日本産業衛生学会 中国地方会
地方会ニュース 第41号(令和5年7月)
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日本産業衛生学会中国地方会の
産業医部会副部会長他に就任して考えたこと

UBE 株式会社 人事部 健康推進センター 
統括産業医
塩田 直樹
 皆さんこんにちは。この度、山口県代議員に選出して頂き、日本産業衛生学会中国地方会の産業医部会副部会長および日本産業衛生学会産業医部会の総務&総会副担当、日本産業衛生学会生涯教育委員会委員を拝命致しましたUBEの塩田と申します(旧知の方々からは学生時代のあだ名の“ごりさん”で呼んで頂いています)。
新たに役職を拝命させて頂いたものの、右も左も良く分からない中、各分野のレジェンドおよびエキスパートの先生方と共に平日の夜や土日に開催されるWeb会議へ参画し、頻繁にやり取りされるメール審議に加えて頂く等々、話題についていくのが精いっぱいの日々を過ごしておりました。そのような中、先日宇都宮で開催された第96回日本産業衛生学会に4年ぶりに現地で参加させて頂いたのですが、同じ景色でも、眺める場所や目線が変わるとこんなにも違ったものに見えて来るんだな~、と感じた今日この頃です。
最近『リスキリング:新しい事を学び、新しいスキルを身に着け実践し、そして新しい業務や職業に就く事(Google Booksより引用)』という言葉を目にしたり、耳にしたりすることが増えましたが、折角の機会ですので、今回のお役目を拝命した事で新たに見えてきた世界を通じて実現できると良いな~、と考えている事をご紹介させて頂ければ、と思います。

〇その➀(地域における多職種の繋がりを大切に!)
 山口県には、事業場に籍をおく医師、歯科医師が1955(S30)年1月に創立した山口県工場医会を前身とし、現山口大学医学部が山口県立医科大学だった時代に併設されていた産業医学研究所(所長、公衆衛生学野瀬善勝教授)と山口県医師会産業保険部会(担当理事、森重史郎氏)との御尽力により1968(S43)年2月に発展的に改称した山口県産業医会があります。今回、小職がⅡ期目の会長職を拝命する事となり、年3回開催の幹事会のうちの第2回幹事会に、山口労働局健康安全課 課長、山口大学大学院医学系研究科公衆衛生学・予防医学講座 教授、山口県歯科医師会 会長、山口県産業看護研究会 会長をお招きし、産業保健活動に携わる県内関係者間の顔つなぎと現状共有及び意見交換を行う地域の繋がりの機会を設けさせて頂く事としました。日本産業衛生学会は4部会(産業医部会、産業保健看護部会、産業衛生技術部会、産業歯科保健部会)で構成されていますが、残念な事に産業衛生技術部会(産業衛生分野における諸技術の向上、発展をはかることにより、産業衛生学の進歩に資することを目的)の地域の繋がりの仕組みが現時点ではありません。2022(R4)年5月31日に公布された労働安全衛生規則等の改正(新たな化学物質規制の制度の導入「化学物質の自律的管理」)を機に、当会がハブ機能を担い、県内の産業衛生技術部会の方々も含む地域における多職種の繋がりになるよう取り組んでいけたら良いな~、と考えております。

〇その➁(地域との繋がりを通じた専門性向上の仕組み作りを大切に!)
 ドナルド・E・スーパー(米国のキャリア研究家)は、キャリアとは人生を構成する一連の出来事、職業と人生の他の役割との連鎖、青年期から引退期に至る報酬、無報酬の一連の地位と定義しています。
 日本産業衛生学会には、常設委員会である生涯教育委員会や認定・専門医制度(1992年発足)、産業保健看護専門家制度(2015年発足)があります。また、生涯教育委員会は、広く産業保健活動に関わる専門職の生涯教育のあり方とその提供を目的に活動しており、その成果として、生涯教育の過程で習得すべき課題を16のステップ・104の研修目標にまとめた「産業保健専門職の為の生涯教育ガイド」(労研出版部)を2005年に出版し、自己研修をより効果的に進めるための視覚教材として「生涯教育ガイド」のそれぞれのステップに対応した具体的な良好実践事例(GPS:Good Practice Samples)を学会Hp上に提供しています。
 とはいえ、臨床系の専門医制度 (1962年以降に知識・技術面で優れた医師の育成を目的に各領域専門学会によって設立され、日本医学会加盟22学会による学会認定医制協議会(1981年発足)を経て、日本医師会・日本医学会・全国医学部長病院長会議の3社を社員とする一般社団法人日本専門医機構(2014年発足)に四病院団体協議会、日本がん治療認定医機構、19の基本領域の専門医制度委員会等が加わり2018年4月から新専門医制度開始) に比べるとまだまだ日は浅く、人財(インクルーシブ・リーダーシップを兼ね備えた育てる側含む)を育てる指導研修体制が全ての地域で同等に整っているとは言い難いのが現状である、と認識しています。
 「100年に1度の公衆衛生危機」と称された新型コロナの大流行は、地域と職域が切っても切れない関係性にある事を再確認する機会でもあったと思います。既に運用中の社会医学系専門医制度や、地域保健法の改正に伴い2023(R5)年4月1日より法定化されたIHEAT (Infectious diseases Health Emergency Assistance Team)の運用を通じ、人生100年時代や2030年に顕在化する少子高齢化による影響から生じる答えのない様々な課題に対し、行政や医療機関を含む分野ごとの専門職が孤立することなく繋がり、地域とともにwell-beingに取り組む仕組み作りへと繋がるよう、県内のみならず中国地方会の皆さんの顔が見える仕組み作りに取り組んでいけたら良いな~、と考えております。

