております。
 今後とも、日本産業衛生学会および当地方会の企画運営に、ご指導ご鞭撻のほどをどうぞ宜しくお願い致します。