〇その③(学び会いの場に参加し、一緒に楽しみませんか?!)
 インクルーシブ・リーダーシップを兼ね備えた人に効率的に会える場所、それが学会であり、僕自身が指導医に出会った場所も学会でした。この度、第97回の実行委員長を拝命し、真鍋企画運営委員長と共に下記3つの実現を目指し準備を進めています。
  ➀参加登録者数は4,500名を目標にしよう(数字の目標も大切)
  ➁参加者の満足感が高い学会になるよう、テーマを元に誠心誠意取り組もう
  ③準備に関わる全員が、「楽しかった」、「成長した」と思える学会にしよう
出来る限り多くの中国地方会の皆さんにもご参画頂き、皆で一緒に学会準備を進めていけたら良いな~、と思っています。下記QRからお声を寄せて頂ければ幸せます。
<ご意見募集フォームは左記>
<ご意見募集フォームは左記>
第96回日本産業衛生学会(宇都宮)の開催報告

第96回日本産業衛生学会開催報告 

千葉大学大学院医学研究院環境労働衛生学・教授
諏訪園 靖
第96回日本産業衛生学会は、2023年5月10日から、12日の3日間は現地・ウェブライブで、6月1日から6月26日までウェブオンデマンドで開催されました。新型コロナウイルス感染症の位置づけが、これまでの「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」から、令和5年5月8日「5類感染症」となり、対面でも開催できたことにほっとしているところです。現地会場は昨年開場したばかりの「ライトキューブ宇都宮」で、宇都宮駅から直結で徒歩約2分とアクセスが良く、各会場をこの施設にまとめることができました。オンライン・オンデマンド配信についても、スマートフォンアプリ・ウェブシステムで対応し、快適にご参加できたものと思います。学会テーマは「強くしなやかな産業保健をめざして」といたしました。以前ニュースレターで述べさせていただきましたが、多様な産業保健活動における課題に対応していく産業保健の強さとしなやかさについて検討を深めたいという思いでした。
特別講演は、ヘルシンキ大のKari Reijula先生より「Occupational health in Finland – services and training」、ILOの川上 剛先生より「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言 -産業保健における意義とグローバルな課題-」、日本医師会長の松本 吉郎先生より、「産業医と医師の働き方改革について~日本医師会の立場から~」としてご講演いただきました。そのほかメインシンポジウム3件、教育講演12題、シンポジウム20件、部会・委員会フォーラム5件、International Session、地域交流集会(市民公開講座)などが開催されました。一般演題はオンラインライブ発表が156演題、オンデマンド発表が275演題の計431演題でした。多くの会場で活発かつ有意義な発表とディスカッションがなされたものと思います。演者、座長の皆様には心より感謝いたします。また、共催セミナーには13社、企業展示65社、広告、寄付等には31社の企業の皆様にご協力をいただきました。たいへんありがたく思っております。そして、第96回学会の各委員会・事務局の皆様、理事会、関東地方会幹事会、そして会員の皆様のご協力により、学会が無事開催できたことを心より感謝いたします。そして来年第97回は広島国際会議場での開催ということで、テーマ、ポスター、ウェブサイトも公開され、今は企画運営委員長の真鍋先生、委員の神田先生をはじめ、多くの中国地方会の皆様が、プログラムの編成等準備においそがしいことと思います。学会への参加はもちろん、おいしい食事や素晴らしい風景などを心から楽しみにしております。第97回産業衛生学会の盛会を心より祈念しております。
第67回中国四国合同産業衛生学会(松山)のご案内
第67回中国四国合同産業衛生学会のご案内

第67回中国四国合同産業衛生学会長
三宅 吉博
愛媛大学大学院医学系研究科疫学・公衆衛生学講座
 盛夏の候、皆様におかれましてはますますご清栄のことと拝察申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 第67回中国四国合同産業衛生学会を愛媛県松山市で開催させて頂くことになりましたので、ご報告申し上げます。
 会期は令和5年12月2日(土)、12月3日(日)の二日間、愛媛大学城北キャンパスにて開催致します。メインテーマとしまして、「すべての就業者に産業保健を届ける」と致しました。いろいろと至らぬ点が生じるかと思いますが、学術的に意義のある学会となるよう誠心誠意準備をしたいと考えております。
 愛媛労働局の労働衛生指導医として、毎年数カ所の事業場を訪問していますが、産業保健のレベルは極限の格差があると痛感しております。両立支援どころか、産業保健の第一歩も踏み出していない小規模・中規模事業場は山のように存在するのではないでしょうか。一方で、真の健康経営を体現すべく、先進的な産業保健を実践している企業もございます。今一度、産業保健の基本を見つめ直すべきと考えています。このような観点で、特別講演を2演題設定しております。お一人は長年愛媛労働局及び県下の労働基準監督署で安全衛生業務に従事され、令和3年度労働基準部健康安全課長を最後に定年退職され、現在、労働安全衛生コンサルタント事務所を経営されている岸田建夫氏に「ウイズコロナ時代の産業医、産業保健師等の役割について」と題してご講演いただきます。もうお一人はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の院長で、株式会社 産業医の代表取締役である尾林誉史氏に「産業医だからできること、産業医としてすべきこと」と題してご講演いただきます。
 一般演題につきまして、皆様の日頃の産業保健活動やご研究の成果をご発表頂き、熱心なディスカッションが展開されることを期待しております。是非とも、一般演題を多数応募頂きますよう、心よりお願い申し上げます。
 日本医師会認定産業医制度指定研修会として複数の単位を取得できるよう、準備しております。日頃の業務でお忙しいことと存じますが、是非、産業医、産業保健師、産業看護師など産業保健に従事している皆様におかれましては、松山にお越し頂きますよう、何卒、よろしくお願い申し上げます。
トピックス(第97回日本産業衛生学会(広島) 準備状況について)
第97回日本産業衛生学会(広島) 準備状況について

企画運営委員長 真鍋 憲幸
三菱ケミカルグループ株式会社
 中国地方会の皆様、大変お世話になっております。この度、第97回日本産業衛生学会の企画運営委員長を拝命した真鍋です。皆様には、本ニュースレター第39号(昨年7月号)で初報としてご報告させて頂き、また、本年6月9日に、メールにて中国地方会長の神田先生からご連絡頂いたものと一部重複いたしますが、改めて準備状況につきご報告をさせて頂きます。
【HP 開設】 第97 回日本産業衛生学会として、5/17 にHP を開設いたしました。
  https://convention.jtbcom.co.jp/sanei97/index.html
【会  期】 2024 年5 月22 日(水)~ 25 日(土)
※ 5 月26 日(日):産業医研修会実施予定
【テ ー マ】 変革期における 産業保健のアイデンティティ 
 -サイエンスに基づく組織と労働者の両立支援-
 企画運営委員会の想いを上記HP の「ご挨拶」として掲載させて頂きました。どうかご高覧頂き皆様にも共感を頂けましたら幸いです。
【会場準備】  広島国際会議場・中国新聞ビル
 平和公園ゾーンの中心に立地する広島国際会議場と、そこから旧太田川( 本川) を挟んで隣接する中国新聞本社ビルを用い、十分なスペースと必要な設備を確保して臨みます。中国新聞社様からは多大なるご支援を頂く事になりました。なお、ハイブリッドとして開催しますが、どのような仕組みにするかの詳細はこれから検討して参ります。
【事務局】  岡山大学医学部公衆衛生学教室内
 中国地方会事務局でもある岡山大学公衆衛生学教室に設置させて頂く事となりました。神田会長及び岡山大学の皆様に改めて御礼申し上げます。
【運営事務局】 株式会社JTB コミュニケーションデザイン
事業共創部 コンベンション第二事業局
【プログラム準備】  
 私たちは企画運営委員会という合議制の体制のもと、プログラム委員会と実行委員会という2つのオペレーション組織をつくり準備を進めることとしました。4月17日に第1回プログラム委員会を開催し、また、実行委員会の各セクションも活動を開始いたしました。コロナ禍を経て、オンラインやハイブリッドでの学会が定着しつつありますが、現地で顔と顔を合わせた熱量を交歓しあう議論、交流も学会の本来の良さと考え、少しでも多くの会員の皆様に現地にお越しいただけるよう様々な企画を2つの委員会が一丸となり議論しております。また、ダイバーシティ推進の観点から、女性演者や座長の積極的な登用や、企画そのものも公募で募ることにいたしました。企画公募につきましては、7/21を締め切りとしておりますが、上記HPから広くエントリーをして頂けます。様々な職種、立場、キャリアの方が、この学会に来ていただけることでそのアイデンティティを見つめ、新しい知見や協働の契機となる事のお手伝いができるように努めて参ります。
【広報及びコミュニケーション】
 上記の公式ウェブサイトの他、今後、SNS、電子メールなどを通じた広報活動も進行する予定です。また、学会に参加下さる皆さまの声をできるだけ反映したいと考えています。例えば、「会場内に打ち合わせスペースがほしい」「懇親会でお好み焼きの食べ比べがしたい」等、おもてなしの企画や仕掛け等について、どんな些細なご提案でも歓迎いたしますので、下記QRコードよりご意見をお寄せいただければ幸いです。(ホームページにもリンクを設置する予定です。)

中国地方会の皆様には、今後、様々な局面でご支援とご指導を頂くことが多いと思います。本ニュースレターでトップページの寄稿をされている実行委員長の塩田先生、また、プログラム委員長の広島大学公衆衛生学教授 久保先生ととも関係者一同で力を合わせて取り組んで参りますので、どうぞよろしくお願い申しあげます。
理事会報告
理事会(2022年度第4回及び2023年度第1回)報告

岡山大学学術研究院医歯薬学域公衆衛生学
神田 秀幸
1.2022年度および2023年度理事会開催日 *いずれも対面会議 2022年度第4回:2022年12月24日、2023年度第1回:2023年4月9日
2.これまでの主な審議・報告事項
(1) 学会・全国協議会について
第95回日本産業衛生学会(高知)報告:決算報告により黒字決算となったことが報告された。
第96回日本産業衛生学会(宇都宮)準備状況報告:宇都宮コンベンションホールを会場として開催される予定である。
第97回日本産業衛生学会(広島)準備状況報告:中国地方会が担当することとなった。
今後の学会開催地:第98 回東北、第99 回近畿、第100 回九州の開催見通しである。
第32回全国協議会(札幌)報告:決算報告により黒字決算となったことが報告された。
第33回全国協議会(山梨)準備状況報告:2023年10月27日金曜-29日日曜、山梨県民ホールにて開催予定である。
第34回全国協議会(木更津)準備状況報告:2024年10月3日木曜-5日土曜の開催日程が報告された。
今後の協議会開催地:第35回四国、第36回(2026年)中国の開催見通しである。
(2) 代議員選挙に関する規定等の改訂
 代議員の定数の定義が現在の規程では分かりにくく、「地方会ごとに選挙権を有する正会員概ね10人に1人の割合にする」という提案が中央選挙管理委員会からなされた。性急な決定をせず、2022年度第4回理事会では中央選挙管理委員会へ審議差し戻しとなった。2023年度第1回理事会で再度同様の提案がなされ、次回選挙より適用されることとなった。
 2022 年の選挙投票率が報告され、中国地方会は代議員選挙22.1%とワースト2であった(北海道に次ぐ)。代議員を対象とした本部理事選挙では81.3%であり、ワースト3であった(四国、東海に次ぐ)。
(3) 専門医制度に関する細則の改定について
 専門医制度委員会より専門医の受験資格および登録更新の改定について提案があった。受験資格として、JOHまたは「EOHP」に第一著者として1論文以上の実績があることとなった。また更新要件として、「全国協議会に5年間で2回以上出席し、かつ」協議会の企画運営、講師等の実績が1回以上あることと改定が提案され理事会として改定が承認された。
(4) その他の審議事項等
産業保健看護部会への名称変更・AMED研究班の検討について・国際交流事業について・委員会委員の交代と追加について・研究会規則細則についてなどが審議された。
(5) 会員の状況:正会員数8,494人(2023 年4月9日現在)            以上
各県報告 広島県報告


マツダ株式会社 安全健康推進センター
山下 潤
 今年度から広島県の代表幹事を拝受することになりました。最初に自己紹介をさせてもらいますと、平成19年に産業医科大学を卒業し2年の初期研修を経て産業生態科学研究所人間工学教室に所属しております。その後は1年間を島根県の製鉄会社に産業医としてお世話になり、広島に戻ってきてマツダ㈱で専属産業医として業務を行っています。マツダ㈱では専門を生かし、繰り返し作業による作業関連性疾患予防担当を中心に活動を行ってきました。1企業の専属産業医としての経験に特化しており視野の狭い身ではありますが、そういった立場ならではの観点から地域の産業保健に貢献していきたいと考えておりますので、ご指導のほどよろしくお願いいたします。
 さて、今年5月、第14次労働災害防止計画が新たに策定されました。そこでは前回に引き続き高年齢労働者の労働災害防止対策の推進が掲げられており、その対策が求められています。マツダ(株)でも、同様の観点から負荷評価・負荷軽減の取り組みを中心とした作業関連性疾患低減の対策を進めています。ただ、負荷評価方法等については業種や作業内容によって大きく変化する部分だと思いますので、今回は少し視点を変えて情報共有の観点から行った対策について紹介したいと思います。
 1つ目は疾病発生時の記録の定型化です。マツダ㈱では職場で疾病が発生し、その発生と作業に関連性が疑われた場合、発生職場の管理者主体で傷病報告書と呼ばれる社内資料が発行されます。その中でも判断が難しいケースでは産業医が主体となって職場からの傷病報告書・作業負荷評価表等を基に、職場巡視、産業医面談を通じて傷病の原因の解明、対策の必要性の有無の判断や、必要な場合の対策の内容、作業関連性の有無・個人要因の有無等について調査を行うことになっています。母体が大きく、同系統の作業が社内に多く比較が行いやすい環境では、新たな傷病発生時に、過去の同一疾患の発症例の状況を参考にすることは作業関連性の有無の判断において非常に大きな手掛かりになります。しかし、以前は原則的に傷病報告書と産業医意見書のみを残す方針としていました。そのため、振り返りの際に作業内容がイメージできず、現場を巡視しようとしても作業が変化している、場合によっては作業自体がなくなっているなどの理由で情報が有効に利用できないことがありました。こういった背景を受け、傷病報告書の発行時にその時点での対象となる作業の「負荷評価表の結果」と「作業の動画」を記録として残すことにしました。これによって、振り返りの時点での当時の作業状況把握の具体性が増し、現在起こっている傷病との比較が容易に行えるようになりました。
 このように傷病発生時の記録保存の適正化を目的として行った取組みではありましたが、思わぬ副産物が得られました。産業医面談時の情報収集のツールとしての役割です。記録に残す動画を取る時点では受傷者本人は疾病のため就業できない状態であることが多く、ほとんどの場合で作業者は代理として習熟者が務める事になります。そのため、産業医面談の時点で習熟者の動画を確認することが可能となり、作業動画を見ながら面談を行うことで、負荷評価表だけでは確認できない、「本来の作業手順通りに作業が行えていたか」、「作業への順化は適正に行えていたか」などの情報を本人の発言をもとに得ることができるようになりました。また、面談時に習熟者の動画を見ることによって、自分の作業の非効率な部分や過度の力の入れ具合に気づくケースもあり、これらの情報は職場にフィードバックされ、傷病治癒後の職場復帰の段階で有効に活用されるようになっています。
 2つ目は職場間で発生した、または発生する可能性のある疾病情報を共有するためのツールについてです。始まりは2年連続でキャビン内しゃがみ作業による腓骨神経麻痺の発症が認められた事でした。腓骨神経麻痺ほど原因がわかりやすく、早めの対応が必要となる疾患もありませんが、結果としてこの2職場では、過去の作業関連性疾患の発生状況を共有できていないことが判明しました。確かにそれまでの取り組みでは、傷病報告を中心とした活動によって疾病の原因について解明し、対策につなげる手続き自体はありますが、疾病発生部門へのフィードバックにとどまり、他の部門にその情報を共有することまではできていませんでした。そのため、他部門でおきたケースを参考にして、自分の部門で起きやすい疾患を理解し、予防につなげるような情報共有ツールを作成する方針としました。まずマツダ㈱で起きた過去10年間の傷病報告書を見直してみると、その期間内に3件以上発生した筋骨格系障害は腰痛症・肋骨骨折に加え、ばね指・手根管症候群・ドケルバン症候群などの繰り返し作業による炎症性疾患を中心とした15種の疾患でした。これらはマツダ㈱で発生する疾病全体の実に8割以上をカバーする形になります。これらの疾患の過去の記録を見直しながら、傷病の特徴や、管理上知っておくべき知識、改善活動の例、疾患発生の予防となる筋トレ、ウォーミングアップなどを一覧としてまとめる取り組みを行いました。現場からの要望も取り入れ、障害部位・起こりやすい作業のどちらからでも疾患を検索できるように作成を行い、一覧を会社HPに掲載し、今までは職長就任時教育のような特別な機会でないと触れることがなかった社内で発生している作業関連性疾患の情報をいつでも得られるようにしています。
 例えば「引き金工具を使用する作業で、引き金を引く指以外でばね指が起こった。」といった事例が現場で起こったとします。引き金工具を取り扱う作業に関与したことがあれば、よく経験する状況ではありますが、所属職場での発生がなければ作業者がその対策に気づくことは困難です。こういった際にこのツールを利用し、知識の欄を参考にすると、「作業負荷が高くない場合でも、経験が浅いことなどが原因で必要以上に力をいれ、想定以上の負荷がかかることがある。」「引き金工具を引く指以外にも、工具の振動を制止するために強く握りこむことによって発生することがある」といった記載を見つけることができます。引き続き対策の欄をみると、「作業不慣れによって必要以上の負荷が患部にかからないように作業のコツの指導を行う。」と記載されており、工具使用の際に必要な力や、その回数を改善するだけでは十分ではなく、必要最小限の力で引き金工具を使用すること、つまり過度な力を入れないことや、自工程を十分な時間的な余裕をもって行えるような習熟訓練を行うことが必要となると気づくことができます。
 会社によって、現場で起こる作業関連性疾患は様々です。労働災害防止のための活動意欲はどこも高く行っていただいていると思いますが、そんな中で作業関連性疾患の対策が積極的に進まない理由としては、原因の見える化が進んでいないことが多いように感じます。その解決のための最たるものが作業負荷評価ですが、適切な負荷評価方法の選定・負荷評価は非常に困難であり、また作業負荷軽減のためのハード対策は大きなコストが伴うことも多く短期間で効果的な対策まで進めるのは難しいのが実情かと思います。今後は労働者の減少、作業者の高齢化などの理由から、作業関連性疾患予防の重要性はますます高まることが予測されます。会社の状況に応じた起こりやすい疾病の情報の蓄積、知識の共有を行い、違う視点からの見える化によって作業者・管理者の感度を向上させ、疾病の予防・早期発見、早期治療につなげることも大事かもしれません。
 さて、来年5月には広島県で、日本産業衛生学会を開催することになります。そういった大きな節目のタイミングで代表幹事を務めさせていただくことになったのは大変恐れ多いことでありながら、大きなやりがいを感じています。広島に帰ってきたときの初心を思い出して、学会成功に向けて微力ながら尽力していきたいと考えておりますので何卒よろしくお願いいたします。
各県報告 岡山県報告
岡山県代表幹事
高尾 総司
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
池内 綾介
 今回も岡山県報告というより、やや私的な報告となり恐縮ですが、本年度、産業医科大学(産医大)にて開催された「産業医学基本講座」を受講する機会をえました。本年度は4月に3週間、5月に2週間開催され、その間に宇都宮での産業衛生学会総会が挟まっていたというスケジュールです。朝は8時50分から一コマ90分で5限まで、すなわち日々の終了は17時50分であり、しかも土曜日まで開催されています。20年ぶりくらいの学生生活を満喫し、網羅的な内容に自身の不足していた領域とあらためて向き合える非常によい機会となりました。
 さて、私があまり仔細な内容について言及するといろいろと支障もありますので、今回は、一緒に受講をした池内綾介先生に報告をいただこうと思います。

 みなさま、はじめまして。岡山大学大学院 疫学・衛生学分野の博士課程に在籍している池内綾介と申します。現在、社会医学系専攻医としても勉強、研究に励みながら、嘱託産業医としても研鑽をしております。今回、産業医学基本講座を受講させていただき、非産医大卒の産業医として学び、感じたことをお伝えさせていただければと思います。
 基本講座の全体の感想としては、「良い意味で期待を裏切られた」ということです。産業医の研修を取り巻く現状として、基礎研修会を受講し日本医師会認定産業医を取得した後、産業医としてスキルアップするための選択肢は多くはありません。専属産業医として勤務し、産業衛生指導医のもとOJTを受ける。産業・環境分野の指導医の先生が在籍する社会医学系プログラムに所属し、指導を受ける。この様な方法の他に、自分の産業医活動に対してフィードバックを受け、スキルを向上させる方法はほとんどありません。そのような現状の中、産業医学基本講座は5週間におよぶ集中プログラムであり、産業医資格を取得した後の次のステップとして期待する先生も多いのではないかと思います。実際、私もその一人でした。基礎研修会50単位を受講して、駆け出しの産業医として業務を始めたものの、それだけで乗り切れるほど産業医は甘くありません。日々抱いている疑問や不安を解消してくれる、そんな産業医としてのスキル向上のための期待を胸に北九州へ赴きました。
 今年度の受講生は約90人、そのうち約半数が非産医大卒であり、初期研修を終えた直後の先生から定年退職された先生まで年代も地域も様々でした。また、産業医資格そのものが未取得で、産業医資格の取得が主目的の方が少なくなかった印象です。昨今、基礎研修会の受講倍率が高く受講機会に恵まれず、抽選のない基本講座を選択されたという先生も複数名いらっしゃいました。講座開始当初は話をする友人もいませんでしたが、実習などを通して徐々に輪が広がり、食事や休日を共に過ごす友人も増えていきました。登壇されている講師の先生たちも度々仰っていましたが、こうした横のつながりを作ることは、このような講習会の醍醐味ではないかと考えています。
 さて、話を戻して基本講座の内容について言及しましょう。基本講座で学んだ内容は歴史、法令、作業環境管理、作業管理、健康増進、ストレスチェック、災害産業保健、化学物質管理を含めた有害業務、労働安全衛生マネジメントシステムなど、講義の題目を列挙すればキリはありません。特に、製鉄所の映像を用いた職場巡視の実習や、騒音、局所排気装置の作業環境管理の実習は、産業医科大学だからこそ経験できる内容であり、時間があっという間に終わってしまったという感想さえも抱きました。
 続いて、“裏切られたこと”です。良い意味と期待とは異なったという両面からお伝えできればと思います。まず、期待とは異なった点ですが、講習に臨む前に思っていた疑問点を解消してくれる“実務”の講義は総じて多くはありませんでした。実は産医大の主催する各種講習会の位置づけを確認すれば明白なのですが、文字通り産業医学“基本”講座であり、産医大の修練生は基本講座の後にさらに約2ヶ月間の産業医学“実務”講座を受講します。こちらには実際の職場巡視の講習などがあり、その名の通り実務的な内容を習得する構造になっているのだと理解できました。(非産医大出身者でも受講可能であり、どこかのタイミングで受講できればと考えています)
 次に良い意味で裏切られたことですが、上記の様に自分の求めていた実務的な内容ではありませんでしたが、これまで深く考えていなかった「産業医とは」「産業保健とは」という産業医活動における根底の考え方に直面できたことは、基本講座に参加しての一番収穫だと考えています。自分は実務を学びたいと思い、この講座に臨みましたが、今思い返してみると“実務”として何を学びたかったのかは必ずしも明確ではなく、受講後の現在でも産業医活動における“実務”が何を指すのか、言葉にするのは難しいと考えています。なぜなら、事業所ごとで求められる“実務”は様々である一方で、法令遵守のためだけの産業医ならやるべきことは決まっており、“実務”として単純に列挙することも可能だと思います。しかし、法令遵守のみならず、事業所が望む活動や、事業所がやらねばならないが必要性に気づいていない活動にも産業医として向き合うのであれば、小手先の“実務”スキルではなく産業医活動の目的や産業医のあるべき姿を深く考えることで、自ずと正解に近づき、事業所にて事業者、労働者、産業保健職、それぞれが納得する産業医活動が展開することができるのだと認識できました。
 産業医学基本講座で学べたことは大きく、このような産業医としての本質に迫る講習というのは他にないと考えます。タフな講習会ではありますが、ご興味があり時間を確保できる方はぜひ受講を検討してみてはいかがでしょうか。
各県報告 山口県報告

山口県産業医会 幹事
山田 千佳
 去る2023年2月19日、山口県総合保健会館(山口市)において、第73回山口県産業衛生学会が開催されました。
 メインテーマ「これからの化学物質管理〜規制の限界と対象の拡大〜」、サブテーマ「化学物質の『自律的管理』とリスクアセスメント」と題し、令和4年以降順次改正・施行されつつある化学物質の自律的管理と、その実施に欠かすことができないリスクアセスメントの手法等について、4つの講演と実務講習の内容で実施いたしました。
 基調講演では、日本産業衛生学会許容濃度等に関する委員会 委員長の信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室教授・小児環境保健疫学研究センター長、野見山哲生先生より「化学物質の有害性評価、生物学的モニタリング、そしてリスクアセスメント」との演題でご講演をいただきました。毎年日本産業衛生学会において、許容濃度がいかにして制定されているか、特に有害事象の報告や動物実験等がその決め手となること、有害性の可能性がある物質数に対し、許容濃度が制定できている物質数は追いついていないこと、その点を踏まえても、自律的管理が重要であること等をお話しいただきました。
 次いで特別講演として、山口労働局労働基準部健康安全課の山本幸司課長より「最近の労働衛生行政の動向」と題して、県内の労働衛生関連の状況や法令の改正等についてご講演いただきました。「取り締まる所という印象が強かった労働局ですが、近年は改善策について事業所とともに考える組織とのスタンスに変わってきています。ご活用いただけると幸いです」との言葉が印象に残りました。
 続いて教育講演を二題いただきました。まず橋本安全衛生コンサルタントオフィス所長の橋本晴男先生による「自律的な化学物質管理と産業衛生専門職の対応」との演題で、実際のリスクアセスメントに用いられる手法についてご説明をいただき、特にアセスメントの手法や結果の解釈、対策の立案等には従来の産業保健スタッフのみならず、化学物質管理責任者等の新しい担当者や、作業環境測定士やオキュペイショナルハイアジニスト等、外部の産業衛生技術専門職との協力が不可欠であること、また現時点では数少ない産業衛生技術専門職のスキルアップが今後の課題となること等をお話しいただきました。
 続いて、山口県歯科医師会地域保健担当理事の實能田尚先生に、「歯科保健における産業保健分野と歯科臨床の連携」と題し、特殊健診における歯牙酸蝕症の確認は歯科医師が行うことと改正されたことや、国民皆歯科保健の一環として職域の歯科健診等が推進され始めたことに関するご講演をいただきました。
 その後、「もしも、ある日突然肝機能障害になった人が従業員にいたら」とのテーマで実務講習を行いました。特に過去の健診データや既往歴等からは健康と考えられる労働者が、担当業務が変わって間もなく肝機能障害を生じた事例を取り上げ、原因の特定のためにどのようなデータが欲しいか、事業所内外のどのような立場の方にどのような相談をしたいか等を、各参加者の産業保健における立場毎に考えていただきました。その後参加者を30人前後ずつのグループに分け、山口県産業医会のファシリテーターの進行で意見交換を行っていただき、最後に各グループで話し合われた内容を発表していただきました。
 最後のコマの実務講習を含む全ての日程で、化学物質管理における多職種の連携の重要性の認識を深めることができました。また化学物質のみならず、あらゆる業務上の有害因子対策においても、この手法は応用されるものとの考えを新たにいたしました。
 当日は嘱託産業医活動に従事する認定産業医の先生方をはじめ、県内企業の専属産業医や産業看護職、衛生管理者等173名のご参加を賜り、有意義な会とすることができました。準備段階からご助言ご協力をいただきました山口県産業医会及び山口県労働基準協会の皆様、山口県産業看護研究会の皆様、ご講演をいただきました諸先生方をはじめ、運営にご協力いただきました山口県医師会の皆様、また全ての関係者の皆様に厚く御礼申しあげます。
各県報告 島根県報告
地方での産業保健職の相談体制を作りたい

(株)プロテリアル 安来工場 産業医
岩本 麻実子
 産業保健職は企業に1人~ごく少数で活動を行うことが多く、気軽に相談する相手がいなかったり、特に地方では研修会自体も少なく、若手を十分に育成する指導体制がなかったりする状況があると思います。
 日本医師会の令和元年のデータによると島根県で活動中の日医認定産業医数は266名、従業員50名以上の事業所数は718社とあり、産業医1人当たり事業所数は2.7社と全国平均(5.1社)よりも産業医が充実しているように見えます。一方、産業衛生学会の島根県の会員数は39名(うち医師18名・看護職18名)(令和5年4月現在)とやや少なくなっており、会員が増えてほしいと感じております。
 私の産業医としての経歴を振り返ってみたいと思います。卒後臨床研修を終え母校の環境予防医学教室に入職後、すぐに産業医学基礎研修会に参加し日本医師会認定産業医となりました。大学で生活習慣病の予防研究に携わる傍ら、現職場(旧日立金属)を含め、林業、医薬品・医療機器製造業などの嘱託産業医をいくつか経験させていただきました。その後ご縁もあり現職場の専属産業医・労働衛生コンサルタント(保健衛生)として産業保健一色の10年をすごしてきました。しかし、専属産業医をしている同窓生やロールモデルとなる方が身近にいない中で、実務で困っても気軽に相談できる環境ではありません。当時駆け出し産業医の私1人と看護職2人の少人数体制で2000人規模の健康管理を行うことは容易ではありませんでした。職場の安全衛生の基本は現場の衛生管理者から教えていただきましたし、様々な課題に対しては必要に駆られて都度成書やガイドライン・研修会等で勉強し、ただ目の前のことを一生懸命に試行錯誤しながら対応することを積み重ねていました。当時の統括産業医の筒井保博先生が月に1度、福岡から安来まで来てくださり悩み相談ができたことは救いでした。そして5月の産業衛生学会には必ず参加し、最新の知見を得ながらモチベーションを高めていました。しかし、勉強を続け経験を積んでいても、「独りよがりになっていないか」など、不安や孤独を感じることは多くありました。
 そんな中、コロナ禍をきっかけに、産業衛生学会はハイブリッド方式で開催されるようになりました。これまで人気のシンポジウムや講演には立ち見や会場に入れなかったものもWEB視聴でき、同時間の別会場の講演はオンデマンド配信の期間中に繰り返し学ぶことができるようになったことは、地方で産業保健活動をする者にとっては本当にありがたい、学び方の変化となりました。また、全国の産業保健総合支援センターではWEB研修・動画配信が増え、県外からでも参加できますし、産業保健職のオンラインコミュニティやオンラインスクールがいくつかあることがわかりました。全国どこにいてもWEB環境さえあれば、地方でも十分に学べる環境が整いつつあります。
 私自身は、オンラインスクールの他、現在は福岡産業保健総合支援センターの「福岡産業医の会」にWEB参加し、月1回トピックスの情報交換や議論に参加させていただいています。このような場があることは安心や自信・スキルアップにつながることを実感し、いつか島根県でも相談・情報交換の場を作りたいと考えております。
 そして中国地方会のブロック単位でも、産業保健職同士がつながり、学びあえる、気軽に相談や情報交換ができるネットワークができればいいなと思っています。それは一人~ごく少人数で頑張っておられる産業保健職の方のスキルアップや安心できる場になり、産業保健活動が活性化し、ひいては学会員の増加・地方会の活性化につながると考えております。
各県報告 鳥取県報告


鳥取大学 国際乾燥地研究教育機構
大谷 眞二
 鳥取県の産業保健関連の最近の動きについて報告いたします。
 まず、産業保健関連団体の活動状況の概容ですが、パンデミックにより中止もしくはオンライン開催であった産業医研修会や関連の会議は、令和4年度からは大半が対面で実施されるようになりました。それでも、会場の人数制限などあり資格更新の方々には不便であったかと思われます。鳥取県医師会が主催する産業医研修の基礎研修ですが、令和4年度は例年どおり対面で年3回実施され、計277名の産業医が参加しました。また、令和3年度はオンラインであった鳥取県医師会、鳥取労働局などが合同で開催する鳥取県産業保健協議会も令和4年度は対面での実施となり、新型コロナウイルス感染症に関する労災補償などをテーマに議論が交わされました。
 ついで、令和3年度の長時間労働が疑われる事業場に対する鳥取労働局の監督指導結果が昨年度末に公表されたので、簡単にご紹介します。これによると、鳥取県内で違法な時間外労働があったのは、調査対象354事業場のうち100事業場(28.2%)で、全国平均の34.3%より低い割合でした。しかし、健康障害防止に関する指導状況において、労働時間の把握が不適正なものは77事業場(21.8%)で、全国平均の15.9%より高い比率でした。私自身が産業医として関わっている事業場においても、勤務実態が正確でない案件が指摘されることがあり、「働き方改革」の基盤となる勤務時間の適正な把握にはまだまだ時間がかかるようです。
 本来、働き方改革は、厚生労働省が一丁目一番地に掲げているように、「働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにするための改革」であるはずです。しかし、いまだに勤務状態の適正な把握が十分でないこともあり、結果的に「働き方改革=長時間労働の削減」という単純な図式になっています。2024年から開始予定の「医師の働き方改革」も目前に迫っていますが、こちらも勤務時間の面だけ取り沙汰されているような印象を受けます。真の「働き方改革」にはまだまだ時間がかかりそうであり、本学会の果たす役割はますます重要になってくると考えています。
編集後記
日本産業衛生学会中国地方会 会長
神田 秀幸
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科公衆衛生学
 COVID-19の感染症法5類移行を受けて、私たちの生活は徐々にコロナ流行前に戻りつつあります。人々の移動に伴い、直接交流ができるようになり、久しぶりの対面を喜ぶ姿をあちらこちらで拝見するようになりました。一方で心配するのは、全国各地で大きな地震や豪雨など自然災害が多発するようになりました。災害発生の時期を予測するのは極めて困難です。日頃からの防災意識、また災害での被害をできるだけ減らす減災を意識する必要性が高まってきているように思います。事業場で行われている防災訓練は、災害発生時に活かせるよう緊張感をもって、本番さながらに行われることを切に願います。
 さて本号は、学会のご連絡や各県の取組みを中心に盛り込んだ紙面で構成することができました。多くの執筆者の皆様方からご寄稿頂きましたことに感謝申し上げます。労働者の皆さんの健康・生命が職場で脅かされてはなりません。先行きがみえない不安定な時代の中で、職場や地域に根ざした活動、人と人をつなぐ産業保健ネットワークがよりどころになり、支えにつながることと思います。掲載紙面を拝見して、揺らぐ社会・変わる世界において、皆様がお取組みになっている産業保健活動は、働く人の健康を守り、快適な職場の形成に結びついていることを実感致しました。日頃からの先生方の活動に心より御礼申し上げます。
 中国地方会は、来年2024年5月に開催されます第97回日本産業衛生学会(全国学会)を主管とし、広島市平和公園ゾーン(広島国際会議場、中国新聞社ビル)で行うこととなっております。企画運営委員長真鍋憲幸先生のリーダーシップの下、中国地方会一丸となってこの学会運営に当たっていきたいと思っております。皆様方のご協力のほどをどうぞ宜しくお願い申し上げます。
 “一難去ってまた一難”の言葉が示すように、油断できない時代に突入したように思えてなりません。歴史上、関東大震災の起こった大正時代に類似しているとも、天災や飢饉が相次いだ鎌倉時代末期に類似しているとも言われています。今こそ、先人たちの教訓をふり返り、健康や生命を守ることを再考してみるのも価値があるように思えてなりません。
 中国地方会においても皆様方の叡知を結集して、難を乗り越え、新しい時代に健康や生命がつなげるような学会運営・地方会運営に尽力しなければと思う次第です。今後とも地方会活動にご理解とご協力のほどをどうぞ宜しくお願い申し上げます。